Who You Are(フーユーアー)君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる
Who You Are(フーユーアー)君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる
ベン・ホロウィッツ 著 / 浅枝 大志 ・ 関 美和 訳 / 日経BP / 1,980円(税込) / 312ページ

 本書に紹介されていた転職の平均回数11~12回には及ばないが、私自身も過去に6回転職をしている。そういえば新たな会社に出社する第一日は、何度転職をしていても独特の緊張感と興奮、そしてちょっとした落胆に陥ることもある。採用面接の時から感じていた、親友に自慢したくなるようなワクワクした気持ちと、時にそのワクワクを打ち消されるような落胆がある。自分にかけられた言葉から、このような感情がわき起こるわけではない。リーダーや社員のほんの小さな行動が、心を動かすのだ。

 会議室にいつもドーナツがあることや、休憩室にマッサージチェアがあることだけでは企業文化は語れない。それよりも、仕事場に入った時の人を受け入れる表情の柔らかい社員の多さやリーダー不在時の判断や言葉の選択――それぞれの企業の独特な文化は、そんなものに現れる。筆者は、シリコンバレーのベンチャーキャピタルで活躍する経営者である。自分自身が起業した際にアドバイスとして受けた「企業文化に気をつけろ。なによりも文化が重要だ」という言葉から、著者の企業文化への観察と考察はスタートする。本書は、良い文化が成功を約束するわけでなく、一般的に悪いとされる文化でも成功を果たすことがある前提を述べたうえで「文化をつくる」実例を歴史的人物や数企業の事例から紹介している。

 筆者がヒューレット・パッカード社在籍時に経験した「在宅勤務」では、多くの社員が全く働いていない幽霊社員だった。リーダーも社員も、自分も相手も「気にかけ」ることなく「どうせできない」文化から、リーダーが行動を変えて「きっとできる」文化に変わったストーリーは興味深い。企業文化で最も重要な要素は、格好良い文言の提示ではなく、リーダーも社員も互いがどれだけ「気にかけ」、行動に移しているかに比例するかだ。

 さらに歴史を振り返り、元奴隷ながらハイチ独立に奮闘したルーベルチュル、チンギス・ハンや日本の武士道など時代背景や政治状況が異なる事例を取り上げ、いずれもリーダーの「行動したこと・しなかったこと」が組織の文化として形づくられていく過程が丁寧に紹介されている。

 本書は、よくある成功原則を並べた本ではない。各社の戦略の実現に向け、意志をもって文化を選んだ(またはつくった)各リーダーの「行い」の集積を文化づくりとして紹介したストーリー集である。自身をリーダーとして自覚した誰もが「私たちは何をするか」そして「私たちは何者か」を再定義し、自身の行動の一つひとつが自分と企業文化をつくると示唆を得ることができる。現在、コロナ禍で世界中の誰もが働き方と生き方の再構築を迫られるなか、あらためて行動と文化を学びたいすべての人にお勧めする良書である。

参考書籍

THE TEAM 5つの法則
麻野 耕司 著 / 幻冬舎 / 1,650円(税込) / 282ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。