リップシャッツ 信元 夏代
アスパイア・インテリジェンス社 代表取締役

 前回に続き、即席スピーチについてお話しします。実は筆者は、しっかりと構成を練って準備したスピーチは得意ですが、即席スピーチは少々苦手意識があります。そこで先日、即席力を鍛えようと思い、ニューヨークでImprovolutionというスクールに体験入学してみました。今回はその様子をお伝えします。

まずは自分自身の枠を取り除く

 Improvolutionとは、いわゆる「スピーチ」に限らず、即席で何かを考え、伝えるクリエイティブでイノベーティブな力を身につけることを目的とした様々なクラスを展開しており、講師陣はスタンドアップ・コメディーの出身者が多いのが特徴。スタンドアップ・コメディーでは、ネタを持ちながらも、その場の空気や観客の反応を敏感に感じ取って、キャッチボールをするように即興で「場」を作り上げていく力が必要ですから、納得です。

 その日の参加者はたった6名でしたが、大企業のコンサルタントからデザイナー、ミスコン優勝者、アメリカに移住したての外国人まで、ニューヨークを象徴するかのような多種多様なバックグラウンドの人たちが集まっていました。

 まず始めに、チームワークや仲間意識を大切にすること、そしてメッセージを受け取る側、発する側が、しっかりと目を合わせること、そしてなにより、間違えはないのだから楽しむこと、などなど、即興術の基本的心構えを教えられました。スタンドアップ・コメディーをイメージしていたので、自分自身からいかにアイデアを瞬時に引き出すか、という個人プレーだとばかり思っていたのですが、どうやらずいぶん違うようです。

 一番最初に行ったのは、好きなアルファベットを選び、そこに大げさな感情をのせて隣の人にそのアルファベットを伝える、というゲーム。例えば、怒り狂って「C!」と言ったり、笑い転げながら「M!」と言ったり、今度は照れながら「A」と言ったりしていく、という具合です。その際どんな感情を表現する場合でも、発信者と受信者はしっかりと目を合わせます。そして普段はありえないようなレベルの感情マックスでアルファベットを伝えることで、自分の中の「枠」を取り除いていく過程はとても面白く、自然と感情を表現することに慣れていきます。

 ウォームアップ後にやったいくつかのゲームで、筆者が面白いと思ったものが3つありました。

自分のアジェンダを白紙にし、ジャッジせずに聴く力

 筆者が意外と苦労したのは、1人1つの単語を発し、次の人へとバトンタッチしてストーリーを作っていく、という即興ゲームでした。まず講師が、「スティーブは初めて一人旅に出ました。到着した土地で彼は……」のように、状況設定をしてくれます。そしてそれに続くストーリーを、チームで作っていくわけですが、なにせ1人1単語しか発してはいけません。例えばこんな感じでストーリーがつながっていったりします:
「found」→「strange」→「purple」→「goats」→「that」→「spoke」→「languages」→「of」→「aliens」

 1人では考え得ない摩訶不思議なストーリーが紡がれていき、みんな笑いをこらえるのが大変です。みんなが楽しんでいる中、実は筆者は苦労していました。ゲームは英語ですから、例えば、「the」や「a」などの冠詞だけだったり、「and」などの接続詞だけだったりすることもあります。それでも1人1語ルールを守ってゲームが進められます。

 筆者が苦労したのはそのルールでした。例えば、「spoke」の後に「a language」と言いたかったのですが、これは2語なのでNG。しかも講師に指摘されて初めて2語言っている自分に気づいたという始末。そこで「a」とだけ言えばセーフだったのですが、結局「languages」を選びました。

 このゲームの後にブリーフィングをした際、なぜ難しかったのか、みんなで考えてみました。するとそれは、「自分自身のアジェンダ」を優先してしまっていた、ということだったのです。つまり、「何か意義のあるコンテンツを提供したい。面白い展開にしなければ!」という意識(=自分自身のアジェンダ)が働き、「a」だけではコンテンツへの貢献もできなければクリエイティブな自分をアピールすることもできないので、無意識に「単なる冠詞よりも意義のある単語」を提供しようとした結果、ついつい2語を発していた、ということだったようです。

 こんな簡単な即興ゲームで、自分の思考パターンをありありと見せつけられ、普段のコミュニケーションでも、いかに自分ではなく、自分は白紙にして聞き手にフォーカスするか、が大切なこともある。そんな大きな学びを得たゲームでした。