基調講演では神奈川工科大学の一色正男教授が登壇した。一色氏は、HEMSやECHONET Liteの標準化と仕様の策定に深く係ってきた。現在は、スマートハウスの普及に取り組んでいる。基調講演では、IoT技術を活用した次世代住宅に関係する技術や制度の最新動向と、今後、期待される住宅業界とIT業界の連携について語った。

 私はIoT技術を住宅へ展開するために、様々なことに関わってきました。しかし私自身、住宅に詳しいわけではありません。住宅に関わっている方々が知恵を出して、「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」が広く活用されることを期待しているわけです。本日の「IoT次世代住宅が暮らしを変える」というテーマもサステナブルな社会を実現するための一環として、ぜひ議論を盛り上げていけたらと思っています。

 私は、HEMS(ヘムス、住宅エネルギー管理システム)やECHONET Lite(エコーネットライト)の標準化と仕様の策定に深く係ってきました。そうした経緯から、住宅においてHEMSやECHONET Liteをどのように活用していくべきか、という点について国土交通省と議論し、このようなシンポジウムに参加することになりました。(2018年のシンポジウム基調講演「IoTスマートハウスへの期待」 参照)

スマートハウスにおいて、HEMSやECHONET Liteの役割を示す図(資料:一色正男)

 ECHONET Liteは、非常に自由度のある規格です。元は住宅用に作ったものなのですが、今や、住宅以外に、店舗や小規模ビルにも展開されています。様々な場面で使われ始めて、対応する機器も増えてきています。今回、議論されているこのサステナブル建築物等先導事業の中では一つの基盤として考えられるものでしょう。

 次世代住宅に関係する技術の中から、今回、新しいものを一つご紹介します。「ECHONET Lite Web API ガイドライン」の策定です。Web APIとは各社のクラウドサーバー間を連携するためのインターネット技術です。

ECHONET LiteのWeb APIに関する概要を示す図(資料:一色正男)
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 Web APIは、いろいろな機器を動かすときに、それぞれ独自のECHONET Lite通信を行うのですが、これらの通信はサーバーが一旦受け取ることになります。様々なメーカーのサーバーが各々の機器を管理しており、サービス提供事業者がECHONET Lite通信を受け取る場合、今まではそれぞれのサーバーに合わせた独自のインターフェースを用意しなければなりませんでした。サービス提供事業者の方は各々対応するのが非常に大変だったのですが、今回、実装のための設計指針として、2018年10月にECHONET Lite Web APIガイドラインを一般公開しました。

 Web APIによって様々なメーカーのサーバーの中の仕組みが共通化されるので、機器間がより繋ぎやすく、連携しやすくなります。住宅メーカーにとっては、これまで以上に取り組みやすくなったといえるでしょう。今後、様々な提携サービスや応用アプリケーションの開発が促進されるだろうと期待しています。

 機器の進展についてもお話しましょう。ECHONET Lite対応機器の出荷台数について、エコーネットコンソーシアムが調べた表をお見せします。

ECHONET Lite機器の出荷台数調査表。左側に個別の機器の出荷台数を示され、右の別枠が低圧スマートメーター(家庭用)の設置済み台数を示すグラフとなっている(資料:エコーネットコンソーシアム)
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 2013年から2017年までの間の出荷状況を示しています。右側に低圧スマートメーター(家庭用)だけを別に示しています。これによると、2017年3月末時点で、設置済み台数が2700万台を超えています。日本の住宅に設置済みの機械式電力量計をスマートメーターに交換する計画でその総数が約7000万台といわれており、2017年3月時点で2700万台まで入れ替えが進められていることを示しています。この低圧スマートメーターは様々な電力情報を取得できる優秀な機器です。住宅においてエネルギー管理ができる機器として、ぜひ活用してほしいと思っています。

 国交省と「ZEH」についても一緒に進めています。ネット・ゼロ・エネルギーハウスという施策で、HEMSの技術がベースになっており、住宅の省エネ化を推進すると補助金を得られる仕組みです。

ZEHの概要を示す図。「ZEHは、快適な室内環境を保ちながら、住宅の⾼断熱化と⾼効率設備によりできる限りの省エネルギーに努め、太陽光発電等によりエネルギーを創ることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)で概ねゼロ以下となる住宅」を指す(資料:経済産業省)
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 ZEHとは、住宅の断熱性能を高め、エネルギーを上手に使う高効率設備を導入し、太陽光発電などで自家発電する住宅を対象としています。

 高効率設備や太陽光発電などのコントロールにHEMSの技術が使われます。これをうまく活用すると、年間で消費するエネルギー量の正味がゼロ以下になります。要するに住宅内でエネルギーの自活ができる訳です。電力会社からの電気を少し使っていますが、結果としては自活する家が作れる。

 当初は「このような住宅が本当にできるのか?」と疑問に思っていたのですが、検討を進めるうちに現実的になってきました。住宅の省エネ性を上げる必要がありますので準備は大変なのですが、新築住宅でZEHを目指した設計がなされていれば実現可能です。

 あるハウスメーカーのデータによると、実際に建設したZEH住宅のうち約半分ぐらいは、本当にゼロエネルギーになっているそうです。住まい手にとってもメリットは大きいと思いますので、ぜひ広まっていってほしいと考え、支援しています。

次世代住宅に期待される将来像

「ZEH+」の概要を示す図。ZEHの仕様に加え、特定の機器を積極的に導入することを想定している(資料:一色正男)
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 最初の頃は実現を危ぶんだZEHですが、今は「ZEH+」という、派生した仕様も用意されています。こちらはZEHの仕様に加え、特定の機器を積極的に導入すると補助金の対象になるというものです。 特定の機器とは、蓄電池、電気自動車、給湯器、エアコンなどの機器のうち、AIF仕様という、よりつなぎやすい規格を採用した機器です。こちらはリフォームなども想定しながら、実装可能なものにしていこうという動きで進んでいると聞いています。

 将来的には、VtoH(ビークルトゥホーム)という、家と電気自動車の連携による自家消費電力の拡大が進むと考えています。すなわち、電気自動車の畜電池を住宅でも利用する方法です。

 「住宅で電力を利用すると車は走れなくなるのではないのか?」という疑問がありますが、ある住宅メーカーの調査では、電気自動車が全く走行しない日が年間の3~4割もあり、一方、蓄電池を電気自動車が使い切ってしまう日は1割程度という結果が出ています。これは電気自動車というのがある意味、住宅に大きく貢献し得る可能性を示しています。

 私が今やっているHEMSの技術も、実はVtoHに深くかかわっており、将来、住宅設計の中にこういう電気設備設計が組み込まれていくことに期待しています。

東松島市に開発中のCEMSプロジェクト「スマート防災エコタウン」(資料:東松島みらいとし機構)
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 蓄電池を備えた家が増えてくる、または太陽光発電施設が地域にあるという状態では、個々の家だけで消費しないで街全体で利用・再生しようとする考え方が出てきます。それを「CEMS」(セムス、都市エネルギー管理システム)と呼んでいます。CEMSにもHEMSの技術が貢献し得ると考えています。現在は、実証試験などの取り組みの最中ですが、こうした地域の取り組みでも、住宅の専門家の協力が不可欠です。

 HEMSはインフラとして、すでに6000万台の機器が市場にあり、ここまでに解説したことは、普通の住宅設計の延長で既に実現可能な状態です。これは、日本の企業が7年頑張ってきた成果だと思っています。

 この先に何が必要かというと、HEMSインフラを利用したサービスをどのように展開していくか、という議論です。 実は皆さんが想像していないところに、HEMS対応の機器はすでに備えられています。エアコンや給湯器が良い例です。一度、設備を確認すると、思い掛けないサービスや可能性に思い至るかもしれません。

経済産業省が示すスマートライフに関するコンセプト図(資料:経済産業省)
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 経済産業省は上図のようなコンセプトを提示しています。

 ECHONET Lite対応の家電やIoTデバイスなどは、既に多くの住宅に普及しています。すなわち、この図の一番の下に示されている機器のインフラ部分はある程度進んだ訳です。次に考えないといけないことは、それらのデータを貯めて、うまく使ったり、連携させたりする部分です。これを各社が勝手にやると連携が行われなくなるので、真ん中の黒い表示のところに位置するプラットフォーマーという存在が、相互に繋がる環境を用意する必要があります。

 この場合、プラットフォーマーというのは、機器のインフラをきちんと揃えた規格でつくり、サービス事業者とも規格化されたインターフェースを作るというビジネスになります。完全にオープンソースとしてやるべきものだと私は考えていますが、これは理想であり、最初はプロプライエタリソース(オープンソースの対義語)による独特のものを使い、徐々にオープンにしていくことになるかと思っています。

 資料の図では、最上段に示されたユーザーに対して、その下に示されたサービス事業者は共通のプラットフォームの上に乗った状態で、サービスをつくり出す姿が理想とされています。住宅において、こうしたプラットフォームを使ったサービスには、どのような可能性があるのか、ここいる住宅の専門家による、リアルなイメージが求められています。

 このコンセプト図は、あくまで理想像ではありますが、今回の「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」は、これに近づこうとする取り組みのひとつだと思います。

 今、必要とされるサービスはどのようなものか? 本当のニーズを知っているのは本当の現場をつくっている方々です。住宅に関わっている方々が本当のことを知っている。これに尽きると思っています。私は情報通信分野の人間ですが、本当のことを形にするという意味において、住宅分野でビジネスをされている方と一緒に、理想に近づくことができれば良いなと思っています。

 様々な知恵を一緒に出し合い、素敵な世界をつくっていきましょう。