研修講師の責任と求められるスキル

 研修という場には、講師と参加者が存在します。参加者が研修内容をしっかり理解するためには、どちらの人の責任がより大きいでしょうか。

 「講師が分かりやすく話す責任がある」と考えることもできますが、「参加者がまじめに取り組んで理解するよう努めるべき」と考えることもできます。

 日本の文化では、従来、どちらかというと後者の考えが一般的でした。先生が持っている豊富な知識を学ばせていただくので、学習者の側が一生懸命に勉強して先生の教えを理解する責任があるということです。学習者が理解できなかったとしたら、それは学習者の努力や理解力不足であり、先生の教え方が問われることはまずありませんでした。残念ながら、今でもこうした考えを持って研修や授業が行われている場面が少なくありません。

 ですが、研修において現在の考え方の主流はそちらではありません。参加者の理解を助け、さらに学びを実践するように支援するのは、講師の大切な役割です。分かりやすく話すスキルが求められるのは当然ですが、学びやすいようなデザイン(組み立て)を準備することも、重要です。

「分かりやすく話すスキル」の代表的なもの
●話すペースや間の取り方
●声の抑揚、メリハリ
●適度なジェスチャー
●アイコンタクト
●専門用語や難しい熟語ではなく、分かりやすい言葉を使う
●実践に向けてのイメージが作れるよう、
 具体例、経験談などを活用する

「学びやすいデザインの工夫」の代表的なもの
●講師が一方的に話す時間は10分以内にとどめる
●問いかけて、参加者が考えることで参画させる
●過去の経験やすでに持っている知識を活用する場面がある
●リフレクション(振り返り)の時間があることで、
 情報の整理や落とし込みができる
●ディスカッションやワークを通じて、学びを深める
●研修の場でしかできないような体験を提供する
●学んだ内容を職場でどう実践するかを考えたり、
 共有したりする時間がある

 話し手は、こうしたスキルを駆使して参加者の理解を助け、さらに学びを実践するように支援する責任があるのです。分かりやすくいうと、研修中に眠そうな参加者がいるとしたら、それは眠くなる研修を行っている話し手側の責任なのです。

 講師を依頼される人は、その研修テーマについての知識や経験が豊富であり、シェアするに値するものを持っていることは必須です。ですが、その分野にたけているからといって、話すスキルがありデザインもできる、ということにはなりません。それには別の知識やスキルが必要なのです。

セミナーの成功は、講師の話術しだいか?

 ではセミナーの場合はどうでしょうか。

 まず、研修とセミナーの違いはなんでしょうか。研修は「業務上必要な知識・スキルを習得する場」であるのに対し、セミナーというのは、必ずしも業務とは関係のないテーマである場合もあり、興味あるトピックについて自由参加できるような性質のものを指すことが多いようです。

 また、企業が顧客に向けてセミナーを開催する場合、プロモーションや営業的な意味合いが強いものも多く存在します。興味を持っている顧客に参加してもらい、見込み客を獲得する狙いで開催するものです。

 このようなセミナーの場合、研修とは違って、「参加者にはただ黙って講師の話を聞いてもらうスタイル」が適切だという認識を持っている方が多いようです。参加する側も「セミナーとは黙って講師の話を聞く場」という認識を持っていると想定されるので、ディスカッションなどできないし、「隣の人と会話してください」という場面をファシリテーションするのは想像もしたことがないという方が多くて、驚かされます。そのためセミナー講師は、話すスキルを徹底的に磨き、話術で参加者を引き付けようとします。果たしてそれが最も効果的でしょうか?