中村文子
ダイナミックヒューマンキャピタル代表取締役

 研修効果を高めるうえで、受講者を取り巻く空間の物理的な快適さというのも、大切な要素の1つです。そのことを考えるにあたり、もう10年くらい前の出来事を思い出したので、ご紹介します。

 私が講師を担当したあるクライアントでの若手向け研修の開始時のことです。担当の方が、参加者にいくつかの連絡事項を話していました。その時に「ペットボトルのお茶などを持参している人は、机の上に置かずにバッグにしまいましょう。先生に失礼ですので、飲み物は休憩時にお願いします」とおっしゃったのです。

 本当に大きな衝撃でした。「先生に失礼」というのは、参加者が研修中に水やお茶を飲むことが、私に対して失礼であるということなのです。そんなこと、私はみじんも思っていませんし、私がそんなことをリクエストしていると思われたくもありません。むしろ、水分や栄養は脳に必要なものですので、補給しながら研修を進めたいと思っています……とその場で言えるはずもなく、困惑しながら研修をスタートさせた記憶があります。

 日本では「勉強する」という言葉に対しての修飾子として、「楽しく」より「まじめに」や「厳しい」という言葉の方がしっくりくるという方が、まだまだ多いのが現実な気がします。一昔前のような、体力的にも精神的にも過酷な研修というのはかなり姿を消したように思いますが、それでも、何かを学ぶ時、「まじめに」「厳しく」「忍耐」などのイメージがいまだに強く残っていることも珍しくないでしょう。

 では、研修で効果的な学びを実現するための、物理的な環境について考えていきましょう。

余裕を持ったスペース(空間)を確保する

 まず何といってもスペースです。パーソナルスペースという言葉があります。他人に近付かれると不快に感じる空間のことで、言い換えると、他の人との間にどれくらいの距離を保ちたいかです。研修会場の椅子の配置は、参加する人にとって不快感を覚える距離になっていないでしょうか。人数に対して会場が狭いと、どうしても椅子をつめて配置しがちですが、快適に過ごせるだけのスペースは確保したいものです。

 机の配置も重要です。長机を配置している場合、前後のスペースには、人が通れるだけの幅が確保されているでしょうか。時々、その余裕がない状態の会場を見ることがあります。そうすると、奥の席に座った方は、手前の人が立たないと通れないため、自由にお手洗いにも行けないわけです。飛行機のエコノミークラスで窓際に座っているような状況なわけです。飛行機の場合は好んで窓際の席を取る方も多いと思いますが、研修会場にはそこに窓はない場合が多いですし、「一度座ったら出られない席」に座りたいと思う方はあまりいらっしゃらないと思います。

 全体的なスペースの余裕はどうでしょうか。じっと座っているだけではなく、立ったり移動したりすることは、脳科学的な知見からも学習に効果がありますが、それができるような余裕がスペースにあるでしょうか。例えば、別のグループの人と集まって話をする、グループワークをする際に、ホワイトボードのところに移動してワークを進める、などが可能なだけのスペースの余裕が必要です。