IoTやAIなどの最先端のテクノロジーを駆使して製造業の課題を解決する、いわゆる「デジタライゼーション(デジタル化)」の動きが加速する中、デジタル化が描く未来のものづくりに独自のアプローチで迫るのが、群馬県太田市に本社工場を構える中堅金型メーカーのファベストだ。技能(人)や立地を問わず誰もが金型製作に従事できるような仕組みの構築を目指し、徹底した自動化の実現に取り組む。(文:関 行宏)

 ものづくりの「マザーツール」とも呼ばれる金型は日本の隠れた花形産業の1つ。高度経済成長期の1960年代半ばから急速な成長を遂げてきた。しかし、国内製造企業の多くが生産拠点を海外に移転したことなどを背景に金型の国内需要は減り、経済産業省が発表している「機械統計年報」によれば、生産高は1991年の約5500億円をピークに何回かの変動を繰り返しながら漸減しつつあるのが実状だ。

 厳しい状況の中で、それぞれの金型メーカーが生き残りをかけて取り組むのが金型製作の自動化および効率化である。最近の大きなトレンドである「デジタル化」の概念を採り入れながら、金型の設計、切削等の加工、トライ品(試しプレス)の評価、および玉成(ぎょくせい・完成レベルにすること)に至る一連の工程の納期の短縮とコストの削減を目指す動きが加速しつつある。これによって金型に求められるニーズの変化に対応するとともに、競争力の強化を図るのが目的だ。

100%近い設備稼働率を実現

 「デジタル化」というキーワードが産業界に浮上してきたのは3年~4年前と比較的最近のことだが、それ以前にいち早く独自のアプローチで金型製造の自動化に積極的に取り組んできた企業の1社が、自動車を構成するフレームなどの部品製造に必要なプレス金型を製作するファベスト(本社工場:群馬県太田市)である。

ファベスト執行役員 工場長 金子豊久氏
(撮影:栗原正巳)

 動機のひとつになったのが少子高齢化問題である。近い将来に技能を持つ人材の確保がさらに難しくなると想定し、熟練度の高い人材に頼らなくても済むように、工場長である金子豊久氏の表現を借りれば「加工の専門知識を持たない素人でも金型製作ができる仕組み」を2000年から足掛け18年ほどをかけて構築してきた。もちろん、コストの削減、納期の短縮、競争力の強化なども原動力である。

 金型はいわゆる一品一葉の個別設計・個別製作になるため、量産品とは違って自動化や効率化が難しいとされてきた。また、プレスされる金属は、曲げ部分が元に戻ろうとするスプリング・バックなどの性質を持つため、除荷後の変形を考慮した設計補正など、様々なノウハウや技能を必要とする。金型製作を自動化するということは、逆に言えば、そうした専門技能への依存度を減らしていくことにほかならず、かなり難易度の高いチャレンジと言える(図1)。

図1 ファベストの金型を使って製造される自動車部品の例
(撮影:関 行宏)

 同社における金型製作の自動化のポイントはふたつある。ひとつが、金型を構成するブロック(鋼材)を自動的に加工する「FMS」(Fully automated Machining System of module)と呼ぶ独自システムを構築したことだ。段取りを含めて自動化を図り、人手による作業は鋼材をパレットに載せて投入するぐらいで、特別な技能は不要である。FMSの年間平均稼働率は96%を超えているそうで、24時間365日にわたってほとんど休みなく切削等の処理が自動的に行われていることを意味する。

 もうひとつのポイントが、ブロックの土台となる鋳造ホルダーの加工の高精度化である(図2)。加工済みのブロックをホルダーに組み付けるだけでほぼ完成レベルの金型が得られるように精度を高め、従来は当たり前だったグラインダーなどを使った修正作業をできるだけ排除した。

図2 ファベストが製作しているプレス金型の一例
左が、鋳造で作られる「ホルダー」。右が「ブロック」と呼ばれる複数に分割された金型。複数のブロックをホルダーに組み付けると金型が完成する。(撮影:栗原克己)

製造プロセスに大胆に踏み込んで効率化

 ここで、プレス金型がどのようにして作られているかを簡単に説明しておきたい。図3(上)は同社が自動化に踏み切る前の加工手順の概略である。使う部材は大きく2種類。完成部品とは逆の凹凸に加工され金型としての機能が与えられる複数の「ブロック」(鋼材)と、それらブロックを組み付ける土台となる「ホルダー」から構成される。

図3 従来の直列での加工手順(上)と、FMSの導入によって並列化を図った加工手順(下)の概要
(図提供・ファベスト)

 従来の手順は次の通りだ。まず顧客から提示されるプレス部品の図面や仕様に基づいて、設計担当者がブロックとホルダーを設計する。ホルダーは1800mm×2800mmなど大型で、専門の鋳物業者に発注され、およそ4週間後に納入される。その後、プレスする鋼板の強度に合ったブロックをホルダーに組み付けて、門型加工機を用いて型を切削成型していく。この手順はシーケンシャル(直列)処理である。ホルダーが納入されてからでないとブロックの加工ができないため、生産性は律速される。

 逆に考えれば、鋳造業者からのホルダー納入を待っている4週間ほどの間に、先行してブロックの加工を行っておけば、ホルダーにブロックを組み付けるだけで金型を完成できることになり、効率を上げられそうに思える(図3(下))。金子氏らもそうしたアイデアを当然着想した。

 ただし、そうした並行アプローチを実現するには大きくふたつの課題が存在した。「それまでは複数のブロック鋼材をホルダーに組み付けてから加工していたため、加工する装置を制御するCAMデータも1つだけ作ればよかった。ところがブロックを先行して加工するとなると、ブロックの数だけCAMデータと段取りが必要になる。付帯的な工数が逆に増えてしまい、採算にも影響してくることが分かった」(金子氏)。

 もうひとつの課題がホルダーの加工である。単品加工したブロックをホルダーに搭載して金型を完成させる新しいやり方を実現するには、ホルダー上にブロックの取り付け穴をきわめて高い精度で加工しておくことが前提となる。しかし鋳造は一般に寸法誤差が大きいため、ブロックを組み付ける部分の加工データは人が作成し、さらに切削位置の手前から工具を予備的に作動させる「エアーカット」を多めに確保するなどの対処が必要になる。これでは作業効率の改善になかなかつながらない。また、このプロセスを実践するために加工機の精度を一段と高める必要もあった。