シンポジウムでは「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」が設定する取組テーマを題材に、学識者やジャーナリスト、国土交通省の担当者が参加してパネルディスカッションを開催した。後編では、取組テーマのうち「コミュニティの維持・形成」と「物流効率化への貢献」に関する採択プロジェクトの注目点と期待する新たなサービスを議論した。最後に「サービスをどのように提供するか」についてパネリストから意見を得た。その様子をリポートする。(前編はこちら)

パネルディスカッションの様子
(写真:都築雅人)
  • 【パネリスト】
    • 一色正男 神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授、スマートハウス研究センター所長 博士(工学)
    • 池本洋一 リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長
    • 松井康治 国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官
    • 安井功 日経ホームビルダー 日経 xTECH(クロステック) 副編集長
  • 【モデレータ】
    • 桑原豊 日経BP総研 社会インフラ ラボ 上席研究員
桑原豊
日経BP総研 社会インフラ ラボ 上席研究員

──次のテーマは、「コミュニティの維持・形成」と「物流効率化への貢献」です。

この2つのテーマには、東京建物のプロジェクトが採択されています。

 このプロジェクトの注目ポイントや、「コミュニティの維持・形成」「物流効率化への貢献」というテーマで今後期待される注目サービスにはどのようなものがあるか、一色先生と池本さんにコメントをいただきます。

一色:みんなが欲しいと思っている宅配ボックスが各住戸の横に設置される。これを本当にやっているのが面白いと思いました。こうしたサービスは使ってみると実に便利です。インターネットを利用したサービスの面白さは、実際に使ってみると魅力がわかり、その後よく使うようになるという点です。

 例えば、遠隔操作でお風呂を沸かすサービスについて、いつも家にご家族がいる状態では「いったい誰が使うのか?」と思うかもしれませんが、単身赴任のお父さんは非常に良く使うそうです。

一色正男 氏
神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授、スマートハウス研究センター所長 博士(工学)

 インターホンと携帯がつながっている設備・サービスについても同じような事例があります。非常に大きなマンションで、子どもが帰ってきてインターホンを押すとお母さんの携帯に通知が届くサービスを実施していたのですが、通知が届くとお母さんは、近所のお友達の家から慌てて帰って来て「はい、お帰りなさい」と子供を迎えるそうです。お母さんにとって、子供が帰宅した時に家に居ることは重要なテーマであり、そのニーズに非常にマッチしていたので大変良く使われました。

 マンションでも戸建てでも、誰かが「これが欲しい」と言うことが大事です。この言葉がサービスや技術の中に入っていくと、100軒中99軒に関係がなくても、必要とする1軒があるがために、他の家にも設置されていくという不思議なことが起こります。

 そういう意味で、この「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」の実験でも、様々なサービスの中にある本当のニーズが非常に重要です。皆さんに、ぜひこのようなニーズを見つけていただきたいと期待しています。

池本:私は、自動操作の機能は何でもスマートフォン(以下、スマホ)に集約されると思っていました。ところが、東京建物の取り組みを聞いて、インターホンにも様々な可能性があると気付きました。

 自動操作の機能をスマホに搭載しても、おそらく小さな子どもは使えません。あるいは、スマホに特定のアプリをインストールしてもらえないと使えない場合、全ての人のデファクトスタンダードにはなれません。

 一方で、分譲マンションであれば必ず同じモニターが全ての住戸についているので、共通インフラで100%の人たちに伝達できます。しかしそれは、音声認識で書き込めるようなスマートフォンほどの機能はありません。

池本洋一 氏
リクルート住まいカンパニー SUUMO編集長

 マンション事業者としては、共通インフラであるインターホンに、いったいどのような機能をベース搭載すれば良いのか? また、ある程度、更新できるものにしていかなければならないので、比較的更新しやすいものの中で何が優先され、何が重要とされるのか? こうしたことを、これからもう一段、二段と検討していくことが必要です。もしかすると、それが集合住宅のひとつの価値のようなものを作り出していく可能性もあるのではないかと感じました。

 また、かなりの確率で首都直下型地震が起こると言われていますから、マンションの「共助」については、もっと真剣に取り組まなければなりません。そうした大災害が起こった場合、マンションは3日間は助けが来ないと言われています。マンションの住民たちで協力し合って、自立して共助していかなければなりません。そんな状況の中で、みんなの共通掲示板であるインターホンはどのように活用できるのか、まだまだ検討の余地があると思います。

 採択事業者をはじめいろいろな企業が、「機器と管理で人命を守れる集合住宅の価値」を、インターホンなどのサービスを更に磨き高めて欲しいと思います。共通インフラを作ることは個人住宅では困難なことですから、これは集合住宅ならではの競争優位になりますよ。

──インターホンがマンションならではの価値を作るツールになり得るということですね。会場からの意見を見てみましょう。

「『コミュニティの維持・形成』と『物流効率化への貢献』に関して、あなたが取り組んでみたい(取り組んでいる)技術やサービスを具体的にご記入ください」という質問への回答 (資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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──安井さん、これらの分野で注目しているサービスなどはありますか。

安井功
日経ホームビルダー 日経クロステック 副編集長

安井:災害時の安否確認は、私も非常に重要だと思っています。リアルタイムアンケートでも上位に入っています。

 数年前に三菱地所レジデンスが大規模マンションで災害の避難訓練をやりました。部屋の中にいる人が安全であるかどうか確認するために、「ウチは大丈夫です」という印として玄関ドアに住民がマグネット式の安否確認カードを貼っていくという取り組みをしたのです。

 その時に課題として挙がったのが、不在時の対応です。留守にしていた居住者はマグネットを貼れません。マグネットが貼られていない場合、居住者が家に居なかったのか、それとも例えば部屋の中で家具が倒れて動けない状態なので貼れなかったのか、そこをどう確認すれば良いのか、という議論になりました。そうした様々な状況を想定して安否確認ができるような仕組みに需要があるのではないかと思います。

──IoT次世代住宅の6つのテーマの中に「防災」は入っていませんが、提案を期待したい大きな分野だと思います。松井さんが提案を期待するのはどのような技術やサービスですか。

松井康治 氏
国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官

松井:「コミュニティの維持・形成」というテーマでは、高齢者などが地域のサポートや繫がりなどの共助を得られる仕組みや、マンション居住者同士のサポートや繫がりといった共助を実現するような提案を、ぜひともお願いしたいと思います。現在は実際にカーシェアリングなどがありますが、例えばマンションの居住者同士がSNSなどを使ってお互いに持っている物をシェアリングする仕組みをサービスとして提供する、といったことも考えられるのではないかと思っています。

 「物流効率化への貢献」の代表例としては、不在再配達の削減があります。宅配ボックスの普及もそれなりに進んでいますが、さらに、居住者のプライバシーやセキュリティを確保できる工夫をした上で、特定の宅配事業者を認識して住戸内に入れ、設置してあるボックスに荷物を入れてもらうというような、少し踏み込んだ提案もあるのではないかと期待しています。

「コミュニティの維持・形成」の提案イメージ。(イラスト:勝田 登司夫)
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「物流効率化への貢献」の提案イメージ(イラスト:勝田 登司夫)
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──時間が押してきましたので、「その他」の議論は割愛させていただきます。ちなみに、会場からはこのような意見をいただいています。

「『その他』に関して、あなたが取り組んでみたい(取り組んでいる)技術やサービスを具体的にご記入ください」という質問への回答(資料:リアルタイムアンケートシステム「イマキク」の画面より)
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新築向けを得意とする建材メーカー、既存向けを得意とする通信事業者

──もう1つのテーマ「サービスをどのように提供するか」を議論したいと思います。話題提供として、安井さんに日経ホームビルダーでまとめた「IoT住宅の業界マップ」を説明していただきます。

IoT住宅の業界マップ(資料:日経ホームビルダー)
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安井:現在、IoT次世代住宅の市場を目指して、いろいろな企業が参入してきています。それぞれの企業の関係や、どんな市場を担っているのかを整理するために、日経ホームビルダーが2017年末から2019年1月末時点までのニュースリリースと企業発表を分析し、まとめたのが「IoT住宅の業界マップ」です。

 プラットフォームや設備、デバイスなどで大まかに分類していますが、その中でも「プラットフォーム事業」に注目しました。2つの動きについて解説します。

 1つは、新築の住宅をベースとしてプラットフォームを作っていこうという動きです。建てた当初からすぐにIoTが使えるサービスを提供するにあたり、企業がどのようなことに取り組んでいるか、という動向です。この中で、一番元気が良いのはパナソニックです。HEMSを核とした「AiSEG2」という商品が有名ですが、それを起点にして様々な機器と連携するとともに、最近は「HomeX」という新たなIoTの仕組みを発表して、さらにいろいろなものをつなげていこうとしています。連携する企業をどんどん取り込むことで、パナソニックは大きな存在感を示しています。

 LIXILにも注目しています。LIXILはメーカーとしての垣根を越えていろいろな企業に参加してもらい、「ライフアシスト」というサービスを通じて、プラットフォームを構築していこうとしています。まだ、実際の採用例は多くはないようですが、今後、広げていこうという動きがあります。

 2つめは、既存の住宅に対してもIoTを推進していこうという動きです。「IoT住宅の業界マップ」の左側にある青いエリア、通信事業者の動きが注目に値するのではないかと思います。例えばKDDIやイッツ・コミュニケーションズ、最近ではソニーネットワークコミュニケーションズといった企業が、かなり多様なサービスを提供しています。

 今回このように様々な業界をまたいだ全体の動向を「IoT住宅の業界マップ」にまとめたのには理由があります。今はまだIoT関連のサービスを導入するに当たり、どこか1社に絞れない状況にあるからです。例えば、自分たちが「何かサービスを提供したい」と思った時に、どのサービスと組めば良いのか、どのサービスと連携できるようにすれば良いのか、ということを判断する必要があります。そうした際に、業界全体を俯瞰する材料として、このマップを活用していただければと思います。

──関連する情報として、先ほどお話に出たイッツ・コミュニケーションズやKDDIは、様々な企業に自社のシステムを提供しています。

 イッツ・コミュニケーションズはかなり以前からIoT連携に取り組んでいる企業です。サービスの提供先として、ケーブルテレビ業界では既に全国45社に提供しています。この他、東急グループ、住宅会社、民泊事業者にサービスを提供しており、パートナー企業との連携に広がりを見せていることがわかります。

 KDDIは個人向けサービス「au HOME」の他に、「with HOME」という事業者向けのサービスも実施しています。住宅会社や量販店、エネルギー関係など既にいろいろな企業と提携が進んでいます。今後も、こうした動きが加速していくのではないかと思います。

 ハウスメーカーや工務店としては、このような状況の中で、今後は「どのようなサービスを、どのような形で顧客に提供していくか」という点が重要になってくると思います。

 最後に、次世代住宅を普及するために住宅会社やサービス事業者が取り組むべきことは何か伺います。まずは、池本さんからお願いします。

大きな会社と小さな会社ではやるべきことが違う

池本:一番は「ビジネス」にすることです。当社では、社会貢献や社会の期待に応えるために、いろいろな事業提案を行うコンテストを実施しますが、明確なジャッジポイントがあります。それは、きちんと「ビジネス」として継続的にサービス提供を継続できるだけの原資や利益を生み出せるのかと、いう点です。企業の先行研究は、最終的にビジネス化した時、利益が出るかどうか、という点を見定めなければなりません。

 例えば、家事負担軽減であれば家事負担軽減の効果が高く、かつ投下コストの低いものの方が、絶対に利益を生み出せます。大変な思いをしてすごくがんばったけれども、バリューとしては顧客からたいして金を貰えそうもないという場合には、優先順位を低くせざるを得ないこともあります。企業として取り組む際には、そこを見極めなければいけないと思っています。

 もうひとつは、事業規模の大きな会社がやるべきことと、小さな会社がやるべきこととでは、違いがあるのということです。

 大きな会社、例えば賃貸の大手供給会社や分譲戸建ての大手供給会社は、一部のお金持ちのための住宅だけではなく、低中間層向けの住宅を提供しているからこそ、それだけ普及していると言えます。ですのでその居住者の支払える金額内でのサービスが求められているということをしっかり認識して、相応しいレベルのものをきちんと提供していく必要があります。特に普及金額のメーカーの役目で重要なのは、コストダウン、コストパフォーマンスの追及、そして価値をわかりやすく伝えることだと思います。

 一方、小さな会社は、コスト面で普及帯のメーカーと戦うと勝てないので、逆に付加価値をきちんと認めてもらい、いかに高い付加価値で勝負していくかが重要になると思います。

 それは、IoTの分野においても、全く同じではないかと思います。それぞれの役割をきちんと見極めて推進していくことで、いろいろな幅や多様性も出て、結果的に良い進化が遂げられるのではないでしょうか。

IoTは住宅産業をプラットフォームのビジネスに変える

──企業規模に応じた戦略を考えるべきということですね。続いて一色先生、コメントをお願いします。

一色:私からは3つ、お話しします。

 1つめは、IoTを使ったサービスというのは、皆さんが使っているスマホのアプリのように、同じハードウェアや同じプラットフォームの上に、たくさんのサービスが生まれ得る世界です。

 IoT住宅の世界も、このようなプラットフォームのビジネスへと少し変化してきています。現在は、「オープンなプラットフォームを住宅の中できちんと使えるようにしよう」という活動を、産官学が一体となって推進している段階です。

 異なるサービスを構築するために、オープンで共通のプラットフォームを使う、というのは不思議な感じがするかもしれませんが、そのメリットは絶対にあります。なぜなら、それはそのまま欧州でも米国でも世界中どこでも使えるという、大変な面白さがあるからです。今、日本で始まったことが世界に広がっていくと捉え、ぜひ世界の市場を見据えて、考えて欲しいと思います。

 2つめに、現在、国土交通省・経済産業省・環境省が連携して、住宅の省エネ・再エネ化に取り組む「ZEH+(ゼッチプラス)」という補助金制度を進めています。その中にはいろいろな条件があり、共通のインフラの中で機器を提供し、その機器を使ってサービスの基盤をつくろうという取り組みがあります。その中でこの「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」も一緒に進めていけると、新しい可能性が出てくるのではないかと思っています。先ほど池本さんがおっしゃったように、より安く、より多く提供するための一つの解に成り得るかもしれないと、期待しています。

 3つめですが、住宅事業に関わる皆さんはきっと、住む人を幸せにする家をつくりたいと思っていると思います。皆さんの、そうした「人を幸せにする」という想いが、より良いサービスをつくっていくと信じています。最初は100人中1人しか、そのサービスを素敵だと思ってくれないかもしれない。でもその1人が素敵だと思ってくれた点を見つけて、ぜひそれを増やしていって欲しい。そして、そうした試みをこの「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」の補助金制度の中で、ぜひ実現して欲しいと願っています。

──住宅がプラットフォームになって、様々なサービスがアプリのように提供されるという発想は新しいですね。しかも、そのプラットフォームが海外進出のベースとなるなら、日本の住宅産業にとっても非常に魅力的な話です。それによって住む人を幸せにすることは、住宅をつくる者として冥利に尽きるのではないでしょうか。最後に松井さんから、2019年度の事業についてお話をうかがいます。

松井:「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」は、2019年度も継続して実施していきたいと考えています。

 IoT技術を活用した住宅やサービスが、住宅の質や利便性、住生活の質の向上につながるように、この事業で応援していきたいと思っています。

 新たな取り組みですので、まだまだ分からないところがあると思いますが、様々なテーマを設定していますので、これまでの採択プロジェクトなどを参考に、ぜひとも消費者に「気づき」を与えるような斬新なサービスを、ご提案いただければと思っています。

──ありがとうございます。以上を持ちまして、パネルディスカッションは終了です。本日の議論が皆さんの参考となり、一人でも多くの方が次世代住宅に取り組んでいただけるようになればと願っています。本日は、ありがとうございました。

(前編の記事はこちら)