中村文子
ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役

 職場で部下や後輩に指導する立場にある方に、OJTの方法を研修することがあります。今回は、精神面での支援やメンター的な関わり方ではなく、より具体的な業務を教えたり指導したりする場合に焦点を当て、そんな場面で上司・先輩によくある誤解について解説いたします。

「一度しか言わないからよく聞いて」はなぜ間違いか

 誰かに何かを教える際に、「一度しか言わないからよく聞いて」という表現は効果的でしょうか? と問いかけると、以下のような答えがよく返ってきます。
「これから大切なことを言うということが伝わり、集中して聞いてもらえる」
「ちゃんと聞かなくてはいけないという緊張感が出てよい」

 一見正しいように思えるかもしれません。また「一度しか言わないからよく聞いて」と自分自身も言われて成長したという人も多いです。ですが、これは正しくありません。

 脳科学的には、何かを短期記憶から長期記憶へ定着させるために有効な方法として、「繰り返す」という考えがあります。つまり、大事なことであればあるほど、一度ではなく、繰り返すことによって、長期記憶への定着をサポートする必要があるのです。また、ストレス状態にある脳はうまく学習できないというのも定説です。つまり、「一度しか言わないからよく聞いて」という前置きは、この両面からむしろ効果を下げてしまっているのです。

 ではどうすればいいのでしょうか。「これから大切なことを説明するので、よく聞いていてください。そして分かりにくい点があったら、いつでも質問してください」と安心感を高める方がよいのです。さらに、一度説明するだけではなく、理解できているかどうかの確認の質問を投げかけたり、理解したことを自分の言葉で表現してもらうなどして、情報を繰り返すことで、長期記憶への定着を図ります。