「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない
「アンコンシャス・バイアス」マネジメント 最高のリーダーは自分を信じない
守屋 智敬 著 / かんき出版 / 1,512円(税込) / 192ページ

 私が外資系企業の人事責任者をしていた頃、社内の郵便物集配や文具などの備品管理をする総務担当者の求人広告を出した。

 外資系なので以前から雇用均等の意識は高い。採用チームは性別や年齢などは限定せずに、職務内容や待遇、社内風土などを記載した。ほどなくして性別や年齢は書かれていなかったが、それまでの経歴、志望動機や仕事にかける熱意が丁寧に入力された応募フォームがきた。すぐに連絡をとり面接したのだが、募集した私たち採用担当が驚いてしまった。若い男性だったからだ。

 「総務担当者」と言えば、これまで比較的キャリアが浅い若い女性であることが多く、今回も同様の人が応募してきたと採用担当は思い込んでいたのである。比較的雑多な用事も依頼するこの仕事に関しては、誰もが「キャリアが浅く若い女性なら依頼がしやすい」「総務の仕事は女性の仕事」と勝手に思い込んでいたのである。

 「仕事が頼みにくくなるなら今回はお断りしましょうか?」という職場での質問に対し、「いえいえ、ぜひお会いしてみましょうよ。新しい風になるかもよ」と言った私も、社内で“当たり前”とされてきた思い込みを変えられる自信があったわけではなかった。

 仕事の現場は“思い込み”に溢れている。

 シニアはPC業務が苦手、小さな子供がいる女性には出張は無理だ、管理職は男性の方がうまくいくなど、まだまだ仕事の現場で聞かれる言葉である。このような”思い込み“や”決めつけ“は、「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれる。

 アンコンシャス・バイアスとは、「脳がストレスを回避するため」に自分にとって都合のよい解釈をすることによっておきる無意識の偏見のことである。ということは、誰にでもアンコンシャス・バイアスがあり、また、誰もが“無意識”に行っている。よって、自分では気づきにくい。

 筆者は多くの企業で、この「アンコンシャス・バイアス」に関する研修を実施し、仕事の現場で起こるアンコンシャス・バイアスの影響と向き合ってきた。

 本書は、特に組織のリーダーに焦点を当てている。一人ひとりがこのバイアスに気づくための事例、組織パフォーマンスへの影響、そしてバイアスに振り回されない関係づくりとチームづくりについて丁寧に紹介している。また、バイアスに気づき、適切に捉え、対応するためのステップも示されている。

 前述の総務担当者として応募してきた男性は採用されることになった。コミュニケーションが上手で、社内のこまごまとした依頼にも積極的に取り組み、スキルも高い。何より彼自身が仕事に前向きな姿勢を持っている。「いいねー、男性の担当も!」 彼の存在はこれまで固定化されていた仕事のジェンダー(男女)役割の固定概念を破るきっかけに変わっていった。

 誰もが「アンコンシャス・バイアス」を完全になくすことはできない。

 ただ、これを組織の共通言語として一人ひとりが意識し、互いに対話できる環境をつくることは可能である。

 そして、この視点は仕事の現場だけのものではない。人生の中で誰もが向きあう、周囲との人間関係構築や、自身の思い込みの壁を破るのに役立つ視点でもある。リーダーが自分自身を過信せず、「あれ、これは私のアンコンシャス・バイアスでは?」と気づくことが組織をよりよく変えていく一歩となる。組織のリーダーはもちろん、社会で働く人なら誰もが手に取ってほしい。自分の無意識に気づくことができる一冊である。

参考書籍

あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです―信頼されるリーダーになるたった1つのこと
守屋 智敬 著 / 大和書房 / 1,512円(税込) / 192ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。