敵とのコラボレーション――賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法
敵とのコラボレーション――賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法
アダム・カヘン 著 / 小田理一郎 監 / 東出顕子 訳 / 英治出版 / 2,160円(税込) / 208ページ

 「あの人たちとはとうてい一緒に働けない!」今回紹介する書籍に掲載されているセリフは、私自身がある企業の組織改革プロジェクトをリードしていた時にも聞いたセリフだ。

 これまで様々な企業や団体で周囲を巻きこんで進めていくプロジェクトをファシリテーション、またはリードする仕事を10年以上続けているが、そのうち何回かはこのような完全な拒絶からプロジェクトがスタートしている。表面上は取り繕うことができるが、一度、相手に嫌悪感を抱き信頼を欠いてしまった場合、そもそも協働することは難しい。

今回の書籍は、賛同できない人、好きではない人だけでなく、信頼できないと感じる人、すなわち“「敵」とみなしている人とどうコラボレーションするか”がテーマである。

 賛同できない人、「嫌だ」と思う人を私たちは容易に敵ととらえる。著者は、この相手を敵とみなす姿勢が、コラボレーションを妨げる最大の要因と指摘している。これはコラボレーションこそが唯一の道としている従来の私たちには不都合なことでもある。

私にとってこの書籍からの最大の気づきは、著者がコラボレーションを必須としていない事であった。

 より複雑な問題を解決するための方法には、強制、適応、離脱、そしてコラボレーションの計4つがあり、状況への関与や現状への耐性を判断して最適な方法を選択することからスタートするという。ただし、たとえコラボレーションを選択したとしても、これまでのような全員が合意同調し、意図した通りに結果を出すという前提の合意形成では機能しない。

 本来、多様な他者とコラボレーションする時は、そもそも一つの真実、答え、解決策への合意は確約できない。そのような合意がないまま、あるいはそれを超えて一緒に前進する方法を見つけることが必要なのである。

 本書には、この前進につなげる方策として「ストレッチ・コラボレーション」を紹介しており、これを創り出すための3要素として相手との関わり方、チームでの取り組みの進め方、自分自身の関与の方法が具体的に紹介されている。また、後半にはこのストレッチ・コラボレーションを導くためのステップやフレームワークも紹介されているため、自ら挑戦することも可能である。

 「協力したくても難しい人と一緒に仕事をするには?」を考えたことがない組織人はいないだろう。私自身もこの葛藤と戦ってきた一人だ。本書は、「難しい人だ」と勝手に相手のことを敵とみなしていた自分と、コラボレーションはすべきものと決めつけていた自分のバイアスに気づくことができた一冊であった。人事・人材育成担当者のみならず、「協働を進めたい」と願うすべての人に手に取っていただき、自らの視点を客観的に見直すことに役立ててほしいお薦めの一冊である。 

参考書籍

自意識(アイデンティティ)と創り出す思考
ロバート・フリッツ 著 / ウェイン・S・アンダーセン 著 / 田村 洋一 監訳 訳 / 武富 敏章 訳 / Evolving / 2,484円(税込) / 264ページ

池照 佳代(いけてる・かよ) 株式会社アイズプラス 代表取締役
池照 佳代

 約14年間、マスターフーズリミテッド、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザー等で一貫して人事を担当。2006年法政大学経営大学院在学中に同社を設立。人材・組織開発コンサルタントとして、企業向けに人材採用・教育、人事制度設計支援・コンサルティング、ダイバーシティ・女性活躍推進施策企画、エグゼクティブコーチング、EQ(感情知性)開発支援を提供している。加えて、NPO法人キーパーソン21(キャリア教育の全国普及)理事、NPO法人IC(インディペンデントコントラクター)協会理事として活動。キャリア、働き方、起業支援や講演も多数。CDA(キャリアデベロプメントアドバイザー)、EQGA公認トレーナー。SEI EQプラクティショナー・アセッサー(国際認定資格)。The Bob Pike Groupプロフェッショナルトレーナー。
●アイズプラス https://is-plus.jp/
●ブログ http://isplus1.hatenablog.com/
●フェイスブック @iketeruisplus

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。