オンライン開催となった、第5回「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)」シンポジウム。プログラムの最後には、「サステナブル住宅事業の新しい方向性」について議論するパネルディスカッションが行なわれた。話題は過去の採択事例の振り返りから、ニーズ調査結果による分析、今後の住宅施策および、次年度の本事業に期待する取り組みテーマなどに及んだ。

[動画]パネルディスカッション ~「サステナブル住宅事業の新しい方向性」について~
  • 【パネリスト】
    • 一色 正男 神奈川工科大学 創造工学部 ホームエレクトロニクス開発学科 教授
           スマートハウス研究センター所長
    • 松本 潤朗 国土交通省住宅局住宅生産課住宅ストック活用・リフォーム推進官
    • 野中 賢 日経BP総合研究所 上席研究員
  • 【モデレーター】
    • 安達 功 日経BP総合研究所 フェロー

──シンポジウムの最後は「サステナブル住宅事業の新しい方向性」について、今後の事業の進め方なども含めディスカッションをしていきたいと思います。

 最初に、これまでの採択事例についてのコメントを、一色正男先生と国土交通省の松本潤朗さんからいただきます。

 2番目に、先ほど日経BP総合研究所の高橋から紹介があった「次世代住宅に関するニーズ調査」について、意見を交えたいと思います。

 3番目は松本さんに、今後の住宅政策についてお話いただきます。サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)の事業は国の成長戦略、あるいは国土交通省の住宅政策とかなりリンクしているので、そのあたりも踏まえた解説をいただきたいと考えています。

 最後に、サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)は、2022年4月から新年度の事業が始まる予定ですので、そちらについてご紹介しつつ、今後の展開についてお話したいと思います。

パネルディカッションの4つのテーマ(資料:日経BP総研)

──最初に採択事例へのコメントとして、この事業の開始当初からずっと伴走していただいている一色先生から、ご意見、感想などいただきたいと思います。

一色(神奈川工科大学教授):この事業は国土交通省と連携して進めている事業です。住宅産業を先導する国土交通省らしく、「人が住まう」ということについて真剣に考えながら、そこに新しい技術を「どう入れていくか」ということを議論している点が素晴らしいと感じています。

 通信技術の部分は、住宅産業とは別の業界が設計開発を担っているケースが多く、国土交通省とは別の省庁が関わっているものですが、やはり「人が住んでいる実際の場所で、その技術使っていこう」という考え方こそが重要です。この事業は「住宅における技術の使い方」について、いろいろな方々の知恵を集められる、とても貴重な機会だと感じています。

 事業が開始された頃は、省エネに対する提案を主に扱ってきました。省エネ技術とは、新しい社会をつくっていくうえで基盤になる技術ですので、最初はその部分に注目してきたわけです。一方で、IoT技術は省エネだけでなく、人を幸せにする可能性に満ちています。IoT技術を、単なる技術としてではなく、新しい住まい方や新しい価値を生み出すために「使う」という視点を持って、皆さんと議論していきたいと考えています。

 多くの住宅メーカー、そしてそれに関わる人たち。様々な人がアイデアを出し合いながら、事業に参加されています。新しいアイデアも、オーソドックスな仕組みも、今後どんどん現われてくることに期待しています。

──一色先生、ありがとうございます。本日、採択事業者の最新の事業報告を聞いて、「ここまで進んでいたのか」と感心したり、あるいは「今後に期待」という感想を持ったのではないかと思います。採択事業者の報告について、松本さんからもコメントいただきたいと思います。

松本(国土交通省):本日、発表された6件の事業報告を見ていると、私がシンポジウム冒頭(開会の挨拶)で触れた、「国が積極的な支援に取り組む分野」の6つの分野がほぼ網羅されていました。さらに「防災」など、6つの分野に限らない興味深い提案もあり、意欲を感じました。

 取り組み方に関しても、自治体との連携であるとか、地域のNPOが主導する取り組み方など、ニーズに迫る提案がなされています。一色先生のお話にありました、まさに「技術を使う」という視点で議論がなされていると感じました。

 これまで「人間が当然にやるべきこと」、あるいは「機械には不得手な分野」として、諦めていたような分野でも、「IoT技術を使って豊かな環境をつくり出そう」という意欲を感じています。

オンライン方式で行なわれた今回のパネルディカッション。参加者は、一色正男・神奈川工科大学教授(左上)、松本潤朗・国土交通省住宅局住宅生産課住宅ストック活用・リフォーム推進官(右上)、野中賢・日経BP総合研究所上席研究員(左下)と、モデレーターとして司会進行を担った安達功・日経BP総合研究所フェロー(右下)

──ありがとうございます。さて、続いてのテーマです。先ほど解説があった「次世代住宅に関するニーズ調査」の結果について、私個人的には、394人の回答者のうち約4割がIoT技術に携わったことがあるという結果を見て、「ここまできたか」という印象も抱きました。このテーマについても感想、意見など、一言ずつお願いします。

一色:大変素晴らしい結果です。こうした調査結果を見るたびにいつも「かなり伸びたな」と感じているのですが、今回は特にそう感じました。私が20年前に、インターネットに家電を接続するということを始めたら、世界中から「クレイジー」と言われました。しかし、インターネットの普及が進めば、こういう時代が必ず来るだろうと思っていました。

 一見難しそうに見えても「使うとわかる」というものが増えてきていますし、「使ってみたい」と考える人々も増えているようです。実際に使ってみると、「さらに、こういうことをやるといいよね」というアイデアが連鎖的に出てくるとも思っていますので、さらに理解が浸透することを期待しています。

──調査結果では「これからやるべきかどうか迷っている」という層がかなりいました。そのあたりの層に対し我々はどのように働きかけていくかというのも、重要なテーマだと思っています。松本さんは今回のアンケート結果をご覧になって、どんな感想、印象をお持ちになりましたか。

松本:企業の方々が自由回答されたデータの一覧を見ました。「トレンドだから」「伸びる分野だから」「差別化のためには避けて通れない」というようなコメントが多かったのが印象的でした。

 そのほか目を引いたのは、「IoTに不慣れな高齢者の方をどのように取り込むかが課題」「住宅価格が高騰している中で、どうやってコスト以上のメリットをお客さんに感じてもらうか」というコメントで、取り組み始めの段階で、悩みを吐露されているようなコメントがそれなりの数あった点が印象的でした。

──われわれも定量的な数値だけではなく生の意見も個別にしっかり読み込んで、今後のハードルを低くするような取り組みを行っていきたいと思います。

今後の住宅施策に対し国土交通省が示した目標

──さて、3つめのテーマ「関連する今後の住宅政策」ということで、2022年度以降の住宅政策のポイントについて、松本さんから簡単にご説明をお願いします。

松本:国土交通省の住宅政策を中心に、簡単にお話しします。下の資料が「新たな住生活基本計画」の概要です。2021年3月、国土交通省の住宅政策の基本になっている「住生活基本計画」を改定しました。これに沿って2022年度も取り組んでいきます。

「新たな住生活基本計画」の概要(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 この計画では、課題克服のために3つの視点から8つの目標を設定しています(図の下部分に表記)。この8つの目標の中から、サステナブル建築物等先導事業(以降、次世代住宅事業)と関係するものとして、3つ取り挙げてご紹介します。

 一つ目は、「目標1」に設定された「『新たな日常』やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現」についてです。

目標1「『新たな日常』やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現」について解説する資料(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 コロナ禍におけるライフスタイルを、どのように踏まえて住宅政策をするか――。ポストコロナによる住環境の変化によって、職住一体や地方移住といった動きが加速しています。われわれもそれに対応していく必要があるわけです。

 次世代住宅事業とは別の事業になるのですが、住宅にテレワークスペースを設ける、あるいは地方で空き家を取得してそれをリフォームして住み替える、といったものに少し手厚く支援をするということも検討し、支援を始めています。

 次は目標6の「脱炭素化、カーボンニュートラル」に関してお話します。

目標6「脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成」について解説する資料(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 次世代住宅事業との関係では、HEMSなどが非常になじみ深いと思います。住宅政策としては、「これから新築で建つ住宅・建築物を省エネにする」というのは、ある意味当たり前と考えています。新築ではなく、今すでに建っている住宅・建築物を「どうやって省エネ化していくか」という点こそが、まさにこれからわれわれが、一生懸命取り組んでいかなければいけないところであると考えています。

 最後に、目標3に設定している「子育て支援」について解説します。

目標3「子どもを産み育てやすい住まいの実現」について解説する資料(資料:国土交通省)
[画像のクリックで拡大表示]

 現在、国は住宅政策に限らず、あらゆる政策で「子育てを応援していかなければいけない」と考えています。

 住宅政策の最近の取り組みの中から例を挙げてみましょう。

 子育て世帯の方々は教育費負担が重いので、家計的にも不利な要素があります。そこで、子育てしている世帯が、取得する住宅の質を下げずに済むように、手厚い支援を検討しています。また、子育て世帯がマンションに住んでいる場合は、子育てしやすい環境を用意するため、コミュニティを育みやすいマンションづくりに対する支援も検討しています。このように住宅政策面から、われわれも積極的な取り組みを始めているところです。

──松本さん、ありがとうございました。住生活基本計画というのは、国の住宅政策の骨格になるものなのですが、その中から「ニューノーマルDX対応」「省エネの脱炭素対応」「子育て支援」という3つの目標を挙げていただきました。このあたりは次世代住宅事業の目標とも親和性が高く、実際のエントリーにも多く見られるテーマです。

子育て支援へのIoT活用に期待

──最後、4番目のテーマに移ります。今後の事業の展開と期待についてディスカッションをしていきたいと思います。まず国土交通省の松本さんから、現状でお話しできる範囲で構いませんので、来年度の事業の予定をお聞かせいただけますでしょうか。

松本:2022年度も、この「サステナブル建築物等先導事業(次世代型)」による支援は、引き続き行っていきたいと思っています。4月中には第1回の募集開始をしたいと思っており、国土交通省のホームページでプレスリリースを行う予定です。

 次年度の事業に期待する分野として、仮にひとつ、私から皆さまに提案を投げかけるとしたら、個人的には「子育て支援への活用」というのを挙げておきたいと思います。

 先ほどのアンケートで、次世代住宅がどういう分野で住生活の質の向上に寄与するか、という話がありました。「省エネ」「防犯」「新たな日常」「高齢者の見守り」などの話が強く意識されていたのですが、意外だと思ったのは、「子育て支援」というテーマが、それほど強く意識されていないと感じた点です。

 子育て世代はIoTとも非常に相性が良いと思います。日常的にIoT機器を使いこなしている方々が多いはずなので、ここにうまくはまると、爆発的に普及するのではないかという気もしています。

 IoT技術というのは、いろいろなニーズに活用できると思うので、当然あらゆる分野に対し支援していきたいと思っていますが、中でも「子育て支援」に関して前向きなご提案があれば、歓迎したいと考えています。

 もちろん、「新たな日常に対応した新しい住まい方」「住まいながら働く新しい働き方」など、ニューノーマルに関するご提案も、引き続き歓迎し、支援していきたいと考えていますので、率先してご提案、ご応募していただければと思います。

──松本さん、ありがとうございました。最後に今後への期待ということで、冒頭でご紹介した過去17事例の分析を始め、本事業を取りまとめた野中さんと、二人三脚で進めてきた一色先生からコメントをいただきたいと思います。

野中(日経BP総研):シンポジウム冒頭の「事例分析」でお話したとおり、やはり提案の幅がかなり広がってきていると感じています。HEMSにしてもセンサーにしても、当初は基本的な使われ方が主流で、固まっていた思考からどんどん幅を広げて、「こんなことにも使えるんだ」という活用方法が提案されるようになったと思います。

 本年度も、「物資の管理」や「防災」など、新たなものが出てきました。松本さんのお話にもありましたように、これからは「子育て支援」も国をあげて何とかしなければならないテーマだと思いますので、期待される分野だと思います。

 今後も、「実はこんなアイデアが使えるのではないか?」という挑戦を、皆さんどんどんぶつけていただければと思います。この事業は、住宅だけでもだめ、IoT技術だけでもだめで、うまく両方がセットになって、はじめて取り組むことでできる事業ですから、上手くコラボレーションしてやっていただけると、さらに広がりが出てくると思って期待しているところです。

──「子育て支援」というのは、もちろん「子供を育てることを支援する」という意味ですが、「子を育てる親を支援する」という意味も含んでいます。ニューノーマル時代の住宅の変化で、「家が学校になる」「家が職場になる」といった現象が実際に起こっています。そうなってくると、そこにもやはりサポートが必要となり、「ニューノーマル時代の住環境を支える」というのも広い意味での「子育て支援」である、といった捉え方もできるのではないかと思います。

一色:提案がいろいろな領域に広がっているというのは、大変素敵なことだと思います。 松本さんがおっしゃった「子育て世代の支援」についても、いろいろな形での支援があると思います。様々なアイデアが存在している訳です。

 例えば、インターホンと住宅の中の家具や家電、そして携帯電話がつながることで、子供の在宅や帰宅がわかるという仕組みでも、結構大きな支援になったりします。「ちょっとしたことでも、この事業では実証対象になる」このことを知っておいていただけると、うれしく思います。

 難しいことをたくさんやるのも良いですが、今回、国土交通省とやっているこの事業は、「実装してみてどんな良いことがあったか」、または「どんな課題があるか」というのを発見し、論議するというのが本来の目的です。「今までにもあった技術や提案」、また「過去に提案されたものと同じ」でも構わないというのが、大きな特徴ともなっています。

 他の会社が過去に取り組んだ事例に、同系統アイデアのものがあったとしても、場所や条件が異なれば、違うテーマになる訳です。違う結果が出るならば、それは貴重な提案となり得ます。「視野を広く見て、多くの人がアイデアに対する実装を試みる」ということに期待しています。

──次年度の事業も4月中に公募開始予定です。公募が開始されたら国土交通省のホームページ、および日経BPで運営している「ススメ!次世代住宅」というWebサイトでも告知します。

 エントリーされた皆さんには、われわれ評価事務局も全力でサポートをします。フィールドワークや実証というのは大変な仕事ですが、同時に非常に大きな価値があるものです。もちろんサポートするわれわれにとってもそうですし、当事者の皆さまにとっても大きな財産をもたらすものだと思っています。興味を持たれたら、ぜひ4月以降のこの事業開始にエントリーしていただきたいと思います。わからないことがあれば、後日問い合わせフォームの窓口を公表しますので、そちらからお問い合わせください。

 以上で、今回の次世代住宅のシンポジウムは終わります。松本さん、一色先生、ありがとうございました。視聴された皆さん、お疲れ様でした。エントリーをお待ちしておりますので、よろしくお願いします。