5年目となる今回のシンポジウムも、昨年に引き続き新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に配慮して、ウェビナー開催となった。基調講演には神奈川工科大学の一色正男教授が登壇。ニューノーマルな生活様式が定着し始め、またサステナブルであることが大きなテーマとなっている中で、これからのIoT次世代住宅に期待される役割について語った。

[動画]【基調講演】神奈川工科大学教授 一色正男氏
ウェビナーで基調講演を行う一色正男教授

 今日は皆さまと一緒に、「ニューノーマル時代のIoT次世代住宅」について考えていきたいと思います。

 ニューノーマルの時代と言われる昨今、サステナブル、すなわち持続可能であることが大きなテーマとなり、多くの産業がそこへシフトしています。身近でパンデミックという大きな出来事が起こっている中、色々なところで産業の新しい形が追求されています。

 そして、住宅の中に様々な形でインターネットが導入される、IoTの時代。「サステナブルとIoTが融合したときに、新しい時代がくるのではないか」、私はそんな考えを抱いています。今日は、そんな話ができればと思っています。

一色 正男教授が関わってきた事業(資料:一色正男)
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 簡単に私の自己紹介をします。

 まず上の図の中央にあるネットワーク家電の写真は、私が関わって2002年に商品化したものです。「インターネットが住宅に入ってきて、いつでも使えるようになる。ならば、いろいろな家電たちがつながると良いのではないか」という発想でつくられました。「機能がサービスになる」というのが、一つのコンセプトでした。冷蔵庫や洗濯機がインターネットに接続できて、インターネットプロトコルで動く。当時としては画期的でした。世界最初のIoTネットワーク家電であると誇っています。

 私はその他、W3CやWebの技術開発や仕様の策定、現在はスマートハウスの研究センターなどにも関わっています。

(関連記事:2018年のシンポジウム基調講演 IoTスマートハウスへの期待

非接触化とオンラインコミュニケーションの進化

非接触化&オンラインコミュニケーションの高度化について解説する図(資料:一色正男)
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 パンデミックの時代、そしてニューノーマルの時代。現在、住宅への関わり方が大きく変化しています。上の図にあるように「非接触」「オンラインコミュニケーションの進化」といった技術が住宅に入ってきました。

 図の右側にあるような住宅に付随する設備が、パンデミックを受けて「非接触」の方向に進化しています。例えば「トイレに入ると便座の蓋が開き、自動で水が流れる」「蛇口を触らずとも、手をかざすと水が出る」「換気扇が他のものと連動して、スイッチを押さなくても動く」など。また多くの住宅メーカーが、「顏認証で開く玄関ドア」を採用し始めています。これらはすべて非接触で機能します。便利であると同時に、感染症によるパンデミックを抑える効果があると期待されています。

 自動化された非接触の設備機器は、ドアが開く、水が出る、トイレに人が入ったなどをセンサーが検知することで動作が起こりますが、この動作がまた次の動作を起こすきっかけにもなります。一つの機能がネットワークとなって互いに影響し合うことで、新しい形となる可能性も含んでいるのです。

 こうした中で、ホームネットワークはそれらを上手につなぐ技術として進化してきています。特に、太陽光発電や蓄電池を連携させる際には、省エネの技術、すなわち無駄を抑える技術がどんどん導入されています。電気を少しでも節約する技術は、「電気代が減る・電気を有効活用できる・エネルギー効率が上がる」と、様々な形で社会に貢献し得るサステナブルな技術です。

 また、上の図の中央付近に「開いた窓と人」が描かれていますが、これは「窓を開き、換気をしている」イメージです。今後、こうした行為は「家の中のCO2濃度が増えると、自動的に天窓が少し開く」といった具合に自動化され、新しいサービスやビジネスにつながっていくと考えられます。

 もう一つ、図の左側にあるのは「オンラインコミュニケーション」の例です。インターネットという情報通信技術が進み、それぞれの住宅の中で多くの機器がつながり合い、映像をはじめ色々な情報が伝わるようになりました。ここにアバター(分身・会話用ロボットなど)が登場すると、少しずつリアリティーを持ったコミュニケーションに変わってきます。

 今までは「住む」ことだけがテーマだった住宅が、これからは「人がいかに生活しているか知り、人をいかに助けるか」といったように、少しずつテーマが広がってきていると感じています。まるで住宅が意思を持っているようで、ちょっと不思議な気がしますが、「住宅がその中に住まう人を知り、そして住まう人にとっての助けとなる」、そんな新しい時代の住宅へと進化しつつあると感じています。

人を幸せにするIoTスマートハウス

人を幸せにするIoTスマートハウスのコンセプト図(資料:一色正男)
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 上の図の左側は高齢者の家、右側はその息子家族の家を表しています。どちらの家も2030年には、通信網を持ったインターネット住宅「フルIoT住宅」になっているだろうと考えられます。

 そこでは、例えばおじいさんが「朝起きるとトイレの照明をつけて使用し、キッチンに行き水を出してお湯を沸かし、テレビをつけて…」と、一つひとつの設備機器を動かします。すると、そうした一連の動作が情報としてAIに蓄積され、そうするうちに「いつも通りの行動をしている」ということを、AIが理解するようになります。

 「今日のおじいさんは調子が良い」と知ったAIは、息子の家にそれを「きずな情報」として送り、それを受け取った息子の家のAIは、息子家族がいるリビングの照明を青く点滅させる。息子家族はそれを見て「おじいさんの安否を確認して安心する」といったことが実現することでしょう。

(関連記事:2018年のシンポジウム基調講演 IoTスマートハウスへの期待

 住宅がインテリジェントになり、住宅と住宅が通信し合うようになると、住宅が人の幸せを考えてくれる時代になるかもしれません。「部屋の温度が高すぎたら自動でエアコンをつけて温度を下げる」ということも実現するでしょう。人を幸せにするという観点でこうした技術を実装していくことが、より良い未来をつくると思います。皆さまの知恵で、ぜひ新しいサステナブル、ニューノーマルの時代をつくっていただきたいと期待しています。

オンラインコミュニケーションが作る未来

オンラインコミュニケーションが作る素敵な未来について解説する図(資料:一色正男)
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 オンラインコミュニケーションが作る素敵な未来の一例として、「OriHimeロボット」を紹介します。

 このロボットには目、口、手足があり、ロボットカフェで仕事をしています。オーダーを受けると商品を運び、挨拶をして戻ってくるのですが、実は、遠隔地にいてベッドから出られないような障がいを持っている方がコントロールしています。この障がい者の方はコントロールする「仕事」をして、社会参加と貢献をしている。今までは社会に参加することがなかなか難しかったけれど、アバターロボットを通して社会に参加し、社会の基盤を助けることができるというわけです。現在、このカフェが各所につくられ、「OriHimeロボット」が実装されています。

 このようなロボットが、これからは住宅にも入ってきて、高齢者がロボットをコントロールして歩き回る時代が来るかもしれません。すべてがインターネットにつながった世界では、こうした新しいコミュニケーションのあり方によって、面白いことが起こるのではないかと思っています。これもネットワーク時代の、新しい住宅の姿といえるでしょう。

オープンプラットフォームが世界を作る

 サステナブルな時代・ニューノーマルの時代は、技術的にはオープンプラットフォームの中で仕事をすることが重要です。「自分の会社だけ」という独自性を考える時代はもう終わったのではないかと思います。21世紀はオープンなプラットフォームの上に「いかにサービスを乗せ」「いかに機器をつくり」、それらを「みんなで育て、つくっていくか」という考え方が重要です。一つの試みを「どのように使っていくか」ということが重要なのであって、似たような試みをみんなで競争する時代はもう終わったのではないかと思っています。

オープンプラットフォームが世界を作る概念図(資料:一色正男)
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上の図の中央にあるのは、「ECHONET Lite」というIoTの規格と(2019年のシンポジウム基調講演「IoT次世代住宅が暮らしを変える」参照)、インターネットを見る規格の「Web」です。

 これらは「サービスプラットフォーム」と呼ばれます。このサービスプラットフォームは、両方とも(ECHONET LiteもWebも)オープンなプラットフォームです。オープンとはつまり、どこの国でも同じ規格が使えるということです。日本ではこのような形式でIoTスマートハウスを設計し、10年頑張ってきました。機器も約1億台になり、経済産業省や国土交通省に支援していただき、多くの実装も進んでいます。

 「オープンプラットフォームこそが世界をつくる」と理解していただいたうえで、皆さまのサービスづくりについての論議が行われることを望んでいます。

「ソフトウェア・ファースト」の時代へ

 ネットワークの時代は、「ソフトウェア・ファースト」が大事と注目されています。ニューノーマルの時代は、「サステナブルであること」そして「ネットワークに乗っていること」「オープンプラットフォームの上にいること」が重要だというお話をしてきました。実は、その先があります。それが「ソフトウェア・ファーストの設計」という概念です。

 簡単に言うと「アップデートができる」ということです。もうすぐ住宅もビルも、アップデートできる時代がくる。次世代のIoTスマートハウスのビジネスは、アップデートができる。ソフトウェア・ファーストの時代をいかにオープンプラットフォームの上につくれるかというのが勝負になります。最近ちょうど論議され始めたところですが、ぜひ皆さまの知恵をいただきながら、世界中に素敵なサービスを発信していけるといいなと思っています。

「ソフトウェア・ファースト」の時代ついて解説する図(資料:一色 正男)
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 上の図の左上にあるのはアップデートできる機器です。パソコンや携帯電話はもちろん、テレビも夜間放送の中のデータでアップデートしています。アップデートの仕組みというものを、みんなで考えて決めたからこそ実現できているのです。自動車では、テスラが10年くらい前から行っていますが、他のメーカーも各社独自のアップデート方法を使いながら少しずつ進んでいます。機器をつくるメーカーは、初めてのことで「恐ろしい」と感じる面があるかもしれませんが、これをやらないと次の時代を生きていけません。

 「ソフトウェア・ファースト」とは何か、それはハードウェアをソフトウェアの変更に耐えるように設計するということです。これは、ソフトウェア・ハードウェアがより長生きするということでもあります。アップデートできる自動車まで進んできた現在、次は「アップデートできる住宅・ビル」が目標です。皆さまで、未来の新しいかたちを論議し始めてほしいと思っています。

(関連記事:2021年のシンポジウム基調講演 IoT次世代住宅がつくる「新しい生活様式」

 「ニューノーマルの時代」というキーワードの中で、一緒に素敵な未来の住宅をつくっていきましょう。