芙蓉ディベロップメントの提案は、平成29年度の第1回で採択され、実施された事業をさらに推し進めるものだ。バイタル異常値(健康状態の悪化)の検出方法をブラッシュアップし、健康維持・管理技術の向上を目指す。さらに、前回の取り組みには含まれていなかった、照明と睡眠の質についての因果関係も検証する。

健康状態を判断して最適な温熱環境を提供する

 芙蓉ディベロップメントの「健康寿命延伸住宅」は、平成29年度第1回のサステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)で採択され、平成30年度末までに39棟の事例を建築して実施、検証された。

 その時の事業の内容は次のようなものだ。

 まず、住宅の基本性能として、高気密・高断熱の住宅とする。これは、温熱環境と健康状態の因果関係を検証すると同時に、空調のコントロールによって温熱環境の維持管理を容易にするためだ。

 空調のコントロールには、住まい手の「バイタルデータ」を利用する。バイタルデータとは、人体から取得できる生体情報のこと。前回の事業では、脈拍、血圧、体温などを日常的に計測して取得していた。計測はウェアラブルタイプの機器を用いて自動計測・記録する方法と、住まい手が日常的に計測した上で記録する方法の2通りがあった。

 こうして取得したバイタルデータから住まい手の状態を把握し、必要に応じてエアコンを自動でコントロール。住まい手の健康状態に最適な温熱環境を提供する。

 この事業でもっとも特徴的なのが、バイタルデータの活用技術だ。

 体温や脈拍など、個々のバイタルデータを単純に記録するだけでは、誰でも行える通常の健康管理と変わらない。同社の健康寿命延伸住宅の場合は、収集したデータを元に、独自の計算式を用いて個別の基準値と基準域を算出。性別や年齢、生活環境などにより個人毎に異なるバイタルの状態を自動的に判別して、基準域を外れた場合には異常値として警告する。

 同社は建設業の他に、医療機関や介護施設をグループ内で経営している。上記のバイタルデータ活用技術は、これら医療の現場で利用してきた実績がある。これを一般住宅へ転用した格好だ。

 バイタルデータは、温熱環境のコントロールと健康管理に生かされたほか、異常の発生時には離れた場所に住む家族に通知されるなど、見守り機能としての活用も期待された。

前回採択された芙蓉ディベロップメントの健康寿命延伸住宅を現わすイメージ。(1)温熱環境のコントロール(2)健康管理(3)見守り機能(4)高気密・高断熱といった機能が備わっている(資料:芙蓉ディベロップメント)
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 芙蓉ディベロップメントによる前回の事業のさらに詳しい内容は、平成29年度の記事「バイタル異常値を早期に発見して健康寿命を長くする」を参照して欲しい。

前回事業の結果から見えてきた課題

 芙蓉ディベロップメント常務取締役の横山明人氏は、今回採択された事業について次の様に話す。

 「前回の事業を経て、新たな課題が見つかった。この課題の解決と同時に、健康支援への取り組みをさらに拡大したいと考えた」。

 横山氏が説明する、前回事業の結果から見えてきた課題とは次の様なものだ。

 まず、ヒアリング・アンケートから、住まい手が毎日のバイタルデータ計測や記録を負担に感じていたことが分った。

 「前回の事業で用いられたバイタルデータの記録ソフトは、数値とグラフ中心のUIとなっており、住まい手からは、記録が面倒くさい、楽しくない、いった声が挙がっていた」(横山氏)。

 次に、異常値検知による警告が、想定以上に発現したことだ。

 「前回の事業では、医療機関で採用している判定方法を、カスタマイズして一般住宅向けに開発を行った訳だが、一般的な住生活の場で採用されるには、異常値の判定が厳しすぎた。これを改善する」と横山氏。

 細かな予兆も見逃すべきではない医療機関では有効な技術でも、日常生活を送る住宅においては警戒が行き過ぎ、住民に負担を生じさせる可能性があったと言うわけだ。

前回の事業で用いられたバイタルデータの記録ソフトのイメージ。医療の現場で用いられてきたソフトがベースになっているため、画面の表示方法や異常の検出頻度など、住まい手のニーズにマッチしない側面もあった(資料:芙蓉ディベロップメント)

 今回の事業では、この2点の課題の克服を目指す。

新しいUIとAIバイタルスコアリング法

 バイタルデータの計測・記録に対する、住まい手の負担軽減に対しては、新しいUI(ユーザーインタフェース)で解決を試みる。

 今回は家族の写真を利用したアバターの導入など、ゲーム感覚で楽しく記録できる仕組みに改良する。さらに、家族全体を一覧して比較できる表示を始め、段階的に色分けして警戒情報を表示するなど、見やすさ・分りやすさにも磨きを掛ける。

今回の事業で用いられるバイタルデータ記録ソフトのイメージ。より分りやすい表示とする上、ゲーム感覚で記録できるように工夫を施す(資料:芙蓉ディベロップメント)

 異常値検知が頻繁に生じた問題に対しては、計算方法を更に進化させた「AIバイタルスコアリング法」を用いて対策する。

 前回の事業では血圧や脈拍など、記録したバイタルデータ個別に基準値と基準域が設定されていた。異常値の検知も個別に行われていたため、「今日は血圧だけが通常よりも高いが、ほかは正常値で自覚症状にも乏しい」というような場合にも異常として警告する結果が出ていた。

 これについて横山氏は次の様に話す。

 「医療の現場で使っているスコアリング法の転用では、思いがけない結果が出た。通常は健康的に過ごしている住宅居住者向けに、スコアリング法を改良する必要があった」。

 今回の事業では、血圧(上・下)、体温、脈拍、自覚症状(意識レベル)の5つのバイタルデータを収集する。今回導入するAIバイタルスコアリング法は、医学的見地に基づいて、この5つのデータを総合的に評価、異常値の発生も総合的な判断から行われる。

AIバイタルスコアリング法による分析イメージ(資料:芙蓉ディベロップメント)

睡眠の質の向上による健康支援

 さらに、今回の事業では、自動照明調光機能による睡眠の質の向上も試みる。

 これは、夜間における照明の色温度が、心拍変動や睡眠の質に影響するという、医療研究機関の研究成果に基づくものだ。

 就寝時間が近づくと自動的に居室の照明が調光され、睡眠の導入に適した状態に変化する。居住者にはウェアラブル端末を身についておいてもらい、心拍や睡眠効率を測定。照明と睡眠の因果関係を検証する。

 加齢やストレスなどにより生じやすくなるといわれる、入眠障害や中途覚醒などを抑制する効果を期待して今回の事業に取り入れた。

 より具体的な検証方法や照明機器の仕様については、慶應義塾大学理工学の伊香賀俊治教授のアドバイスを元に、現在検討中とのことだ。

芙蓉ディベロップメントによる、今回の事業の全体像。バイタルデータのスコアリング方法がブラッシュアップされ、記録ソフトのUIが刷新されたほか、新たに照明のコントロール機能が加わった(資料:芙蓉ディベロップメント)

病気の早期発見・重症化予防に期待

 芙蓉ディベロップメントが、今回の事業で実証しようとする主要テーマを次にまとめた。

  1. AIバイタルスコアリング法が病気の早期発見・重症化予防に繋がること。
  2. 温熱環境を整えることでバイタル分布を安定させ、重症化予防に繋がること。
  3. 照明の調色機能が睡眠の質の向上に効果を現すこと。

 前回に引き続き今回も、芙蓉ディベロップメントが所属している「パナソニックビルダーズグループ」の加盟工務店と協力して、40棟程度を目標にAIバイタルスコアリング技術を導入した住宅を建築し、検証を行う。