製造業でIoTやAIの導入が注目されるようにはなったものの、実際には大手のハイテク製品メーカーしか縁がないと思われがち。しかし課題の解決に積極的な製造業は、規模や業種に関係なくIoTやAIの活用を始めている。その典型的な例が、熊本県玉東町のミシン針メーカー「九州オルガン針」の取り組みだ。IoTやAIでミシン針の品質管理を高度化した同社の取り組みからは、中小の製造業がIoTやAIを活用するためのヒントが見えてくる。(取材・文:松尾康徳)

 ミシンでの縫製作業に使用するミシン針の市場は、明るい状態とは言いにくい。家庭でのミシン利用機会減少や国内の縫製業低迷などを背景に、市場は2004年にピークアウトしている。事業から撤退するところも出ており、日本国内のメーカーは数社だけになっている。その中の1社に長野県上田市に本社を置くオルガン針がある。九州オルガン針は、同社の子会社で主にミシン針の国内生産を担っている。

熊本県玉東町の九州オルガン針工場
(撮影:栗原克己)

 特に縫製業が盛んなアジアの工業用ミシン針の市場で、同社は中国やベトナムの工場を含めたグループ全体で約3割のトップシェアを占めるとされる。同社に安定的な収益をもたらしているミシン針だが、市場そのものが縮小傾向にある中では安閑とはしていられない。競争力を高めるために同社が強化を図っている工程の一つが、完成品の検査だ。

1日70万本を100台の機械で全数検査

 同社のミシン針は17の工程を経て作られる。素材をスウェージング加工して細く伸ばしながら作る工程は複雑で、研磨だけでも4工程あるという。縫う布の種類などによって最適なミシン針は変わるため、同社の場合ミシン針は品番にして約4000種類もある。それを1日に約70万本作るため、多品種と大量生産の両方に対応しなければならない。

 一方で一本一本の針には適切な品質管理が求められる。特に注意が必要なのが針の「曲がり」だ。針は熱処理の過程でどうしても曲がりやすいが、「針が少しでも曲がっていると、縫った布の中に入り込んでしまう恐れがある」と同社取締役管理本部長の江藤怜氏は言う。そこで同社は針の曲がりを自動的に検出して矯正する機械を製作した。針を回転させ、そこにレーザー光を当てることで曲がりを検出し、曲がっている部分を上からハンマーで叩いて矯正するものだ。

 1日約70万本作る針を全数について曲がりを矯正するために、工場には矯正機が約100台並べられているが、叩き続ける矯正機は故障による停止が避けられない。故障発生時はパトライトを点灯させアラートしていたが、それだけでは約100台の矯正機のどれが停止したか分からず、止まっている機械を探し出し、原因を見つけて対処するしかなかった。

工場に約100台並べられた矯正機で針の曲がりを検出して曲がった針を叩いて矯正する
(撮影:栗原克己)

 そこで矯正機をIoTでつなげて稼働情報を見える化。PLC(programmable logic controller:機器の動きなどを制御するコントローラ)を介してすべての矯正機の稼働情報が一つのモニターに表示されるようになり、止まった機械をすぐに特定できるようになったという。

 IoTの効果は稼働情報の見える化だけにとどまらない。モニターには停止した機械だけでなく、良品率が目標値を下回っている機械も色分けして表示している。従来は良品率を測定するために矯正後に良品と不良品で振り分けられた針の重量をバルクで測っていたが、IoTでつなぐことにより針の具体的な本数をPLCから得られるようになり、リアルタイムで良品率を測定できるようになったのだ。目標値を下回っている機械は、故障が近いことが予想される。そうした機械を優先的にメンテナンスすることで、全体の稼働率を高められる。

 見える化できた情報はそのほかに、稼働回数やハンマーやエアシリンダーの状態などもある。生産本部生産技術部生産技術課係長代理の菰田賢人氏は「これらのデータも蓄積し、高度な管理ができないか分析を始めている」と、さらなる活用を目指しているという。

約100台の矯正機をIoTでつないで稼働情報を一つのモニターに集約
(撮影:栗原克己)

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