池照 佳代
アイズプラス 代表取締役

フォーカス
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ダニエル・ゴールマン 著 / 土屋 京子 訳 / 日本経済新聞出版社 / 1,836円(税込) / 368ページ

 人の前に立つ仕事を時々していると、参加者の集中が途切れる瞬間に出くわすことがままある。資料の他のページを先読みする、聞いているようで上の空、そしてスマートフォンをいじりだす、実は前に立つとよく分かるものだったりする。だが、参加者側なら私も同じだ、自覚がある。「人はなかなか集中できないものだ」と自分でも注意散漫に人の前に立っていたりする自分を恥ずかしく思う。

 著者のダニエル・ゴールマンは、『EQ(情動の知性)』に関する著作で有名であり、本書でもEQをベースとした共感や集中力について、様々な場面での事例と訓練方法が紹介されている。集中力には、自己への集中、他者への集中、外界への集中の3つに分類ができるとしている。リーダーの立場にある人が結果を出すためには、3種類の集中力すべてが必要であり、本書では様々な組織や個人のエピソード紹介がある。

 グーグル社ではIQでトップ1%の人材しか採用面接を受けられないという噂のある中、彼がEQに関する講演をした際には、本社で最大の会議室でも人が入り切れないくらいの反響があった。後日、創設された自己認識力を高めるためのEQ研修コースは、個人がマインドフルネス瞑想などの実施を通じ、内面的な指針をもつことでさらに視野を高め、ビジネスにプラスの効果を生み出すことを実践している。現在、このコースは社外でも展開されている。

 実は数年前、日本に紹介されたこのプログラムを体験させてもらった。内容はEQの概要や禅の考え方を含んだこのプログラムのコンセプトの解説の後、その後人気が急上昇した「マインドフルネス」を体験するものだった。確か100名に近い参加者一同で実施した「マインドフルネス瞑想」は、これまでビジネスの場ではあまり経験のない強制的な静寂をつくっている違和感があったことを覚えている。

 ただ不思議なことに、何度か繰り返していくうちに確かに注意や集中が自らコントロールできてくるような感覚になっていく変化も感じた。この感じ方や受け止め方にはかなり個人差があると考えられるが、情報に囲まれ、ますます複雑に変化するビジネスに身を置く人々が「意図的に創りだす集中と注意の場」を自ら取り入れようとすることは理解ができる。グーグル社では、毎回がキャンセル待ちのプログラムということだ。

 単に頭が良い、というだけで成功が約束されている訳ではなく、隠された鍵は何かというのが原題のサブタイトル“The Hidden Driver of Excellence”である。本書では、その鍵が「集中力」と「注意力」であるとして、それは何を指すか、その鍛え方の事例、そして優れたリーダーの条件との関係を解説している。

 従来とは少し異なる視点から個人と組織の可能性を広げることに興味のある方々には、得るものがある一冊としてお勧めしたい。そして私自身も、「人の話をしっかり聴く」ことにしっかりと「注意と集中」が向けられるよう、本書にある鍛え方を実践したいと思っている。

参考書籍

『EQリーダーシップ 成功する人の「こころの知能指数」の活かし方』
ダニエル・ゴールマン、リチャード・ボヤツィス、アニー・マッキー 著 / 土屋 京子 訳 / 日本経済新聞社 / 2,160円(税込) / 352ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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●ブログ http://isplus1.hatenablog.com/
●フェイスブック @iketeruisplus

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。