パトリシア・フリップの“過去の経験”

 今回のイベント名にもなっている、「Lady and the Champs」の「Lady」こと、パトリシア・フリップ。

 イギリス人ながら、アメリカのスピーチ界の言わずと知れた大御所中の大御所、パトリシアは、その昔は男性専門のヘアスタイリストでした。兄のロバート・フリップは、音楽界で有名なギタリストであるため、著名人も多くパトリシアの元に散髪に通ったようです。

 そんな彼女がプロスピーカーになり、スピーチを考える時に必ず行うことがあります。それは「自分の過去の経験を掘り起こしてくること」です。

 スピーチの成功はストーリーにあります。そしてストーリーの成功は、自分自身の過去の経験に隠れている宝探しをすることから始まります。

 パトリシアは「Experience is the greatest teacher.」と語り、自分自身の仕事の経験、個人的経験、会社、上司、部下、同僚、顧客、友人、家族、親戚……など、あらゆる接点を見つけ、「自分だけが語れるストーリー」を生み出していくことが、優れたスピーチの基礎を作る、と言っています。

 そのためには、下記のような項目を紙に書き出していき、自分の過去の経験から何をメッセージとして伝えられるのか、考えてみるエクササイズを行うと効果的です:
・Once upon a time, I grew up in ______. My dad was ______. My mom was ______. They always told me ______.
・My turning points were ______.
・______ was my mentor and he/she taught me ______.
・My career was ______.
・What I learned from my bosses are ______.
・What I learned from my clients are ______.
・My influencers, friends, collaborators are ______.

マーク・ブラウンの“魚の三枚おろし”

 筆者のスピーチコーチでもあり、1995年の世界チャンピオンであるマーク・ブラウンは、”魚の三枚おろし”に例えて、スクリプトの校正を重ねて無駄をそぎ落としていくことの重要さを伝えていました。

 三枚おろしをするには、うろこを落とし、頭を落とし、尾ひれ・両ひれを落とし、そして大事な部分は落とさないようにしながら背骨ぎりぎりのところで匠の技でおろしていきます。余計な部分をそぎ落としたら、今度はスパイスですが、多すぎても少なすぎてもダメ。そして、自分がよい味と思っても、食べる人にとってよい味でなければいけない。そのバランスが重要です。

 スピーチ原稿の校正プロセスも非常に似ています。大切なメッセージを残しながら、必要な部分・不必要な部分を判断してそぎ落としていく作業はそう簡単ではありません。しかし魚の三枚おろしも最初は難しくとも何度も繰り返していけばマスターすることができるように、原稿校正も、反復演習でマスターできるスキルです。

 ではコンテンツのどの部分は残し、どの部分はそぎ落とすべきなのか? その作業をする際、何度も自分に問いかけたい質問は次のとおりです。

・Will it serve the audience? (聴衆のためになることか?)
・I like it, but will they? (自分は気に入っているが、聴衆はどうか?)
・Will it enhance characters? (それは登場人物を強化するか?)
・Will it advance my story? (それは自分のストーリーを進展させるか?)