データ・ドリブン人事戦略
データ・ドリブン人事戦略
バーナード・マー 著 / 中原 孝子 訳 / 日本能率協会マネジメントセンター / 3,024円(税込) / 332ページ

 学生に「データの外部提供」に関する同意を得ないまま、学生の行動履歴から内定辞退率を予測し、そのデータを企業に有償提供していた問題が大きく報道されたことは記憶に新しい。指摘をうけた企業はすぐにサービス提供を中止したが、新たな領域として注目度が高まっていた「人事領域でのデータビジネス」に与えた影響は大きい。

 これまで定性的な「人」志向だった人事・人材育成領域では、近年、データや数値を単なる記録とするだけでなく、経営目標達成に生かす考え方が急速に広まっている。今回のケースでは、データの扱い方に企業の倫理やコンプライアンス面での視点が追い付いていないと言わざると得ない。

 現在、採用からパフォーマンス、トレーニングや労働時間、社内風土や健康調査まで、社員に関するほとんどの要素は測定可能であり、事実、多くの企業で各項目のデータを取得している。日々蓄積されるデータ量は、当たり前だが膨大な量だ。これらデータを一人ひとりのパフォーマンス向上のみならず、組織の経営目標に対する指標として抽出し生かすことが「データ・ドリブン人事戦略」である。この書籍は、このデータ・ドリブン戦略についてグローバルな視点からひもとく一冊だ。

 データを生かすことにより、これから本当に何が起こるのか、我々の仕事の位置づけがどう変化するのか、それによって我々自身がどう変化すべきなのか。未来のことはまだ誰にも予測がつかない。ただしこの書籍では、テクノロジーを活用する人事のあり方について多角的に解説し、豊富な事例をもとに人事の様々な領域に示唆を与えてくれる。また、冒頭で紹介した問題のように、データ活用の潜在的な課題となる倫理、セキュリティー、ガバナンス的視点についても豊富な事例とともに紹介されている。そのどれもが唯一の正解を示しているわけではないが、自社の活動を考察する際の大きなヒントとなるだろう。

 私がまだ駆け出しの人事パーソンだった頃、仕事の多くは社員に関する様々なデータを記録することであった。日々蓄積したデータは自身の仕事の範囲で活用するだけであり、目の前のデータが経営に貢献するイメージはわかなかった。

 自分自身が経営に携わるようになった現在は、時代の変化とともにデータの使い方が変化していることを痛感する。データを読み取るだけでなく、統合し洞察する、そして時にデータからストーリーを紡ぎ出すことができることも理解しはじめている。データから生まれるストーリーは時に人々を動かし、ビジネスや世界を変える力をもっている。もちろん、データを扱う人間のリテラシーが大きく影響する。我々人事・人材育成を担当する立場からは、データを学びつつリテラシーを高め、人と組織を勇気づけ、未来にむけて動かす原動力にするデータの「生かし方」を身につけていきたいものである。

参考書籍

HRテクノロジーで人事が変わる
労務行政研究所 編 / 労務行政 / 2,916円(税込) / 283ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。