リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 今年も国際スピーチコンテストのシーズンが始まっています。筆者は昨年から過去の世界チャンピオンをコーチにつけ、着々と準備を進め、今のところニューヨーク地区で順調に勝ち進んでいます。と同時に、日本地区のあちこちで勝ち進んでいる方々のコーチングをしています。

 みなさん勝ち進んでいる方々なので、元々のレベルも高く、戦略コンサルタントで分析好きな筆者にとってはコーチ冥利に尽き、受講者の方々の原稿やスピーチ映像を見ながら、一気に分析を深め、アイデアを広げ、どんなふうに受講者のベストを引き出していこうか考えを巡らせるのがワクワクして仕方ありません。しかし受講者の方々のレベルをグンと上げるためには、コーチである自分自身も同時に進化し続けなければなりませんので、その試行錯誤のプロセスが、これまた楽しいのです。やはりパブリックスピーキングは天職なのでしょうか(笑)。

 そう、トップレベルを目指す人たちがみなやっていること。それはコーチングを受けることなのです。

苦手意識が醍醐味に

 2013年、筆者は初めて国際スピーチコンテストなるものに出場しました。それまでパブリックスピーキングは苦手意識があり、周囲から出場しろと言われてしぶしぶ出てみたものの、ノンネイティブとしてネイティブたちの中で闘うわけですから、ほとんど期待もしていませんでした。しかし、次々と予選を勝ち進んでしまいました。いちばん驚いたのは筆者自身です。ではなぜそこまで行けたのか。

 ニューヨーク地区の準決勝進出が決まった時のことです。聴衆にいたジャニスという女性が、お祝いの言葉をかけに、目を輝かせながら筆者めがけて一目散にやってきました。「あなたのスピーチはとても良かった。でもあなたにはまだまだポテンシャルがある。次のラウンドは厳しいわよ。でもトップレベルを目指すなら私がコーチングをしてあげる。どう?」

 それまでコーチングなど受けたこともなく、周囲の友人にフィードバックをもらえばいいかな程度に考えていた筆者でしたが、ジャニスの熱意に押され(そして無償でコーチングを買って出てくださっていたということもあり・・・・・・)、ものは試しと、彼女のコーチングを受けてみることにしました。

 幾度となく原稿を校閲し、言葉を吟味し、あたかも芝居を作るかのようにシーンを考え、練習もセグメントごとに止まりながら何度も繰り返していくうちに、スピーチの奥深さにどんどん引き込まれている自分に気がつきました。

 日本的な感覚のスピーチ構成ではいかに「伝わらない」か。聞き手全員の心にしっかりとメッセージを受け取ってもらうためには、いかに精巧にストーリーを紡いでいかないといけないのか。聞き手の興味を引き続けるためにはいかに緻密な戦略設計が必要か。そしてそのプロセスがいかに、マッキンゼーで学んだ戦略スキルに似ているか。単語、短い表現の一つひとつの選び方で、いかにそのメッセージの鮮度が上がるのか。些細なようだが語順を変えただけでもこんなにも受け取る印象が変わるのか。目線の配り方、声の使い方、動き方にいかに意味を込めるか。一つひとつの単語にまでいかに感情を凝縮させるか。

 学生時代、ミュージカルやダンスなど、パフォーミングアーツをこよなく愛していた筆者でしたが、パフォーミングアーツとビジネスは相いれないものだと考えていました。しかしスピーチのコーチングを受け、その奥深さと醍醐味を知り、はた、と気づいたのです。「スピーチはエンターテインメントとマーケティングを掛け合わせたものだ」と。

 それまで、趣味として割り切って積み重ねてきたパフォーミングアーツの世界と、仕事として切り分けてきた戦略コンサルティングのビジネスとが一体化した瞬間でもありました。スピーチの概念がガラリと変わったのです。

 そしてスピーチがいかに奥深いか、その醍醐味に気づき、コーチングを受けるごとにどんどん進化していく自分が見え、さらに、「世界でも伝わる力」は、英語ネイティブかノンネイティブかはほとんど関係がないのだ、と確信したのです。

 ジャニスとの連日の練習の成果は、強豪ぞろいのニューヨーク州決勝進出、という結果に如実に表れました。そしてその翌2014年にもまた、決勝進出を果たしました。