パブリックスピーキングは習得しうる “スキル”

 海外で通用するパブリックスピーキング、というと、英語を勉強しなければ!と考える人が多いものです。しかし、ノンネイティブである私たちにとって、ネイティブと対等に話せる英語力を養うのは至難の業。一方でパブリックスピーキングは、習得しうる“スキル”です。

 パブリックスピーキングの極意は、聞いている相手がたった一人の営業相手でも、何百人の聴衆でも、彼らの心を捉えて放さず、心を大きく動かす、ということです。実はそこに言語力はあまり必要ではありません。どの言語を使う場合でも、パブリックスピーキングのスキルの上達にフォーカスすることで、今あなたが持っている言語力のままで、異文化の人相手でも、格段に伝わりやすいスピーチを実現することができるのです。それこそが、グローバル・パブリックスピーキングです。

 本コラムでは、グローバル・パブリックスピーキングのコツをご紹介していきます。

 2018年8月25日、国際スピーチコンテストの世界決勝がシカゴで開催されました。

 この国際スピーチコンテストは、「トーストマスターズ」という、スピーチの向上を目指して互いに学びあう、アメリカ発の国際的教育団体。現在、世界143カ国に1万6,600支部、35万7,000人のメンバーを有しています。毎年行われる国際スピーチコンテストは、世界で約3万人が参加し、半年の期間をかけて1次予選から勝ち抜いた10名のみが世界決勝への出場権を得ることができます(ちなみに筆者は、同コンテストで、ニューヨーク州ファイナリストを3回経験しています)。

 今年の世界決勝は、歴史に刻まれました。トーストマスターズ史上初の、トップ3が全員女性(しかも黒人2人とアジア人という全員有色人種)という快挙。3,000人で埋め尽くされた会場はスタンディングオベーションとなり、歴史的瞬間に私も立ち会えたことはとてもうれしく思います。

トップ3に輝いたスピーチ

 今年優勝したのは、黒人女性、Ramona J. Smith、スピーチタイトルは、“Still Standing”。

 スピーチの冒頭から終わりまで、一貫してボクシングの動きを取り入れながら、「人生は常に戦いのようであり、様々な障害に打ちのめされることがある。しかしそれでも私たちは倒れたままではなく、立ち上がっている。どんな障害があっても、私たちは必ず立ち上がることができるのだ」という力強いメッセージが、観客の心を奪いました。最後の締めくくりには“I’m still standing!”と歌い、観客も一緒になって歌う、という、3,000人の観客を総動員した感動スピーチでした。

 2位に輝いたのは、中国人女性のSherrie Su、スピーチタイトルは、“Turn Around”。

 彼女のスピーチはやはり冒頭から終わりまで一貫した、ある演出が印象的でした。それは、観客に背を向けて立ち、振り向く、つまり、Turn aroundする動作が、メーンメッセージの象徴として取り入れられていたことです。そしてそのメーンメッセージとは、「誰にでも何らかの恐れがある。でもその恐れに背を向けてはいないか? 勇気を出して振り向こう。そうしたら前に進めるのだから」というものでした。

 オープニングも観客に背を向けて始めていてインパクトがありましたが、クロージングでも再度後ろを向き、“Just ….”(あえてturn aroundとは言わず、動作でそれを見せた)と無言で振り向き、自信に満ちた、明るい満面の笑顔で終了しました。

 実は決勝前夜、光栄にも私は、彼女のリハーサル風景を間近で見る機会を得ました。たった1つの単語から首を動かす角度まで、徹底的にコーチがチェックしていたのですが、この最後の無言の動きは実はこのリハーサル中にコーチが思いつき、振り付けしたものでした。素晴らしい余韻でした。

 3位に輝いたのは、黒人女性、Anita Taylor、スピーチタイトルは、“It is what it is, it ain’t what it ain’t”。

 「成ることは成る。成らないことは成らない」とでも訳せましょうか。これは彼女のお父さんが繰り返し彼女に伝えたメッセージだそうです。

 彼女のストーリーは、一言に凝縮すると、「挫折」についてです。離婚、解雇など、心の傷を負った挫折経験のたびに、彼女のお父さんは、「成ることは成る。成らないことは成らない」と伝えます。「何それ!? 意味が分からない!!」と最初は反発する彼女ですが、オプラ・ウィンフリー、ウォルト・ディズニー、マイケル・ジョーダンなどなど、偉業を遂げた人たちに共通しているのは、幾度となく失敗を重ねたからこそ今の彼らの栄光があるのだ、ということに気づきます。

 つまり、挫折で心が折れてしまっても、「成ることは成る。成らないことは成らない」と自分に言い聞かせて前進していくことが大切なのです。