大きな変革期を迎えた製造業の最前線というと、自動車や電子機器、機械など組み立て作業を伴う現場が紹介されることが多い。こうした形で取り上げられる機会が少ない医薬品業界においても、実は大きな変革が起きている。かつて半導体産業や電子産業で起きた水平分業化である。そして、製薬会社から医薬品の開発・量産を受託する「医薬品製剤開発・製造支援事業(Contract Development and Manufacturing Organization:CDMO)」と呼ばれる業態の企業が急成長している。CDMOの存在感が高まり、医薬品のバリューチェーンはどのように変わり、新たな価値が生み出されていくのか。日本を代表するCDMOであるシミックCMOの代表取締役 CEOの松川 誠氏と同社 執行役員 事業開発本部長の村上秀樹氏に聞いた。(取材・文:伊藤元昭)

――CDMOとは、どのようなビジネスなのでしょうか。

松川氏 世界の医薬品業界では、以前から、CMO(Contract Manufacturing Organization)と呼ばれる、製薬会社が生み出した薬を受託製造するビジネスがありました。新薬の研究開発には莫大な資金が必要であり、また最近では薬事審査の難易度も急激に高まっています。CMOは、経営リソースを創薬や臨床開発など医薬品の研究開発に集中させたい製薬会社の思惑に応える形で、米国で生まれました。日本では、医薬品の製造販売業や製造業など業許可要件が大幅変更となった2005年以降、急速にCMOビジネスが広がりました。

 そして近年、製造に加えて、開発(Development)に相当する工程である製剤研究や治験薬製造も外部委託が望まれるようになりました。そうして生まれたのが、開発から製造までを受託するサービスであるCDMOなのです。

(画像提供:シミックCMO)

創薬以外の工程は外部委託可能

――半導体ビジネスや、スマートフォンなど電子機器のビジネスでも似たような業界の水平分業化が起きています。ブランドを持つ企業が新製品開発を進め、半導体ファウンドリーや電子機器製造受託サービス(EMS)が様々な企業の製品を受託生産するのが当たり前になりました。よく似ているように見えます。

村上氏 水平分業化が進む背景にある事情はほとんど同じですね。研究開発の難易度が高まると、開発と製造を別の会社が役割分担して、リスク軽減しようという発想が出てきます。電気・電子業界では、2000年くらいから台湾の鴻海精密工業などのEMSが、電子機器メーカーやコンピューターメーカーなどの工場を従業員ごと居抜きで取得し、1社で15兆円以上売り上げるまでに急成長しました。医薬品業界でも、CMOの受託ビジネスを行う企業が、名だたる製薬会社の工場を次々と購入し、成長しています。

シミックCMO 代表取締役CEO 松川 誠氏 (左)
シミックCMO 執行役員 事業開発本部長 村上秀樹氏(右)
(撮影:栗原克己)

――CDMOでは、開発も受託するということですが、それでは製薬会社のやることがなくなってしまうように見えます。

村上氏 製薬会社は、医薬品のバリューチェーンの中でも特に付加価値の高い、創薬の部分に注力します。医薬品開発の流れは、まず薬効がありそうな新しい物質を見つけ、権利化する創薬から始まります(図1)。次に、安全性や有効性を研究室で動物などを使って確認。確認できたら、人に投与して臨床試験をすることになります。

図1 医薬品のバリューチェーンと受託サービスの役割
(図版提供:シミックCMO)

 ただし、薬効があり、安全性が動物などで確認されたら、すぐに臨床試験ができるわけでも、量産する医薬品が出来上がるわけでもありません。患者が飲みやすく、体内の狙った場所に薬を確実に届けられるかたちに仕上げる必要があるのです。

 医薬品の中に入っている有効成分は、少ないものならば耳かきの先1杯にも満たないほど微量です。そのままでは、扱うことも、服用することも難しくなります。このため、でんぷんなどの賦形剤を加えて扱いやすい量に増やし、服用しやすい医薬品にしています。また、錠剤やカプセル剤の形状や大きさ、コーティングなども、体内で狙い通りに機能し、品質を維持できるように設計しておく必要があります。この工程を、創薬とは区別して、創剤(製剤研究)と呼んでいます。CDMOが行う開発とは、量産する医薬品の製剤設計や治験薬製造のことを指しています。医薬品を饅頭に例えれば、饅頭の餡に当たる有効成分を開発するのが製薬会社が行う創薬、手に持って食べやすくするための皮に当たる部分を開発するのが、私たちCDMOが行う製剤研究というイメージです。

 製剤研究の段階では、製品である医薬品を円滑に大量生産できるようにしておく必要があります。既存の製造設備を使って、設計した製剤を確実かつ低コストで製造するための方法を開発する必要があるわけです。つまり、製造プロセスとの間で連携しながら、きっちりとすり合わせることが重要になります。このため、製剤研究は医薬品を製造する企業が自ら行った方がスムーズに進むのです(図2)。

図2 医薬品の製剤研究と工場での製造の間では密な連携が求められる
(図版提供:シミックCMO)

 ちなみに、今では研究室での動物実験や臨床試験の部分も、製薬会社が外部企業に委託するようになりました。こうした医薬品開発支援事業のことをCRO(Contract Research Organization)と呼んでいます。さらに、最近では医薬品バリューチェーンの下流であるマーケティングや営業支援を受託するCSO(Contract Sales Organization)と呼ぶ事業も成立するようになりました。これらも私たちは受託しています。