一人暮らしの高齢者の移動を助け、住宅の死角に潜む不審者を発見する――。こんなサービスなら利用してみたいと、消費者に気付きを与える斬新なサービスを国土交通省が支援している。「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」(以下、次世代住宅プロジェクト)だ。戸建て住宅では戸当たり300万円まで補助する。2017年度と2018年度とでそれぞれ2回公募して、8の事業者による提案を採択した。事業を実施する狙いと、どのような提案を期待しているかを国交省住宅局住宅生産課の松井康治・住宅ストック活用・リフォーム推進官に聞いた。

――IoT技術を活用した次世代住宅の取り組みを支援する「次世代住宅プロジェクト」を実施しています。なぜ今、IoT次世代住宅を支援するのかを教えてください。

「次世代住宅プロジェクト」について語る国交省住宅局住宅生産課の松井康治・住宅ストック活用・リフォーム推進官

松井推進官:政府は2016年3月に「住生活基本計画」を閣議決定しました。これは、住宅政策の今後10年くらいの大きな方向性を決める計画です。ここでは、強い経済の実現に資する住生活産業の成長を一つの目標としています。生活の利便性の向上と新たな市場創出のため、子育て世帯・高齢者世帯など、幅広い世帯のニーズに応える住生活関連の新たなビジネス市場の創出拡大を促進するということです。ここに、IoT技術等を活用した次世代住宅の普及を図っていくということが位置付けられています。

 同じく2016年6月に閣議決定された「日本再興戦略」、いわゆる成長戦略ですが、この中でもIoT技術を活用した次世代住宅の普及を促進することが位置付けられています。

 住宅は、数としては充足してきていますので、質の向上を図っていくことが課題となっています。今後、人口減少・高齢化が進む中で、住宅の質はもとより、住宅で暮らす人々の住生活の質の向上を図っていく。それに関連する住生活関連サービスも合わせて提供していただくことで、幅広い意味での住宅関連産業の成長を図っていこう、という位置付けがなされています。

 また、日本再興戦略では普及に向けて課題の整理をすることも求められています。これを踏まえて、国土交通省では2016年に「IoT技術等を活用した次世代住宅懇談会」を実施しました。

 懇談会では、住宅を供給する事業者の方はもとより、電力、セキュリティ、小売り、通信、物流・宅配便、医療など住生活関連サービスを提供する事業者の方にも、委員として入っていただきました。

 この懇談会の中では、今後、次世代住宅の実現に向けて国としてどういったテーマに積極的に取り組むべきかについて議論を行い、6項目をまとめました。(1)高齢者・障がい者等の自立支援(2)健康管理の支援(3)防犯対策の充実(4)家事負担の軽減、時間短縮(5)コミュニティの維持・形成(6)物流効率化への貢献です。

 現在実施している「次世代住宅プロジェクト」では、これら6項目に自由に課題設定していただく「その他」を加えた7項目を取組テーマに設定しています。

――この支援事業では「技術の検証」を求めています。検証とは、どのような内容を期待しているのでしょうか。

松井推進官:この事業の目的は「他分野では新しくないものも含め、住宅に新たな技術を活用することで住宅の質や利便性の向上を図ったり、新たなサービスを提供することで住生活の質の向上を図る」ことです。したがって、新たな技術を活用することにより、設定した課題がどう解決されるか、住宅や住生活の質がどう上がるかについて検証することを期待しています。例えば、新たなサービスで家事負担を軽減する提案であれば、以前よりどのくらい家事時間を短くできたかといったことを検証していただくことを考えています。

 この際、提案が消費者に「どう受け止められたか」「受け入れられるか」「使ってみてどう感じたか」といった検証も求められます。加えて、新しいサービスを提供するための体制というのも課題になってきます。特に、新たな技術を活用する場合における、住宅事業者の対応上の課題の有無や他のサービス事業者との連携といったこともあわせて検証することが期待されます。

――7つのテーマで期待している提案について、具体的なイメージをお聞かせください。

松井推進官:民間の方々の自由な発想で消費者が気付いていないニーズに響く提案を期待していますが、提案が少ない状況にあります。どのような内容が本事業の対象になるかという観点で、イメージ図を作成してもらっていますので、参考にしてください(記事末尾に掲載)。

――これまでに、どのような提案を採択していますか?

松井推進官:2017年度と2018年度とでそれぞれ2回公募して、8の応募事業者による提案を採択しています。

 7つの取組テーマごとに採択事例をいくつかご紹介します。

 「高齢者・障がい者等の自立支援」については、高齢者が居住する住宅に3種類のセンサーを設置して位置情報やバイタルデータを取得して健康状態の変化や室内での転倒などを検知し、高齢者を見守るプロジェクトを採択しました(代表提案者:凸版印刷(株))。この提案は、「健康管理の支援」や「防犯対策の充実」にも寄与するものとなっています。

 「健康管理の支援」については、高気密高断熱住宅に空調自動コントロールユニットと遠隔健康モニタリングシステムを組み合わせ身体に優しい温熱環境を創り、健康状態の記録・管理を通じた異常値検知による重病化予防等を行って居住者の健康寿命を延ばすプロジェクトを採択しました(同:芙蓉ディベロップメント(株))。

 「防犯対策の充実」については、先に紹介した凸版印刷(株)の提案のほかに、2つの提案を採択しています。1つは、カメラ付ドアホンをインターネットに接続し、外出先から来訪者の対応を可能とすることにより、子供や高齢者の留守番の際の防犯対策を図る提案です(同:(一社)ZEH推進協議会)。この提案は、住宅設備の遠隔操作や一括操作を可能にして「家事負担の軽減、時間短縮」に寄与するとともに、宅配ボックスとインターネットに接続したカメラ付ドアホンを組み合わせて「物流効率化への貢献」にも寄与するものとなっています。

 もう1つは、建材や人感センサー、カメラなどとIoT技術を連携させ、AIスピーカーや一つのスマートフォン・アプリで操作可能にする提案です(同:(株)LIXIL)。この提案は、子どもの帰宅をメールで知らせたり、外出先から室内の様子を見守ることができる仕組みで「家事負担の軽減、時間短縮」にも寄与するものとなっています。

 「家事負担の軽減、時間短縮」については、先に紹介したような提案のほかに、ダクト式セントラル空調システムとIoT技術を組み合わせてほこりの堆積を抑制するプロジェクトを採択しました(同:三井ホーム(株))。HEMSを活用した住宅設備機器などの遠隔操作や、センサーを用いたハウスダクトの見える化なども組み合わせています。

 「コミュニティの維持・形成」については、マンションのインターホンをインターネットに連動し、発災情報のプッシュ通知や安否登録などの情報を住民間で共有することで防災コミュニティの形成を図るプロジェクトを採択しています(同:東京建物(株))。この提案では、マンションの専有部に宅配ボックスを設置し、インターホンをインターネットに連動し、ロビーエントランスの呼び出しをスマホに通知、スマホでエントランスの遠隔解錠を可能にすることで再配達の削減を図って「物流効率化への貢献」にも取り組んでいます。

 「物流効率化への貢献」については、先に紹介した2つの提案を採択しています。

 また、2018年度から「紙オムツの宅内処理」に関する提案を求め、2件のプロジェクトを採択しています。1つは使用済み紙オムツから排泄物や水分を分離するオムツ処理機(同:パナソニック(株))により、もう1つは破砕機能付紙オムツ処理機(同:(株)LIXIL)により、紙オムツの減量等を図り、介護負担を低減する提案です。

――既に採択されている取組に独自の視点や改良を加えた取組は対象外ですか?

松井推進官:既に採択されている取組に類似したものであっても、使い勝手の改善やコストの削減など独自の課題設定がなされており、それに対応した検証が計画されている提案であれば対象になります。

――なるほど、同じような仕組みを使っていても独自の課題設定があれば評価するということですね。

松井推進官:新しい取り組みですので、やってみないとわからないこともありますし、やってみてわかってそれで対応できるということもあるでしょう。だからこそ、実証事業として、最初の立ち上げの段階で補助を行い、応援していくということです。

 何をやるかが一番大事です。消費者に気付きを与えられるようなサービスを、ぜひ提案して実証していただけたらと思っています。“我こそは”と思う方は、手を挙げてください。

■関連情報
・次世代住宅シンポジウム開催、先導プロジェクトの効果検証を報告 詳細はこちら