「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」では2021年2月18日、「ニューノーマル時代のIoT次世代住宅」と題したシンポジウムを開催した。4年目となる今回のシンポジウムは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に配慮して初のウェビナー開催となった。基調講演には神奈川工科大学の一色正男教授が登壇。コロナ禍の影響で人々の生活が大きく様変わりし、住宅に求められる機能が多様化する中で、いまIoT次世代住宅に求められる機能、その将来性について語った。

[動画]【開催趣旨説明】国土交通省 住宅局 住宅生産課 住宅ストック活用・リフォーム推進官 高木直人氏
[動画]【基調講演】神奈川工科大学教授 一色正男氏
ウェビナーで基調講演を行う一色正男教授

 私の夢は、皆さんと一緒にIoTスマートハウスで「新しい住まい方」をつくることです。私自身は、ホームネットワークやWebなどネットワークの側から、スマートハウスに関わってきました。

 現在は、家電製品や様々な機器がネットワークにつながるようになり、新しい時代になったと考えていますので、今日はそのお話をしようと思います。

 「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」では、補助対象費用の2分の1、1プロジェクト当たり原則5億円(限度額)という予算を用意して、皆さんがつくる新しい住宅の普及を目指して支援を行っています。

「IoT次世代住宅」事業の概要(資料:一色 正男)
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 資料にある「HEMS」(ヘムス)というのはHome Energy Management Systemを略したもので、住宅の基盤技術です。私はこのHEMSに20年近く関わり、HEMSの基幹技術として2011年から「ECHONET Lite」(エコーネット・ライト)という国際規格を使い、住宅の中に納められる様々な機器をつなげることを検討してきました。

(関連記事:2018年のシンポジウム基調講演「IoTスマートハウスへの期待」)

 いま日本では、機器メーカーは約280社、そして約1億台もの機器がネットワークにつながるようになりました。これらのネットワークにつながる機器を利用して、より良い住環境をつくろうと考えたことが、このプロジェクトのスタートとなっています。

 ここで、これまで採択されたプロジェクトの取り組みを分類してみました(上図の右側)。

 1つは「HEMS(1)~HEMSの高度化」です。住宅にHEMSを導入する際の主な目的は「省エネ」ですが、「せっかく導入するのなら、より高度に活用しよう」という試みがこれらの提案に見られます。

 次に「HEMS(2)~地域工務店への展開」です。地域の工務店の挑戦を皆さんと一緒に支援していく、といった提案がこの中に含まれています。

 3つ目は「センサーによる健康管理・見守り」です。HEMSに加えセンサーの導入で健康管理を行います。また、高齢者が増えているという社会事情に対応し、高齢者の見守りに使うといった提案もこのテーマに含んでいます。

 さらに、最近は多くの家にインターネットが導入されており、それにつながる機器も増えてきました。IoTというのはInternet of Thingsの略ですが、「こうしたIoT機器をうまく連携させることで、家事負担が軽減できないか」というのが4つ目のテーマ「ロボットなどによる家事負担軽減」です。

 そして高齢化社会の中では紙オムツの処理というのが大きな問題になっています。集合住宅や介護施設などでは、「紙オムツ減容処理」の技術が注目されています。これも次世代の住まい方における大きなテーマということで、5つ目として取り上げました。

 その時々でテーマは変わってきていますが、生活の質の向上、生活関連の新たなビジネスの育成がこの事業の目的であり、機器(ハード)とその利用(ソフト)の融合、そしてその普及がテーマとなっています。

新しい生活様式

「新しい生活様式」の概要(資料:一色 正男)
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 こうした背景を見据えたうえで、今回「新しい生活様式」というテーマを設定しました。新しい生活様式とは以下のように、我々がこの1年に体験してきたものです。

 日常生活の面では、「家から出られない」「会社の仕事を家で行うテレワーク」「外食はデリバリーに」、仕事においては例えば「サンプルを見せに行くことができないので、デジタルでいかに表現するか」を考え、外出すれば、「人と人との距離をとりましょう」、買い物をしようとすると「電子決済をしましょう」など、100年に1度とも言われている初めての経験の数々――。

 そして家の中も、大きく変わりました。新しい生活様式が住宅に与える影響も非常に大きいと思います。

 なかでも一番大きいのが「非接触」です。例えばドアノブなど、不特定多数の人が触った場所を触りたくないという要望が出てきました。マンションではなく戸建てにも自動ドアを付けたり、玄関に流し場をつくる、といった小さなリニューアルからスタートしている事例もあります。

 新しい生活様式については、私にも問題解決を求められる事例がありました。「人と人が会えない、けれど話がしたい」というコミュニケーションに関するテーマでした。

 コロナ禍の中、老人介護施設では、インターホンやタブレット端末のような機器を用いて会話をしたり、外部の人とはテレコミュニケーションを利用したりしています。しかし実際に使ってみるといろいろな課題が見えてきます。「簡単に操作できない」「よく聞こえない」など。こうした問題点をこれからはどんどん詰めて、解決していかなければいけません。

 一方で、実際にそうした機能が住宅に入ってくることで、新しい住宅の在り方や新しい利用方法が論議され始めるとも思っています。また、インターネットを利用したテレワークが広がり、インターネットの利用価値が増す中で、住宅の中の通信環境をより良く整備することも大きな課題になってきています。

 今までは、機器を設置して、それを「上手に活用しましょう」という考えが主流でした。しかし、このような生活様式の変化の中では、「生活の中で本当に利用すべきものは何か?」を考えることが求められます。

 つまり、これまで「機器」がまずあり、その後で上手な「利用」方法について考えていたものが、ようやく「利用」から「機器」を考える時代になったのかなと感じています。

 これが、昨今の大きな生活様式の変化が我々に与えた、考えるべきテーマの変化です。住宅は20年、30年と使い続けるものです。その中で本当に利用すべき機能・サービスを念頭に置き、「それらをいかに組み合わせるか」を考える時が来たのではないかと思います。

 例えば、玄関でインターホンを鳴らすと携帯電話につながる。直接は出られない時もあるけれど携帯電話だったらもう少し使いやすくなる。これはもう昔とは違う新しい使い方です。ほかにも、視聴中のテレビに洗濯が終わったことを知らせる小さなマークが出る。高齢化に伴い聴力が衰える人に対しては、こういったことも大事になります。

 このように、家の中の様々な機器がインターネットにつながってネットワークの一部になることが、利用シーンに基づいた新しい生活の支援になっていくと思います。この事業では、こうした新しい使い方を支援していこうと考えていますので、皆さんにはぜひいろいろなアイデアを考えてほしいと思います。

HEMSデータで生活の変化を察知する

 HEMSは、太陽光発電や蓄電池の自動制御、そして負荷をうまく調節することで省エネになり、お金の節約もできる設備です。さらにHEMSには、住宅での電気の使われ方に関するデータがたまっています。このデータについては、まだ手を付けている事例が多くありません。活用次第で、有益な価値を生み出す可能性があります。ハウスメーカーの方々にも、活用方法を見いだしてもらいたいと思っています。

「HEMSデータで生活の変化を察知する」旭化成ホームズの事例(資料:一色 正男)
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 事例を1つご紹介します。上の図は旭化成ホームズの事例で、HEMSが導入された1000戸分の住宅のデータです。コロナ禍での“巣ごもり”による電力消費傾向をHEMSデータから解析しています。

 左下の2つのグラフは、2019年4月と2020年4月の電気の使われ方を比較したものです。テレワークを実践することになった、都会に近い戸建て住宅の1戸を例として取り上げました。

 グラフを見ると2019年4月は、朝は乾燥機、夜は調理で電力の使用量が多く、日中は少なくなっています。ところが2020年4月では、日中、家に人が居るようになり、日中の電力使用量が増えて、全体に使われ方がなだらかに変わっています。生活のスタイルがすごく変化したということですね。

 このようにHEMSデータから1日の生活の変化が非常によく見える。昼間の電気の使い方によっては、全体の消費電力量が減るということが実際に起こっているのもわかります。

 このように「生活が変わった事実が見える」ことが、新しい住宅を設計する際に役立つと、私は信じています。今までは家をつくって納めたら、「基本的な仕事は済んだ」と考えていた住宅メーカーの皆さんも、今後は住宅の使われ方を見ながら、改善点を考え、より良い住宅を設計することに、ぜひトライしてほしいと思っています。

「ソフトウェア・ファースト」の時代へ

 これからの住宅の在り方としてひとつご紹介したいのが、「ソフトウェア・ファースト」というテーマです。日本経済新聞などをご覧になっている方は、この言葉をよく目にすると思います。

 具体的には、住宅に導入した機器を「後からアップデートする」「ソフトウェアを更新する」行為のことです。実はスマートハウスに関わり始めた20年前、私もやりたくて仕方がなかったことなのですが、できなかった。当時はあり得ないことだったのです。

 ところが今や、例えば自動車では「ソフトウェア・ファースト」でアップデートできる車種が増えていて、すごく売れている時代です。お客さんの運転に合わせてソフトウェアをどんどんアップデートしていくわけです。

 住宅も20年、30年と使い続けると、いろいろなリフォームが必要になります。ハードウェアはアップデートされますが、なかなかソフトウェアのアップデートまではできていませんでした。しかし、様々なものがネットワークにつながるようになったいま、ソフトとハードを融合させた新しいものがつくられています。

後からアップデートできる住宅ビジネスモデル「ソフトウェア・ファースト」について解説する図(資料:一色 正男)
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 上の図の上段は、機器に固定型のソフトウェアを搭載し、その機器が住宅に導入される状態を表しています。これまではこの図のように、ハードが主役の納め方が主流でした。「安心の10年設計、上手に使ってください」という感じにやってきたわけです。ところが、これがだいぶ変わってきます。

 図の下段には「更新型」と書いてあります。これは、ソフトが組み込み型ではなく遠隔につながっていて、外部から更新可能な機器です。こうした更新できる機器が住宅に入り、機器制御などのサービスともつながり、さらにそれらのサービスのソフトも遠隔更新ができる。HEMSもこの例に当てはまります。

 このように「ソフトウェア・ファースト」になると、今までとはまったく違う、新しいビジネスが創造されるようになります。

 例えば、子供が独立して2人暮らしになったら、機器のソフトを更新して高齢者向けの空調にすることができます。このように、後からサービスがアップデートできるようになることで、住宅そのものが、その時々のニーズに合わせて進化できるようになっていくのです。

 まだまだ「コンセプト」のように感じていましたが、やっとこういう時代が来ている、来ようとしている、そして実際に一部ではもう始まっています。

 皆さんが素敵な住宅を考える際にはぜひ、「新しい住宅の時代」を考えていただきたいと期待しています。これからの未来を楽しみにしています。