芙蓉ディベロップメントが提案する「健康寿命延伸住宅」は、住まい手一人ひとりのバイタルデータを計測して、バイタル異常値(健康状態の悪化)を早期に発見することで健康寿命を長くすることを目指すものだ。同社はグループの介護施設において入居者のバイタルデータを活用して健康管理を行ってきた実績がある。これを一般住宅へ転用する。

快適空間、健康管理、見守りによって毎日健康で楽しく

 芙蓉ディベロップメントが提案する「健康寿命延伸住宅」とは次の様なものだ。

 まず、住宅の基本性能として、高気密・高断熱の住宅とすることで、冬は暖かく夏は涼しい快適な住まいとする。そのうえで、1年を通して快適な湿熱環境を制御する。これにより、住宅の「快適空間」を実現する。

 同社の提案を特徴付けるのは、バイタルデータの測定だ。脈拍、血圧、体温など、人体から取得できる生体情報のことを「バイタルデータ」という。「健康寿命延命住宅」では、こうしたバイタルデータを日常的に計測して記録して、住まい手一人ひとりの「健康管理」に役立てる。さらに、バイタルデータに異常値が発見された場合には、離れたところに住む家族などに、健康状態の悪化・異常を知らせてくれ「見守り」にも役立つ。

 これら「快適空間」「健康管理」「見守り」の3つの特徴によって、一人ひとりの健康管理の意識を向上させ、毎日健康で楽しく暮らせる住宅を提供しようというのだ。

健康寿命延伸住宅の全体像
(1)温度・湿度のコントロール (2)バイタル測定(AI異常検知技術) (3)見守り機能 (4)高気密・高断熱で構成されている(資料:芙蓉ディベロップメント)
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体調に合わせて自動で温熱環境をコントロール

 同社の提案で最も目をひく「バイタル測定」を中心に提案内容を見てみよう。

 バイタルデータの計測に用いる医療機器は、主に「体温計」「血圧計」「脈拍計」の3点だ。この内、脈拍計はウェアラブル機器であるため、日常的に身につけることで自動的に記録情報が送信~保存される。その他の機器は、日々、規則的に住まい手が計測する。計測結果はBluetoothを用いて通信し、クラウド上に保存される。他にも、体重や血糖値、食事管理、服薬など、住まい手個別の健康状態や疾病の状態に合わせて、記録情報を追加することも検討されている。

 こうして取得したバイタルデータから健康状態を把握。異常値を検知した場合は、自動的にエアコンを制御して、住まい手の状態に合わせた空調コントロールを行う。さらに、高気密・高断熱を住宅本体の基本仕様としているため、外気の影響を受けにくく、年間通じて住まい手の健康状態に適した温熱環境が維持できる。

 高齢者は温熱環境に鈍感になりがちなため、空調コントロールは、熱中症やヒートショックなどの予防に効果的だ。また、ストレスの低減による健康増進、および活動量の増進にもつながると考えられている。

 バイタルの異常値は、見守り機能として、離れた所に住む家族へもメールで通知。正常値に戻った場合にも、同様に通知される。

プロトタイプにおける、バイタルデータの表示・異常検知画面
大きな文字で高齢者にも分りやすく、扱い易いデザインを心がけている
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 日常のバイタルデータの記録や確認、アラートの表示など、システムのUI(ユーザーインタフェース)は、大きな文字で分りやすいデザインとなっている。さらに、この「健康寿命延伸住宅」の仕組みや活用方法、日常的な過ごし方までを、やさしく解説したビデオを制作。電子機器の扱いに不慣れで、IoT技術の利用には及び腰な住まい手をサポートする。

健康寿命延伸住宅の使い方と効果を解説したビデオ画面
同社のモデルハウスでは、本事業のプロトタイプも体験できる予定である(資料:芙蓉ディベロップメント)

 前田氏は「当社の住宅事業の主な顧客は60歳前後だ。そのため、浴室や各室の広さや配置方法、用途に適した扉の設置など、バリアフリーや介護を補助する仕組みに、病院や介護施設運営から得たノウハウを生かした設計を行っている。IoT住宅についても同様に、こうしたノウハウを生かして情報通信技術のバリアフリー化を試みている。高度なシステムより、誰でも簡単に続けられる仕組みづくりこそが重要だ」と話す。

バイタルデータから個性を導き出す「安診ヘルスケアシステム」

 本事業の要となる、バイタルデータの管理システムには、基礎となるシステムがある。同グループ内の介護施設で導入されている「安診ネット」だ。安診ネットは、2008年に最初のバージョンが開発され、以降、改良を重ねながら同グループの介護や医療の現場で活用されてきた。

介護施設に導入されている「安診ネット」のパソコン表示画面
基本的に介護スタッフが扱うものとして構築されている。(写真:村田晧)
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 この安診ネットシステムを住まい手自身が活用できるようにカスタマイズしたものが「安診ヘルスケアシステム」だ。これを住宅が対象となる本事業に導入する。

 健康状態のバイタルデータは、性別や年齢、生活環境など個々人で異なる。例えば、平熱が35.5℃の高齢者が、36.5℃の体温を記録した場合、これを異常値と見なすのか否か。それを判断するには、医療知識に裏付けされた検証が必要だ。

安診ヘルスケアシステムにおける基準域の表示
医学統計学に基づく計算によって算出される(資料:芙蓉ディベロップメント)
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 「バイタルデータの基準値は個人毎に異なる。当たり前のように聞こえるかも知れないが、個人のバイタルデータの記録は、実は医療の現場でもほとんど行われてこなかった。正確なバイタルデータの取得には自宅で毎日測定するしかないという事情もある。医療機関では、診療に訪れた患者に対して体温や血圧などバイタルデータをその場で測定し、それを一般的な基準と比較して異常であるか否かを判断する、絶対値評価しか行われていない」(前田氏)。

 個人のバイタルデータの変動幅、いわゆる個体内変動を把握するためには、長期間に渡る毎日の測定記録が必要だと言われる。安診ヘルスケアシステムは、簡単な操作で日常的なバイタルデータを記録。そのデータから、平均値である「基準値」と、個人によって異なる基準値からの変動幅「基準域」を算出する。個人毎に異なる基準域を、複数の取得データから総合的に判断するために、芙蓉グループの介護の現場で活用されてきた安診ネットのノウハウが生かされている。

検証によって、住宅における高度な健康管理の実現を目指す

 今後は、芙蓉ディベロップメントが所属している「パナソニックビルダーズグループ」の加盟工務店と協力して、40棟程度を目標に安診ヘルスケアシステムを導入し、検証を行う。

 検証しようとするのは次の5テーマだ。

  1. 高気密・高断熱住宅が室内温熱環境を一定に保つ極めて有効な手段であること
  2. 高気密高断熱住宅における高齢者の活動量の変化とバイタルの変化について
  3. 高気密高断熱住宅での睡眠の質の変化についての検証
  4. 常時エアコンコントロールが睡眠の質に与える影響
  5. 見守り家族の主観的安心度の検証

 検証・分析にあたっては、慶應大学や長崎大学などの研究機関、医療の専門家との連携によって、その効果を明らかにしていくという。

 前田氏は「高齢化社会を見据えると、健康管理面で必要とされる技術だと考えられる。これが実現できれば、住宅において健康寿命が延伸できると期待している。本先導事業によって、居宅による安診ヘルスケアシステムの効果の検証を行い、将来は、広く住宅における健康管理の手法として活用してもらえるようにしたい」と意気込みを語る。