例えば、配属先から「今年の新人は挨拶ができない」という声が聞こえてきました。よくある話ですよね。これはKSAの何が不足している可能性がありますか? おそらく最も一般的なのは「社会人としての心構えがまだできてない」などという、態度・姿勢(A)が不足しているという反応ではないでしょうか。

 でも本当にそうでしょうか。もしかすると、「顔見知りの人には当然挨拶をするけれども、そうでない人にはいきなり挨拶をしても失礼かもしれない」という認識かもしれません。つまり「この会社では、知っていても知らなくても、すれ違う人には全員に挨拶をする」というルール?を知らないのかもしれないのです。その場合、不足しているのは態度・姿勢(A)ではなく、知識(K)です。

 「それくらい常識でしょう!」という意見もあるとは思いますが、「知らない人に話しかけられても、返事したりしてはいけません」と子どもの時から教育されていたとしたら、社会人となった今はルールが変わる、ということを知識として学び直す必要があるということだとも言えませんか。

 このように考えると、知識(K)やスキル(S)が不足しているのに、「モチベーションが足りない」「自覚がない」と、態度・姿勢(A)の問題にすり替えられてしまっていることがとても多いように感じます。

 逆のケースもあります。知識(K)やスキル(S)は備わっていて、態度・姿勢(A)が不足している場合です。言い換えると、やればできるのに、軽視している、やる気が低下している、という状況です。

 例えば、書類の提出期限を守れない新人Aさん。期限までに提出しないといけないことは分かっていますし、書類作成のスキルがないわけでもありません。翌日の朝一番に出せばいいか…と少し甘い認識です。

 この場合、「仕事の段取りができてないから、時間管理の研修に参加してもらおう」ということではありませんよね。「甘い認識」ではダメだということを、上司からコーチングする必要があるでしょう。

 というように、本当は知識(K)またはスキル(S)が不足しているのに、態度・姿勢(A)の問題だと判断したり、態度や姿勢に改善の余地があるのに、知識やスキルを教えたり…ということが起きていないか、今一度分析してみてください。

受け入れ先のマネジャーと新人研修のゴールを共有する

 新入社員研修についての考察の2つ目の観点は、新人を受け入れる部署のマネジャーとの期待値のすり合わせです。

 多くの会社で、最初の数日間から数週間は、人事部が統括して新人研修を行い、終了後に各部署に配属され、その先は配属先で具体的な業務を学ぶ、という流れでしょう。

 その際、人事が統括している研修が終わった時点、つまり配属先に引き継がれる時点で、何がどこまでできるようになっている状態かを、どれくらい具体的に設定しているでしょうか。言い換えると、人事が統括する新入社員研修の到達ゴールが具体的になっていて、それについて、人事と受け入れ側が共通認識を持てているかということです。そのためには、企画の段階から人事と受け入れ側のマネジャーの協力体制が必要ですね。

 「仕上がり/一人前/一通り/社会人としての自覚/●●の社員としての自覚」のような抽象的な表現が使われていると、認識のずれが起きる危険性が高くなります。企画の段階から、人事部だけで進めるのではなく、人事部の顧客、つまりは受け入れ側のマネジャーのニーズをよく理解して、ゴールに向けてマネジャーもうまく巻き込み、協力体制を作っていければベストですね。

 この時期、人事の担当者の方とお話しすると毎年のように聞かれる声が、
「人事は限られた時間の中で精一杯やっていると思っている」
「苦労して採用して、大切に育てたのだから、送り出した後も気がかりでたまらない」
「受け入れ側は、どうせ人事の研修だけでは即戦力にならなくて、手がかかると思っている」
などです。

 人生の大きな節目を迎える新入社員の皆さんが良いスタートが切れるよう、しっかり企画したいですね!

中村 文子(なかむら・あやこ) ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役
中村 文子

 大阪府出身、神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科 卒業。マイクロソフト株式会社名古屋営業所 勤務を経て、P&Gジャパン、ヒルトン東京ベイにて人材育成・組織開発に従事。2005年より現職。2006年にASTDのカンファレンスで人材育成の世界的権威、ボブ・パイク氏のセッションに初参加、大きな衝撃を受ける。トレーナー認定のプロセスを経て、2007年秋、日本人初のトレーナーとして認定される。専門分野は、トレーナー養成、ホスピタリティ、管理職研修、ビジネスコミュニケーションスキル研修など。ホテル業界、製薬会社、電機メーカーなどの業界で、活動中。早稲田大学エクステンションセンター、日経ビジネススクール、日本能率協会にて、講師実績あり。
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●中村文子ブログ
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※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。