セミナー参加者であっても、「一方的に話を聞くだけの受け身な状態が10分以上続くと退屈してしまう」という脳科学の常識はあてはまります。セミナーに参加する時は、受け身なのは仕方ないこととして忍耐力が高まり、60分間興味や集中力が持続する脳になってくれる……などということはあまり期待できません。

 情報を受け取り続けるだけで、整理したり落とし込んだりする時間がないと、短期記憶から長期記憶への移行が進まず、忘れてしまうのです。内容を覚えていないどころか、そんな話を「聞いた」ということさえ忘れてしまっては、その時間が存在しなかったのと同じことになってしまいます。

 後に残っている記憶が、「○○セミナーに参加したけど、内容は覚えていない」「講師がどんな人だったかは覚えているけど、聞いた話は覚えていない」ということになる確率が高まります。それではセミナーを主催した側の目的も達成できていないのではないでしょうか。

 セミナーの内容や状況によっては、グループワークは確かにふさわしくないかもしれません。グループディスカッションも難しいことが多いでしょう。ですが、問いかけて個人で考えてもらうことはできます。また、考えたことを書き留めることもできるでしょう。参加者に自己開示を求めるのは難しいと思いますが、自己開示を求めない問いかけに各自が答えを考えた後、30秒ほど隣の人と会話するというくらいは可能なのではないでしょうか。

 セミナー講師も、話すスキルに加えてデザインの工夫をすることで、参加者の理解をより深めたり、記憶に残したりすることができるのです。これは、社内で行われる様々な「説明会」でも同じことがいえます。

内容理解を参加者だけにゆだねては、目的を達成できない

 研修やセミナー、社内説明会も、行うからには主催者の目的があります。ここまでお話ししてきたように、情報伝達の成果を参加者の理解力に依存していては、目的を達成することは難しいでしょう。選ばれた話し手の責任とは単に知識を披露することではなく、主催者の目的を達成するために「分かりやすく、学びやすい」を実現することにあります。そして、そのためのスキルを身につける必要があるのです。

 社内講師を活用している研修担当者の方には、そうした社内講師に求めるスキルを明確化し、社内講師としてデビューさせる前に、講師としてのスキル習得・ブラッシュアップの機会を提供していただきたい。せっかく知識・経験を共有しようとしている社内講師に失敗させない支援をしてあげていただきたい、と切に願います。

 ご参考になれば幸いです。

参考:中村 文子氏の書籍
研修デザインハンドブック
中村 文子、ボブ・パイク 著 / 日本能率協会マネジメントセンター / 3,024円
社内講師の方や、すでに研修講師をしている方、教員、研修を企画する立場の方にインストラクショナルデザインのノウハウをまとめた本。
講師・インストラクターハンドブック
中村 文子、ボブ・パイク 著 / 日本能率協会マネジメントセンター / 3,024円
講師のスキルアップのためのノウハウをまとめた本。

中村 文子(なかむら・あやこ) ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役
中村 文子

 大阪府出身、神戸市外国語大学 外国語学部 英米学科 卒業。マイクロソフト株式会社名古屋営業所 勤務を経て、P&Gジャパン、ヒルトン東京ベイにて人材育成・組織開発に従事。2005年より現職。2006年にASTDのカンファレンスで人材育成の世界的権威、ボブ・パイク氏のセッションに初参加、大きな衝撃を受ける。トレーナー認定のプロセスを経て、2007年秋、日本人初のトレーナーとして認定される。専門分野は、トレーナー養成、ホスピタリティ、管理職研修、ビジネスコミュニケーションスキル研修など。ホテル業界、製薬会社、電機メーカーなどの業界で、活動中。早稲田大学エクステンションセンター、日経ビジネススクール、日本能率協会にて、講師実績あり。
●ダイナミックヒューマンキャピタル
http://www.d-hc.com/
https://www.facebook.com/DynamicHumanCapital/
●中村文子ブログ
http://www.d-hc.com/blog

※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。