ダイバーシティ&インクルージョン経営  これからの経営戦略と働き方
ダイバーシティ&インクルージョン経営 これからの経営戦略と働き方
荒金 雅子 著 / 日本規格協会 / 1,650円(税込) / 246ページ

 日本の企業施策においてダイバーシティ&インクルージョンが聞かれるようになってから、およそ25年がたとうとしている。本書の定義では、ダイバーシティ&インクルージョンとは「組織で働く一人ひとりがそれぞれの強みを生かし、その人なりに組織に貢献し、新しい価値を生み出す」である。では、この25年で日本の組織は、この施策によってどのような変化を遂げたのだろうか?

 近年、施策の導入や活動は大企業のみならず、中小企業にも広まっている。厚生労働省が公表している「女性の活躍推進企業データベース」では、情報を公表している企業数と行動計画を公表している企業数は、ともに1万社を超えているが、多くの企業ではダイバーシティ施策は女性活躍施策のみという一部の側面や形ばかりの導入にとどまっている。女性活躍は進んでいるかといえば、世界的な基準でみれば日本の男女格差はいまだ根強く残っており、2019年度の「ジェンダーギャップ指数」は過去最低の121位である。

 私自身も多くの企業の人事制度や施策に関わるなかで、日本企業ではダイバーシティ(多様性)という言葉の理解が進んでいると感じている。多くの場合、女性活躍推進に代表される多様な属性に対する対応策からスタートし、近年ではより「個の違い」に焦点を当てたコンセプトや施策を適用する企業が増えている。言葉としての定義や理解はある程度進んでいる一方、現場では総論として同意しつつも、各論では難色を示すのが現在の状況ではないだろうか。大きなコンセプトとして「あるべき」方向性として理解は示すものの、自組織の真に「ありたい」姿には合致していないのである。原因も多様ではあるが、そのうちの一つはダイバーシティとセットになっているインクルージョン(包含)の意義と重要性が示されていないことだと考えられる。

 著者である荒金氏は長年、日本のダイバーシティ経営に携わっている専門家である。同氏が今回テーマとしているのが、このインクルージョン(包含)である。ダイバーシティが組織における多様性に対応し、制度やしくみを整えるフェーズを指すとすれば、インクルージョンは環境の中で誰もが信頼と安心を感じながら個々の力を発揮できる組織風土を作り出すことを指す。本書は、これまであまり語られることのなかった「インクルージョン」に焦点を当てている。本質的なダイバーシティ&インクルージョン経営を中心に人事、人材育成担当者、そしてダイバーシティ&インクルージョンを組織の力にしていこうとするすべての組織のリーダーが抑えておきたい「ESG」や「SDGs」「アンコンシャスバイアス」などの関連項目も包括的に解説されている良書である。

 コロナ禍の働き方の変化によって、メンバー一人ひとりの違いを見いだすダイバーシティ・マネジメントが大きな注目を集めている。トップダウンでダイバーシティ経営コンセプトを発信するばかりでは、現場での変化は遅々として進まない。各現場で一人ひとりがより力を発揮する環境や状況を創り出すしくみや風土づくりといったインクルージョンを取り入れることが新しい働く環境づくりのカギとなるのである。

参考書籍

ダイバーシティ・マネジメント入門|経営戦略としての多様性
尾﨑 俊哉 著 / ナカニシヤ出版 / 2,420円(税込) / 176ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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