今年度で4年目を迎えた国土交通省・サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)。今回のシンポジウムでは、平成29年度から令和2年度までに採択された14のプロジェクトを5つのグループに分け、取り組みテーマごとにパネルディスカッションを行った。Part3のテーマは「センサーによる健康管理・見守り」。IoT技術を住まい手の健康管理や高齢者の見守りに生かそうとする3事業者の4プロジェクトを紹介する。

[動画]【パネルディスカッション】Part3 センサーによる健康管理・見守り
  • 【Part3「センサーによる健康管理・見守り」の参加パネリスト】
    • 横山 明人 芙蓉ディベロップメント 常務取締役
    • 田中 伸一 凸版印刷 生活・産業事業本部 環境デザイン事業部 まちづくり本部 まちづくり企画部 係長
    • 新津 庄平 凸版印刷 生活・産業事業本部 環境デザイン事業部 まちづくり本部 ソリューション営業部2T 係長
    • 下條 直樹 サンヨーホームズ マンション事業本部東京マンション支店 建築部 部長
  • 【モデレーター】
    • 野中 賢 日経BP総合研究所 上席研究員

──Part3のテーマは「センサーによる健康管理・見守り」です。

Part3のテーマは「センサーによる健康管理・見守り」(資料:日経BP総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

 ここで紹介するプロジェクトは、一般の住宅に住む人の健康管理、それから介護施設で生活する高齢者の見守りなどを狙いとしています。具体的には住戸の中に設置するセンサー、あるいはウェアラブルセンサーを使って室内環境のデータや要介護者のバイタルデータを取得し、それらを遠隔地から把握して見守りを行うというものです。近年では、高齢になった両親を遠隔地から介護するといった例も増えていますので、非常に社会的なニーズが高い分野だと思います。

 採択された事業の内容は、センサーそのものの性能の検証と、センサーを使ったサービスの検証の2つに大別されます。

 センサーで取得した住宅の湿温度や居住者の血圧・脈拍・体温などのデータは、そのままでは健康管理や見守りに生かすことが困難です。取得したデータの解析、あるいは活用するためのアイディアやノウハウが、非常に大きな課題となる分野でもあります。

モデレーターを務める日経BP総合研究所の野中賢上席研究員(枠外左)。パネリストは、凸版印刷の田中伸一氏(左上)、凸版印刷の新津庄平氏(右上)、サンヨーホームズの下條直樹氏(左下)、芙蓉ディベロップメントの横山明人氏(右下)

 ここで取り上げるのは、芙蓉ディベロップメントの「健康寿命延伸住宅」と「科学的指標をもって健康管理できる家」、凸版印刷の「居住者見守り訪問介護サービス」、サンヨーホームズの「管理スタッフや離れて暮らす家族の見守り負担軽減プロジェクト」の3事業者による4つのプロジェクトです。

健康寿命延伸住宅・科学的指標をもって健康管理できる家/芙蓉ディベロップメント

――まず、最初に芙蓉ディベロップメント「健康寿命延伸住宅」です(関連記事:バイタル異常値を早期に発見して健康寿命を長くする)。こちらは平成29年度に採択されたプロジェクトで、ベースになっているのが高気密・高断熱住宅です。

 この高い外皮性能を持つ高気密・高断熱住宅を、エアコンによって1年を通して快適な温熱環境に保ちます。エアコンは、センサーによって取得した室内の温湿度、あるいは体温や血圧といった住まい手のバイタルデータを基に自動的にコントロールされます。さらに、バイタルデータに異常が出た場合は、「離れて暮らす家族にメールで通知する」といった機能も備えています。

 既に39棟の健康寿命延伸住宅が造られ、検証も終っていますので、その結果についてお話を伺おうと思います。

芙蓉ディベロップメントのプロジェクト「健康寿命延伸住宅」の概要(資料:芙蓉ディベロップメント)
[画像のクリックで拡大表示]

――そして、芙蓉ディベロップメントは令和元年度にも採択を受けています。それが、「科学的指標をもって健康管理できる家」です(関連記事:バイタルデータの活用技術をブラッシュアップ)。先の「健康寿命延伸住宅」の課題を踏まえながら、新たな取り組みを加えていることが特徴になっています。

 具体的には、「睡眠の質を向上するために、照明のコントロールを使う」という点が1つ。もう1つが、「AIスコアリング法」という新しい解析技術の採用です。以前の健康寿命延伸住宅では、例えば血圧や体温など、それぞれのバイタルデータごとに異常値が出るとアラートを発する仕組みになっていたのですが、これを「AIを活用しながらトータルで判定してアラートを出す」という形に高度化しています。

芙蓉ディベロップメントのプロジェクト「科学的指標をもって健康管理できる家」の概要(資料:芙蓉ディベロップメント)
[画像のクリックで拡大表示]

──芙蓉ディベロップメントの横山さん、今回2つのプロジェクトがありますが、まず「健康寿命延伸住宅」についてお話をいただきたいと思います。

横山(芙蓉ディベロップメント):現在、「健康寿命(※)」と「平均寿命」には大きな差があると言われています。そこで、我々は健康寿命を少しでも延ばすことによって、快適で長く住生活を送ってほしいと考え、「健康管理」「快適空間」「見守り」という3つをキーワードとして家づくりに取り組みました。これが、平成29年度に採択された「健康寿命延伸住宅」です。採択以後、39棟の新築物件で実績を残すことができました。(※健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)

 実際に検証をしてわかったのは以下のようなことです。

 すべてのお客さまではないのですが、温熱環境の良い住宅で生活すると、血圧は少し低く、体温は少し高くなる傾向がある。また、バイタルデータのバラつきを抑制する効果も見られました。以前の住環境では体温や血圧のバラつきが多かった人が、温熱環境の良い住宅に引っ越すと、そのバラつきが減ってきたということです。

 先ほどお話しがあったように、住まい手のバイタルデータに異常値が出ていつもと違う状態になった時には、遠隔地に住む子供や親戚のところにアラートを発する仕組みになっています。実際に運用してみた結果、遠隔地の親族が「異常値が出たけれど大丈夫?」といった具合に電話をかけたりしたそうです。これがひとつのコミュニケーションにもなった。見守りというのはただ知らせるだけではなく、コミュニケーションの機会にもつながるのだという気づきがありました。

 次に、39棟のアンケート結果を、「良かった点」と「課題・改善点」に分けてお話します。

 まず、良かった点について。「健康管理の意識が高まった」との意見を72%の住まい手から得ました。また、「家族とのコミュニケーションが増えた」という意見を64%の住まい手からいただきました。先にも述べましたが、バイタルというのは自分だけではなく、家族との関係性にも影響するわけです。

 そのほか、「家の中や外の温熱環境がすぐわかる」「離れて暮らす親の健康状態がわかる」といった点を「良かった」と感じる住まい手さんも多くいました。少数意見ですが「外出から帰ってきた時に部屋が涼しい」という意見もありました。健康寿命延伸住宅では、エアコンを自動制御していますので、室内が常に最適な環境に保たれているわけです。

 課題と改善点ですが、多くの方が言われているのが、「測定が面倒臭い」という点です。74%の住まい手からそうした回答がありました。毎日、「体温」「血圧」「脈拍」を最低でも1日2回測定する必要があります。また、ウェアラブル機器による自動的測定も行っているのですが、「機器を常時、身につけることが面倒臭い」という意見も多くありました。

 「操作がうまくできない、操作方法を忘れる」という意見は50%の住まい手からありました。これは、主要ターゲット層であるシニアの方(50代~70代)に多く、「操作方法を忘れた」と、サポートを求める電話がかかってくることもありました。

 「測定や記録が面白くない」という住まい手が多かった点も重要視しています。皆さん「健康管理の重要性」というのはわかっているのですが、やはり「毎日続けるためには、何らかの“楽しさ”を入れていかないと難しい」という意見をいただきました。

 ほかにも、IoT機器に誤作動があり、トラブルの報告もいくつかありました。腕にバンド式のウェアラブル機器をつける必要があるのですが、つけ慣れていない住まい手の場合に「そのままお風呂に入ってしまった」「寝る時に外してしまった」といったトラブルがいくつかあって、測定値が取得できずに測定期間を延長せざる得ない例がありました。

──このような課題を踏まえて取り組んだのが、令和元年に採択された「科学的指標をもって健康管理できる家」ですね。

横山(芙蓉ディベロップメント):課題を受けて、健康管理の取り組みを「いかに長く毎日」「苦ではなく」続けてもらうにはどうすれば良いのか考えました。その結果を反映し、さらに新たな取り組みを加えたものが、「科学的指標をもって健康管理できる家」です。

 「科学的指標をもって健康管理できる家」では「快適空間」というテーマの下、健康状態をモニタリングするソフトのUI(ユーザーインタフェース)に工夫をしたり、バイタルデータの分析にAI的な要素を加えるなど、これまでの取り組みをさらにブラッシュアップしています。

 また、新しい試みとして、照明の居住環境への影響も検証しています。

 眠りに入る時間というのは、日によって時間がバラバラだったり、スマホや本を見ながら徐々に眠りに落ちたり、という方が多いのではないでしょうか。すなわち、就寝時間というのは、きちんと捉えるのが難しいんです。一方、起床時間はそうではなく、比較的似た時間帯に起床される方が多いと思われます。

 この検証では、起床時間の約30分前に室内の照明を自動的に点灯し、5000K(ケルビン)くらいまで色温度を上げます。これによって「寝起きが良くなり、睡眠の質が高くなっていくのではないか」と考えているわけです。

 住宅の引き渡しの際、住まい手に起床時間を設定してもらって、実際に「起床30分前になったら自動的に5000Kまで色温度を上げる」というのを2週間実施し、その後の2週間は設定を解除して自分の好きなように起床をしてもらうといった検証をしています。

 まだ事例が少ないので検証結果としてはまとまっていないのですが、入居1カ月後のアンケートでは「睡眠の質が変わってきたような感じがする」という回答が得られています。平成29年度採択の事業で検証の対象とした住まい手にも、同様の仕組みを導入する予定があります。今回のものと合わせると母数が大きくなるので、より確かな検証ができるのではないかと考えています。

 今後、考えている展開としては、現在のエアコンや照明に限らず、そのほかの住宅設備、家電とも連携を進めていきたい。これらすべてが毎日の生活の中でバイタルデータと連動するようになれば、より充実した健康管理が行えるようになり、そしてそれが健康寿命を延ばすことつながるのではないかと思っています。

──やはり、センサーや機器の性能だけをターゲットとした取り組みではだめなのですね。見栄えや使い勝手というのも、意外に重要なんだと改めて感じました。特に「若い方を対象にする場合と高齢者を対象にした場合で、気をつけなければいけないポイントが異なる」という点に気付かされました。

居住者見守り訪問介護サービス/凸版印刷

――次は、凸版印刷の「居住者見守り訪問介護サービス」です(関連記事:3種類のセンサーで居住者を見守り、訪問介護を支援)。3種類のセンサーを使って、主に高齢者のバイタルデータ、あるいは行動を把握しようとするプロジェクトです。これによって、高齢者の訪問介護を行う、ケアマネージャーの仕事を支援することが大きな目的となっています。

 使用するセンサーは次の3つです。

(1)センシングウエーブ:ベッドのマットレス下に敷き、心拍数、睡眠の深さなどを計測し、睡眠の質を把握
(2)人感センサー:部屋に設置して体動を測定
(3)ロケーションフロア:踏むと発電して、どこを歩いたのか検出できる床材

 これらによって住まい手の行動、あるいは健康状態を把握するという仕組みになっています。

凸版印刷の「居住者見守り訪問介護サービスの概要(資料:凸版印刷)
[画像のクリックで拡大表示]

──こちらも、既に10件を対象に検証が終わっています。凸版印刷の田中さん、今回の取り組みの目的と、得られた成果についてお話しいただけますか。

田中(凸版印刷):このプロジェクトによって、介護者が不在の時間も含め、要介護者の状態、睡眠や活動状況を定量的なデータで把握することができました。要介護者の月ごとや日ごとのデータを分析した結果、体調変化に早期に気づくことが可能となり、これによって訪問介護の優先順位づけなど、業務効率化につながる結果を得ました。

 また、検証においては「介護者のアドバイスシート」というヒアリング調査も取り入れました。「定量的な分析データ」と「ヒアリングの結果」の両方を介護者に提示することで、より良いケアプログラムの作成に寄与できるということも確認できました。

 コロナ禍の影響もデータから確認することができました。第1波の感染拡大時に、要介護者の睡眠時間が短くなる傾向が見られ、精神的不安が睡眠に影響を及ぼしていたと考えられています。

 検証の結果、見えてきた課題は次のようなものです。「今回のデータがケアプランに活用できる可能性がある」ということが確認できた一方で、データの掲示だけでなく、わかりやすい「リスク予測」であるとか、「データをどのようにケアプランに活用すれば良いのか」というような具体的な指標を提示する必要を感じました。

 それから、センサーが見えてしまうと監視されているように感じるのか、要介護者の方がセンサーの電源を抜いてしまうといったトラブルが複数発生しました。高齢者に特有の課題かもしれませんが、やはり介護者にとっては監視状態がストレスとなるようです。従って、「床に埋める」「マットの下に置く」など、極力目立たない外装というのは想像以上に重要なものだとわかりました。

 今後は、現状のデータ分析をさらに進め、要介護者のリスクの予兆などもアルゴリズムに取り入れ、より良いシステムを提供していきたいと考えています。

管理スタッフや離れて暮らす家族の見守り負担軽減プロジェクト/サンヨーホームズ

――最後は、サンヨーホームズの「管理スタッフや離れて暮らす家族の見守り負担軽減プロジェクト」(関連記事:家電の使用状況確認と人感センサーでシニアを見守り)。茨城県牛久市に分譲したシニアマンションで入居者の見守りを行うプロジェクトです。

 見守りには2種類の方法を用いています。1つは、各住戸の分電盤に「エネルギーセンサー」というものを取りつけ、電力の使用状況を見守る方法。エネルギーセンサーから得られた波形を解析すると、その時に住戸でどんな家電製品をどれだけ使っていたかが分るようになっています。

 これによって、例えば「真夏の昼間なのにエアコンがついていない」とか「夜中に掃除機が動いている」という状況が分るため、それを基に異常行動を推測、把握することができます。こうした情報はマンションの管理スタッフにも通報されて、異常の早期発見につなげられるというシステムです。

 もう1つ、インターホンを利用した通報システムも備えています。これは自分の意思で体調が悪い時に通報する仕組みです。

サンヨーホームズのプロジェクト「管理スタッフや離れて暮らす家族の見守り負担軽減プロジェクト」の概要(資料:サンヨーホームズ)
[画像のクリックで拡大表示]

──それでは、サンヨーホームズの下條さん、昨年の末に入居が始まったということで検証はこれからだと思いますが、検証の予定や、今後どんな展開を考えられているかといったことを中心にお聞かせください。

下條(サンヨーホームズ):まず事業概要なのですが、茨城県牛久市に226戸のシニアマンションを分譲し、去年12月に引き渡しを行いました。現状、35世帯くらいの入居となっています。

 先ほどお話がありましたように、本マンションは、2つの見守りシステムを導入することで、入居者の見守りサポートを可能にしています。「エネルギーセンサーによる家電状況の把握」と、「通報システムによる入居者の管理体制の強化」です。

 これから行う検証では、「通報」や「警報」、「呼び出し状況」などの実績データを取得していきます。

 対応としては、例えば「アラート回数」「警報回数」が多い住戸に対しては重点的に、かつ効率的に訪問できるように体制を整えます。すべて等しく訪問するのではなく、アラートなどの異常が多い住戸に関して、効率的に接触を強化していきます。逆に、健康に過ごしており、あまり発信のない住戸に関しては、不必要な接触を避ける方針で効率化ができるものと考えています。

 また、マンションには今後、定期点検がありますので、その際に居住者へのアンケートを実施する予定です。さらに、離れて暮らす親族にも、「このシステムを導入したことによって精神的な負担に変化があったか」など、ヒアリングしたいと思っています。マンションのスタッフに対しても、「このシステムがあることによる管理上の有効度合い」などをヒアリングして、探っていきたいと思っています。

 本プロジェクトのシステムによって、「健康状態に不安が見られる入居者」や「夜間に異常な行動が確認された入居者」などに対して、従来以上の初期対応が可能になると想定しています。

 最終的に、ここで得たデータをどのように展開・活用できるかは検証の結果次第になると思いますが、今後は、いろいろな機関と連携しながら活用方法を探っていきます。現状では、まだ入居から2か月程度です。これからの検証に期待していただきたいと思います。

──「安心・安全」が求められる世相の中、離れたところからでも「安心」を得ることができるシステムの需要は多いと思います。今はコロナ禍にあり、人と人が容易に接触できない状態です。こうした状況においてセンサーというのは、非常に有効に活用できると思います。「センサーによる健康管理や見守り」は、このような時代だからこそ、必要とされるのかもしれません。