今年度で4年目を迎えた国土交通省・サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)。コロナ禍による緊急事態宣言下にあり、シンポジウムはウェビナー形式での開催となった。今回のシンポジウムでは、平成29年度から令和2年度までの間に採択された14のプロジェクトを5つのグループに分け、取り組みテーマごとにパネルディスカッションを行った。Part1のテーマは「HEMSの高度化」だ。既存のHEMS製品に独自機能を付加した提案が採択された3事業者の取り組みを紹介する。

[動画]【パネルディスカッション】開催主旨
[動画]【パネルディスカッション】Part1 HEMSの高度化
  • 【Part1「HEMSの高度化」の参加パネリスト】
    • 我山 洋光 東京建物 プロジェクト開発部事業推進グループ課長
    • 野口 裕矢 三井ホーム 技術研究所 研究開発グループ
    • 村上 剛志 三菱地所ホーム 商品開発部 環境技術開発グループ
  • 【モデレーター】
    • 野中 賢 日経BP総合研究所 社会インフララボ 上席研究員

──まず、パネルディスカッションの趣旨説明をします。この事業では、過去4年間に14の提案を採択しました。公募に当たってのテーマは、(1)「高齢者・障がい者の自立支援」、(2)「健康管理の支援」、(3)「防犯対策の充実」、(4)「家事負担の軽減」、(5)「コミュニティの維持・形成」、(6)「物流効率化への貢献」、そして(7)「その他」となっています。

サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)でこれまでに採択された14のプロジェクトと取り組みテーマ(資料:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 上図の通り、テーマごとそれぞれに採択事例があり、これまでの結果を見ると「家事負担の軽減」、「防犯対策」、「健康管理の支援」を目的としたプロジェクトが多く見られます。これら14の提案をマトリックス図にプロットしてみました。

これまでに採択された14の事業をマトリックス図にまとめた。「実用段階に近い技術」を「住宅に実装」した事例が多くを占める(資料:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 縦軸が「住宅との関連度」を表しています。上に向かうほど住宅の実装に近く、下に向かうほど単体のデバイスやアプリであることを示しています。一方の横軸は「技術の進展度」で、右に向かうほど技術が実用段階にあり、左に向かうほど研究開発の初期段階であることを示しています。

 ご覧のように、これまで採択されたプロジェクトは、右上に固まっています。つまりこの事業では、「開発が比較的進んでいる技術を住宅に実装し、実証する」取り組みが多いということ分かります。

 さらに、採択された事業者のプロジェクトをグルーピングしてみました。

14プロジェクトのテーマ区分。それぞれテーマの似ているプロジェクトをまとめ、パネルディスカッションで取り上げるPart1~5のグループに分けた(資料:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 採択された事業者名を赤い枠で囲み、テーマが似ているものをグループとしてまとめたものです。本日は、このグルーピングしたテーマごとにパネルディスカッションを行い、事業者の方にそれぞれの取り組みを語っていただこうと思います。

最初に取り挙げるPart1のテーマは「HEMSの高度化」(資料:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

──まず、Part1のテーマは「HEMSの高度化」です。具体的には、既存のITメーカー製のHEMS製品に独自の機能を付加したプロジェクトになります。こうした提案は、本事業開始直後の平成29年度に最も多く集まりました。一方で今年度には、コロナ禍でクローズアップされた「働き方改革」や「在宅勤務」といったものを絡めた提案が採択されています。

モデレーターを務める日経BP総合研究所社会インフララボの野中賢上席研究員(枠外左)。パネリストは、三菱地所ホームの村上剛志氏(左上)、東京建物の我山洋光氏(右上)、三井ホームの野口裕矢氏(下)

──ここで取り上げるプロジェクトは、東京建物の「Brillia 向ヶ丘遊園 」、三井ホームの「温湿度バリアフリーで『健康・安心・らくらく』ホーム 」、三菱地所ホームの「『全館空調付IoT住宅』の普及型モデルケースのトータル提案 」の3つです。

Brillia 向ヶ丘遊園/東京建物

――東京建物の「Brillia 向ヶ丘遊園」は、川崎市で分譲した全82戸の新築マンションで、スマホと連動するIoTインターホンを各戸に取りつけて、2種類の実証を行っています(関連記事:IoTインターホンを活用し物流効率化とコミュニティ形成を)。

 1つが、スマホと連携した物流の効率化です。インターホンとスマホの連動によって、外出時でもエントランスを遠隔解錠できるシステムを備えています。留守中にインターホンが鳴るとスマホにお知らせがきて、外出先から共用エントランスを遠隔解錠できるという仕組みです。各住戸の玄関先には個別の宅配ロッカーが備えられており、そこに宅配の荷物を置いてもらうことで荷物の再配達を減らすのが目的です。

 もう1つが、災害時共助SNSを利用した防災・共助意識の向上です。この実証には、IT企業のテンフィートライトが提供している災害共助SNS「ゆいぽた」というサービスを使っています。これは、災害時にインターホンや携帯端末から安否を知らせることができるシステムなのですが、これを使って月に1回防災訓練を実施して、住民の防災意識の向上を図ろうとしています。

 なお、この事例については、すでに実証が終わっています。

東京建物のプロジェクト「Brillia 向ヶ丘遊園」の概要(資料:東京建物)
[画像のクリックで拡大表示]

──さて、東京建物の我山さん。これら2種類の取り組みについて、検証の結果や課題、さらに今後どんな展開を考えているか、順にお話しいただけますか。

我山(東京建物):まず、「物流効率化」の狙いからお話しします。

 このマンションは駅から非常に近く、共働き世代の方々をメインターゲットに想定していましたので、宅配便を使う世帯が多いと考えられました。また、マンションに至る道路が狭くて車両の行き来が難しいため、通行する車両を減らすことで、環境負荷の軽減と地域貢献にもなると考えました。

 実証の結果、本事例の特徴である「インターホンとスマホを連動して外出中でも荷物を受け取れる」という仕組みによって、約6%相当の再配達軽減効果が確認できています。

 一方で課題も見えてきました。この事例では、各住戸のインターホンとスマホをペアリング認証することで、遠隔解錠が可能なスマホ端末を限定しています。マンションというのはセキュリティが重要視されるため、より安全性の高いセキュリティー対策として取り入れた仕組みです。しかし、このペアリング認証がスマホのOSアップデートのたびに解除されてしまうのです。その都度、再認証を忘れる入居者が現われ、利用者が減少していることが確認されています。

 今後の展開としては、ペアリングされていない入居者に対してチラシを配布するなど、啓発活動をするとともに、セキュリティーの質を維持した上で、ペアリングに替わる新たなシステムを開発することも必要ではないかと考えています。

 もう一方のテーマ「コミュニティ形成」では、テンフィートライトの災害救助SNS「ゆいぽた」を、全住戸のインターホンと連携させました。そして、「住まいの防災を通じて居住者間の共助意識が高まってほしい」という考えから、このSNSを使った安否確認訓練を毎月実施しています。

 この訓練の参加率は約70%で、入居開始から非常に高い状態が維持されています。アンケートにも「入居後に防災意識が向上した」と回答した方が多く、好評を得ています。

 検証によって見えてきた課題は次のようなものです。本年1月にこの安否確認訓練の時間帯を、在宅率の低い平日の日中に変更したところ、「参加率が若干下がった」というデータが挙がってきています。

 外出時には自宅のインターホンではなく、スマホで安否確認操作をすることになります。外出先でのスマホによる安否確認を行うことに慣れていない居住者がいる可能性があり、今後はスマホでの安否確認操作にも慣れてもらう必要があるのではないかと思っています。

 今後は、管理組合が主催する防災訓練とも連携するなど、居住者がより実践に則した使い方ができるようになればと考えています。

──やはり使い勝手をいかに良くしていくかというのが、大きな課題と言えそうですね。

温湿度バリアフリーで「健康・安心・らくらく」ホーム/三井ホーム

──次は、三井ホームの「温湿度バリアフリーで『健康・安心・らくらく』ホーム」です(関連記事:セントラル空調でほこりの堆積を抑制し、掃除の負担を軽減)。

 このプロジェクトは、三井ホームが開発した全館空調システム「スマートブリーズ」をベースに、IoT機器を組み合わせて家事負担の軽減を目指すものです。こういった空調をベースにした取り組みの場合、一般的に省エネや温湿度環境の改善といったものが目的になる例が多いのですが、本事例は「掃除の回数を減らす」といった「家事負担の軽減」にフォーカスしている点が特徴と言えます。

 具体的には、「空調システムにPM2.5フィルターを取りつけて、花粉やホコリを部屋に入れない」「空気を循環させてホコリの堆積を減らす」「窓センサーで無駄な窓の開閉をなくす」「ハウスダストやPM2.5の室内濃度を見える化して、掃除のタイミングを確認する」といったことを実現しています。

 こちらも実証が終わり、既にアンケートなども分析した結果がでていますので、詳しくお話しいただこうと思います。

三井ホームのプロジェクト「温湿度バリアフリーで『健康・安心・らくらく』ホーム 」の概要(資料:三井ホーム)
[画像のクリックで拡大表示]

──それでは三井ホームの野口さん。「掃除の回数を減らす」というユニークな取り組みについて、狙いや実証された効果、今後の課題などをお話しいただけますでしょうか。

野口(三井ホーム):プロジェクトの概要は、当社のオリジナルのセントラル空調システムと、窓シャッター、電気錠、ドアホン、給湯器などのIoT機能を有する設備機器、これらとHEMSを組み合わせることによって、室内環境の改善と家事負担の軽減を目指すというものです。全85棟の新築住宅を対象に3回のアンケートを行い、有効性を検証しました。

 アンケートの結果ですが、「掃除の頻度が減った」と答えた人は、1回目のアンケートで全体の31%。2回目では40%に増えています。アンケートの中には「新築直後では少しのホコリも気になるため、より注意深くなり頻繁に掃除を行った」という回答もありました。このような意見をみると、2回目のアンケートで「掃除の頻度が減った」との回答が増えた理由もわかります。

 「IoT機器によって家事が楽になった」と答えた人は、1回目のアンケートの時点では66%。また、2回目のアンケートでは74%の人が、「家事負担軽減効果を感じる」と答えたことが確認できました。

 家事負担軽減効果について、最も評価が高かったIoT機器は「玄関ドアの電気錠」です。ドアホンやスマホアプリで施錠の確認を行える点が好評価でした。玄関ドアの電気錠については1回目、2回目とも半数以上の回答者が「家事負担軽減効果を感じる」と答えています。なお、3回目のアンケートについては現在検証中です。

 総論としては、本プロジェクトの目的に対して、一定の有効性があることが確認できたと感じています。

 こうした検証を実施した結果、見えてきた課題もあります。機器の設定や操作が難しく「使いこなせません」という意見が半数以上ありました。こうした意見に対応するために、よりわかりやすい説明資料やサポート体制というものを、これからはより充実させていく必要があるのではないかと考えています。

 そこで、2回目のアンケートでは、こちらで説明資料を作成して住まい手に送付しました。その甲斐もあり「多少IoT機器を使いこなせるようになった」という住まい手が現われてきています。

 最後に、今後、考えている展開についてです。先日も少し大きな地震がありましたが、こうした災害の多発であったり、現在も渦中にあるコロナ禍であったり、脱炭素社会(カーボンニュートラル)、エネルギーに関するエコ意識の高まりなど、昨今の社会事情は様々な問題を含んでいます。

 このような問題解決を望む社会的ニーズに、住宅のIoT設備をより充実させることで応えることはできないか――。居住者の防災、健康、エコ、そうした意識を居住者レベルで高められるような設備の仕様を考案できないかと思っています。また、それらの機器の設置に伴う十分なサポートや説明の体制整備も、並行して検討していけたらと考えています。

「全館空調付IoT住宅」の普及型モデルケースのトータル提案/三菱地所ホーム

──最後は、三菱地所ホームの「『全館空調付IoT住宅』の普及型モデルケースのトータル提案」です(関連記事:「全館空調+IoT住宅」で地球環境・ライフスタイルの変化に対応できる快適・省エネ住宅の普及を目指す)。

 三菱地所ホームが開発した全館空調システム「エアロテック」をベースに、IoT機器と連動して制御するというものです。これによって「高齢者・障がい者等の自立支援」「健康管理の支援」「防犯」「家事負担の軽減」など多くのテーマをトータルに実現しようという取り組みになっています。今年度に採択された最新の提案で、コロナ禍の影響で現在クローズアップされている「働き方改革」や「在宅勤務」などへの対応をうたっているのも大きな特徴です。

 「在宅勤務」への対応としては、「温度を見える化することで、住人それぞれの好みに合った温度コントロールを可能にする」「在宅勤務が長いと光熱費が増えやすいので、それを抑えるために光熱費を見える化する」「シャッターや照明の自動オン/オフ機能を利用し、仕事と生活のモードをはっきり区別して作業効率を高める」といった取り組みが見られます。

 このプロジェクトは令和2年度に採択されたばかりですので、実証はこれから始まります。

三菱地所ホームのプロジェクト「『全館空調付IoT住宅』の普及型モデルケースのトータル提案 」の概要(資料:三菱地所ホーム)
[画像のクリックで拡大表示]

──さて、三菱地所ホームの村上さん。「働き方改革へのフォーカス」という現在の社会課題に対応した提案ですが、その狙いについてお話しいただけますか。ほかにも、例えば想定されている課題や使い勝手の問題など、考えていらっしゃることを教えてください。

村上(三菱地所ホーム):まず、全館空調付のIoT住宅というトータル的な提案を、いかに普及させるかという課題があります。関心を持ってもらうためには、やはり生活に則したメリットの提案が必須になってくると考え、大きく2つのテーマを設定しました。1つが「地球環境の変化」、もう1つが「ライフスタイルの変化」です。

 地球環境の変化に対応するメリットは「省エネ」や「災害対策」です。一方、ライフスタイルの変化には、全館空調と併せてシャッター、照明、給湯器、宅配ボックスなどのIoT機能が対応します。家族構成や個別のライフスタイルに合わせた、様々な活用方法が想定されています。

 コロナ禍以後、在宅勤務が増えてきたことに着目して、これに対応する機能も備えました。その1つが、「全館空調でありながら各部屋で温度調整ができる」という仕組みです。それぞれの部屋で、それぞれの人に合った体感温度で仕事ができるというメリットがあります。また、「在宅勤務が増えてくると、いつ仕事が始まっていつ終わるかがわからずに、間延びしてしまう」という意見があります。こうした在宅勤務の抱える問題に対応するため、「シャッターや照明にスケジュール機能を持たせて、始まりと終わりを明確にする」という仕組みも取り入れました。

 今後、35棟の建設を予定しており、9月くらいから実証を開始できるのではないかと考えています。実証の具体的な内容は、アンケートを入居時と1年後に実施します。加えて、HEMSのデータをクラウド上から取得して分析にかける方法を予定しています。

 しかし、「こちらの想定通りに使ってもらえるか」という点に不安があります。想定している使い方を資料にまとめ、「こんな使い方をすると便利ですよ」と、正しく説明する必要があるのではないかと考えています。

 課題としては、入居時のアンケートにおいて、住まい手の分類など顧客情報を詳細に整理しておかなければ、分析する際に混乱が生じる可能性があるのではないかと想定しています。顧客情報の仕訳・整理の方法など、本年度中に詳細な準備を行ったうえで、来年度に実証を開始するというスケジュールで考えています。

──今のお話を聞きまして、住宅メーカーやデベロッパーは住宅を分譲をした後も、住まい手とコミュニケーションをとりながら機器やシステムの使い勝手を高めていく工夫が必要なのだなと改めて感じました。それではPart1のパネルディスカッションを終わります。