パネルディスカッションでは「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」が設定する取組テーマを題材に、学識者やジャーナリスト、国土交通省の担当者が参加してパネルディスカッションを開催した。前編では、「高齢者・障がい者等の自立支援」「健康管理の支援」「防犯対策の充実」「家事負担の軽減、時間短縮」について議論した様子をリポートする。(後編はこちら)

パネルディスカッションの様子
(写真:都築雅人)
  • 【パネリスト】
    • 一色正男 神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授、スマートハウス研究センター所長 博士(工学)
    • 池本洋一 リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長
    • 松井康治 国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官
    • 安井功 日経ホームビルダー 日経 xTECH(クロステック) 副編集長
  • 【モデレータ】
    • 桑原豊 日経BP総研 社会インフラ ラボ 上席研究員
桑原豊
日経BP総研 社会インフラ ラボ 上席研究員

――本日のパネルディスカッションでは、「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」の採択プロジェクト(以下、次世代住宅プロジェクト)を踏まえて、「採択プロジェクトの注目ポイント」と「今後期待したい技術・サービス」について、この事業で設定している7つの取組テーマごとに議論していきたいと思います。

7つの取組テーマは以下になります。

  • 高齢者・障がい者等の自立支援
  • 健康管理の支援
  • 防犯対策の充実
  • 家事負担の軽減、時間短縮
  • コミュニティの維持・形成
  • 物流効率化への貢献
  • その他(宅内オムツ処理による介護負担軽減)

 その後、少し話題を変えて、こうしたサービスをどのように提供していくか、という点について議論していきます。

 今日は、スマートフォンを使って会場の皆さんの意見をリアルタイムで投票・投稿していただけるシステムを用意しておりますので、随時ご参加いただければと思います。

 早速ですが、最初の質問です。「IoT技術等を活用した『次世代住宅』に取り組んでみたいですか?」4つの選択肢からお選びください。

「IoT技術等を活用した『次世代住宅』に取り組んでみたいですか?」という質問への回答。1.取り組んでみたい(74票)、2.できれば取り組んでみたい(34票)、3.取り組んでみたいが、よくわからない(16票)、4.よくわからないので、やりたくない(4票)(資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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──「1.取り組んでみたい」が圧倒的ですね。本日は、積極的に取り組みたいと考えている方が参加していることが分かります。

 もう1つ質問します。「どのテーマについて取り組んでみたいですか?」7つの取組テーマから選んでください。

「どのテーマについて取り組んでみたいですか?」という質問への回答1.高齢者・障がい者等の自立支援(19票)、2.健康管理の支援(29票)、3.防犯対策の充実(14票)、4.家事負担の軽減、時間短縮(53票)、5. コミュニティの維持・形成(19票)、6. 物流効率化への貢献(11票)、7. その他(5票)(資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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──「4.家事負担の軽減、時間短縮」が非常に多く、次いで「2.健康管理の支援」ですね。このようにリアルタイムで皆さんの回答が分かりますので、ぜひこの後も参加してください。

高齢者向けのサービスは、やりがいがあると共に、非常に難しい部分を含んでいる

──それでは、早速7つの取組テーマごとの議論に移っていきたいと思います。これまでの採択プロジェクトと取組テーマの関係は以下のようになります。

これまでの採択プロジェクトと7テーマ(資料:日経BP総研)
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──凸版印刷のプロジェクトが「高齢者・障がい者等の自立支援」や「健康管理の支援」などで、芙蓉ディベロップメントのプロジェクトが「健康管理の支援」で採択されています。

 これらのプロジェクトの注目ポイントや、「高齢者・障がい者等の自立支援」「健康管理の支援」というテーマで、今後期待される注目サービスにはどのようなものがあるか、一色先生と池本さんにコメントをいただきます。

 同時に、会場の皆さんのご意見をお聞きします。現在取り組まれているテーマや、こんなことに取り組みたいという意見を投稿してください。この意見もリアルタイムに表示していますので、パネリストの方はご意見がございましたらコメントください。

一色正男 氏
神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授、スマートハウス研究センター所長 博士(工学)

一色(神奈川工科大学教授):見守りや健康管理などの分野におけるHEMS(住宅エネルギー管理サービス)の活用は、電機メーカーなどがたくさん取り組んでいますが、住宅を使うという視点で議論や実証ができるということは、私からみると大変新鮮です。

 介護事業者がその家のセンサー情報を活用することは、発想としては当たり前のことですが、なかなか実際の実証では難しいものです。そういうことに取り組んだ事例があることに、価値があると感じています。

 凸版印刷のセンサー付きの位置検知床など、大変面白い製品です。価格面の課題などもあるとは思いますが、実現できているということに意味があると思いますし、実際に暮らしの場で運用時に想定される問題について検証できることに、意味があるのだと思います。

池本(リクルート住まいカンパニー):高齢者の場合は「死ぬ」「死なない」という話がリアルに想定されるかもしれません。センサーのセンシングを間違えると、人が生きたり死んだりすることに関連する可能性がありますので、場合によっては責任を問われる部分もあります。やりがいがあると共に、非常に難しい部分を含んでいるテーマではないかと思います。

池本洋一 氏
リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長

 生死に関係してくると、どの程度の精度を担保できるのかも重要です。100%でないとダメ、となるとかなり高くつくと思いますが、9割5分くらいは担保できるなどといった形で、例えば親族の方や医師などとコンセンサスを取っていく必要があると思います。

 また、全てのテーマに言えることですが、現場で人を採用することや育てることが、大変になってきます。IoTのもうひとつの大きな役割は、人の代替をすることだと思います。今まで人がやらなければならなかったことを、いかに負担軽減させて代替するか。

 普及の鍵は、その機器を導入することで、どれだけの人件費をカットできるか?という点だと思います。この機器の導入コストはいくらぐらいが妥当か、いくらくらいなら導入が進むのか、といったことが計算できれば経営者は導入可否を判断しやすくなり、一気に普及するでしょう。今後は、センサーの限界とコストパフォーマンスのバランスといった点を、見極めていくことがとても重要ではないかと感じました。

── 会場からの意見を見てみましょう。「good」が多いのが「サービス付き高齢者住宅の見守りサービス」、2番目は「高齢者や子どもの見守りなどに活用できるシステムに取り組む」、それから「室温の自動調整」「孤独死防止」「徘徊防止」「死亡検知」といった回答もかなり多いです。

「『高齢者・障がい者等の自立支援』と『健康管理の支援』に関して、あなたが取り組んでみたい(取り組んでいる)技術やサービスを具体的にご記入ください」という質問への回答 (資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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安井功
日経ホームビルダー 日経クロステック 副編集長

── 日経ホームビルダーの安井さん、「高齢者・障がい者等の自立支援」や「健康管理の支援」をテーマにした新しいサービスとして、どのようなものが出てきていますか。

安井:高齢者の見守りや健康管理というテーマでは、利用者に意識させることなくセンシングすることが重要になってくると考えています。実際にそうした動きもかなり出てきています。例えば、凸版印刷のセンサー付きの床などはそうですね。

 また、私が注目しているのは「鏡」です。皆さんは、毎日「鏡」の前に立って身支度を整えると思いますが、例えば、「鏡」の前に立つと顔の血流や心拍数などが測定され、データが自動的にサーバーにアップされて健康管理ができるなど、何気ない日常の行動の中で自然にセンシングをしていくようなものが主流になっていくのではないでしょうか。

──国土交通省の松井さん、これらのテーマで期待している提案のイメージはございますか。

松井康治 氏
国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官

松井(国土交通省):「高齢者・障がい者等の自立支援」では、高齢者や障がい者の方が自立的な日常生活を送れるような住宅や、また災害時に自立的な避難が可能になるような住宅やサービスの提案を期待しています。例えば、自走式の車椅子とトイレの扉が連動して稼働するといった内容もあり得るのではないかと思います。

 「健康管理の支援」では、病気の早期発見や、それによって長く健康に生活を送ることが可能となる住宅サービスを実現するような提案を求めています。例えば、バイタルデータをとって健康管理をしながら、居住者の体調をチェックする。あるいはバイタルデータに合わせて温熱環境を自動コントロールで調整し、熱中症予防をするなど。そうしたサービスも考えられるのではないかと思っています。

「高齢者・障がい者等の自立支援」に関する提案イメージ。(イラスト:勝田 登司夫)
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「健康管理の支援」に関する提案イメージ(イラスト:勝田 登司夫)
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防犯や家事負担軽減は、HEMSをどのように利用するかが重要

──次は、「防犯対策の充実」と、会場の皆さんから一番「取り組みたい」という意見が多かった「家事負担の軽減、時間短縮」です。

ZEH推進協議会のプロジェクトが「防犯対策の充実」や「家事負担の軽減、時間短縮」など、LIXILのプロジェクトが「防犯対策の充実」と「家事負担の軽減、時間短縮」、三井ホームのプロジェクトが「家事負担の軽減、時間短縮」で採択されています。

 これらのプロジェクトについて、一色先生と池本さんにコメントをいただきます。

一色:これらのテーマは皆さんにとって一番身近で、かつ一番取り組んで欲しい分野です。インフラとしていろいろな機器をつなぐHEMSをどのように利用するかが重要です。

 例えば、カメラ付きドアホンとスマートフォンをつなぐということは、技術としては昔から議論されていましたが、いざマンションに導入するとなると、2本の違うインターネット系が存在するなど、難しい課題があります。皆さんが考えている当たり前のことの後ろに、どれほどの努力があるか、ということです。ですから、これらの努力の結果が大変役に立つということ、そして、それが実証されていくことに期待をしています。

 また、三井ホームでは日常的な掃除などのことを「名もなき家事」と表現していました。これは、とても面白い発想だと思います。「名もなき家事」と呼ばれるものは様々なものがあって、実はすごく大きいのです。さりげなく意識させないサービスというのは、おそらくこれからどんどん出てくると思います。

 三井ホームでは「直観的に操作できること」を将来的な目標としているとありましたが、こういう価値観を実現するには皆さんのアイデアや思いが必要です。こうした実証の中で、いろいろなアイデアを出して欲しいと思います。

池本:以前、大学と一緒に賃貸住宅を対象にIoT技術の実験をしたことがあります。空室になった賃貸住宅にセンサーを置きに行きましたが、ネックのひとつは電源問題でした。退去して空室になっている部屋は電気が止められているため電源が取れず、センサーをつなげたくてもつなげないのです。

 コンセントから電源を取らずにデータを取ろうとすると、かなり大きなバッテリーを用意しなければなりません。この実験の普及においては、どれだけ消費電力を小さくしてコンセントを使わずに上手くやれるかという電源問題があって、普及期に向けてはこのような実証実験で課題を発見し、地道な改良を重ねていくことが重要と思っています。

 「家事負担の軽減」に関しては、家事負担を金額換算し、いくら分が軽減されるのかという数字が出せると良いと思います。設置や運用にコストがかかる割に家事の時間短縮度や貢献度が低い機器もあれば、逆にコストの貢献度が高いものもあるはずです。

 ビジネスとしての普及を考えていくときには、そのバリューがどれだけ消費者にわかりやすく伝わるか、ということが極めて重要だと思います。それを導入することで1年間の家事負担時間の総量が何時間軽減になり、仮にその人の時給が2000円だとするならばいくら程度の削減になりますと数値化できれば普及に近づいていきますし、日常会話の中でも話題にしやすくなるのではないでしょうか。そういう発想が持てると広がると思います。

―― スグキクにもかなり様々な意見が投稿されています。上位には「自動掃除」「自動ゴミ捨て・ゴミ出し」といった、今一色先生がおっしゃったサービスにつながるようなものから、「電源不要のセンサー」「掃除不要の建材」というのもあり、IoTというより建材や設備そのもので、新しく開発されたものが入っています。「自己浄化付きの建材」などもそうです。また、防犯対策としての「スマートフォン対応の玄関ドアロックシステム」や、「朝の家事負担軽減があったら良い」という意見も人気を集めています。

「『防犯対策の充実』と『家事負担の軽減、時間短縮』に関して、あなたが取り組んでみたい(取り組んでいる)技術やサービスを具体的にご記入ください」という質問への回答 (資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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──日経ホームビルダーの安井さん、この分野で注目している技術やサービスはありますか。

安井:私も、電源のいらないセンサーは重要だと思います。また、実はこれに取り組んでいかなくてはいけないのは建材・設備メーカーではないかと思っています。つい最近、YKK APが「ミモット」というクレセントの部分にセンサーをつける製品を発表しました。あれは電源がいらないセンサーです。メーカーがきちんと主導してこのようなセンシング技術を組み込み、上手く活用していく開発を、もっと進めていかなければいけないと思います。

── 松井さん、この分野で期待している提案はどのようなものでしょうか。

松井:「防犯対策の充実」については、子どもをはじめとする居住者の安心・安全確保を可能とする住宅サービスの実現に関する提案を、ぜひとも求めたいと思います。イメージとしては、防犯カメラを通じて不審者を画像認識等で覚知し、その情報を管理人のスマートフォンに送信するといった、利用者の安心・安全につながるようなサービスです。

「家事負担の軽減、時間短縮」に関しても、子どもなどへの安全性に配慮しつつ、家事負担の軽減を可能とする住宅サービスの実現に関する提案をお願いしたいと思っています。例えば、雨が降ると外に干していた洗濯物が自動的に格納されるサービスや、リアルタイムアンケートでもコメントの多かった、ゴミを自動的に分別する・ゴミを自動的に集積場に持っていくといった、ゴミ関連の負担軽減の提案があっても良いのではないかと思います。

「防犯対策の充実」の提案イメージ。右は「家事負担の軽減、時間短縮」の提案イメージ(イラスト:勝田 登司夫)
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(後編の記事はこちら)