中村文子
ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役

 人に何かを教える時、言葉だけで説明しようとするより、ビジュアルを活用した方がより効果的です。さらに良いのは、お手本を見せることです。これには異論はないでしょう。

 では、皆さんの組織で行われている研修では、その研修内容について、社内に「お手本」となる人はいるでしょうか。「お手本」がいれば、研修で学んだ内容について「お手本」を見る機会があるわけですが、「お手本」がいない場合は工夫が必要です。

 例えば、何か新しいスポーツを学ぶ場面を想像してみてください。そのスポーツのプレーを見たことがあれば、どんな動きをするのかなどをイメージできます。しかし、一度も見たことがないスポーツは、いくら言葉で説明されてもイメージがわきません。野球を見たことがない人に、バットを持ち、構えて、振る、という動作をお手本を見せずに教えるのは、至難の業です。
「バットは、細い方を下にして持ちます」
「バットを立てて体の方に引き寄せます」
……
野球を一度も見たことがなければ、この言葉だけでは何をどう動かせばいいのか、さっぱり伝わりません。これに対して、プレーしたことはなくても見たことがあるならば、伝わり方は全く異なるでしょう。

 研修でも同じことがいえます。全く新しいコンセプトや、現状とは異なる行動パターンを学んでほしい場合などでは、お手本がなく概念的な言葉で説明するだけでは伝わらないのです。

 ですが実際には、概念を伝えてすぐに練習しましょう、やってみましょう、というデザインになっている研修を見かけることがあります。それは、野球を見たこともない人に、プロ野球の素晴らしさを伝えて、「では、皆さん、やってみましょう!」とグラウンドでいきなり練習試合をさせるようなものです。それで身につく人はごくまれなのではないでしょうか。

概念的な理解だけでは身につかない

 営業スキルの研修で考えてみましょう。これまではどちらかというと「御用聞き」のようなスタイルの営業を行っていたとします。顧客に言われたことを確実に実行するスタイルです。これを「コンサルティング」型の営業にシフトすべきだという経営判断があり、コンサルティング型営業のスキル研修を行っているという状況だとします。

 社内に「コンサルティング」型の営業ができる人がいなければ、「お手本」が存在しないことになります。自分が客の立場で「コンサルティング」型の営業を体験したことがあればいいのですが、それもなければ、本当に「見たことがない」という状態になります。

 そんな状況で「まずは顧客のニーズを理解しましょう!」「効果的な質問を投げかけて、顧客の真のニーズを見つけましょう」などと概念的なことを言われても、具体的にどうすればよいかのイメージはわかないのではないでしょうか。

 「まずは顧客のニーズを理解しましょう!」「効果的な質問を投げかけて、顧客の真のニーズを見つけましょう」という概念的な言葉は、正論なので、反論はないかもしれません。ですが、危険なのは、ここで分かったような気持ちになってしまうことです。

 講師は、より具体的イメージをわかせるために、自分の体験談を話したりするかもしれません。その体験談が面白ければ、「面白い研修だった」となるでしょうが、参加者が自分に置き換えて、具体的な言動として何をすればいいかは見えないままだったりするのです。具体的な言動というのは、どんな言葉を発したらいいのか、顧客の返答に対してさらにどんな質問を投げかけたらいいのか、その時の表情や声のトーン、ボディランゲージなどはどういうものが適切なのか、というスキルとして練習し、習得する必要があるでしょう。