データを集めるためのデバイスも多彩に

 データを活用するソリューションの展示が目立つ一方で、データを収集する様々なデバイスの分野でも目を引くユニークな展示があった。その1つが、堀場製作所の小型光沢計である。製品の塗装や研磨の仕上げ検査、洗浄機の洗浄性能の確認などに利用できる。本体の下面を対象物にぴったりと接触させると、本体背面から発した光の反射レベルから光沢度を割り出して数値で表示する。現状では人間の感覚に頼ることが多い光沢度をデータ化することで、仕上げ品質のバラつきを抑えることができるという。USBインターフェースを介して外部にデータを出力できるように設計されているので、一種のセンサー・デバイスとしても活用することが可能だ。

堀場製作所が展示したハンディタイプの光沢計
光を当ててその反射の度合いから光沢度を「見える化」する。(撮影:栗原克己)

 理研計器は小型のガスモニター「GX-3R Pro」などを出展した。26種類の可燃性ガスのうち5種類を計測できる。小型軽量のため作業者の腰のベルトに取り付けることが可能だ。Bluetooth通信システムを内蔵しているのが特徴で、ガス濃度が上昇し危険な状態になった際に、スマホ経由でアラートを発するというような使い方ができる。

5種類の可燃性ガスを計測できる理研計器のガスモニター
Bluetooth対応の通信機能を内蔵しておりスマートフォンなどに情報を送信できる。(撮影:栗原克己)

ヘルメットをウェアラブル端末に

 ユニークなコンセプトで多くの来場者の注目を集めていたのが、日本ハネウェルの「コネクテッドヘルメット」である。生産現場には欠かせないヘルメットに小型コンピューターやカメラ、マイクなどの情報機器を組み込んだものだ。Android OSを搭載したコンピューターにカメラやマイクなどを接続すると、装着した作業者の目の前にある小型ディスプレイに、マニュアルなど作業に必要な情報を映し出せる。音声入力による操作で必要な文書をディスプレイに映し、頭の向きでスクロールするようなことも可能なので、作業中で両手がふさがっているときでも情報にアクセス可能だ。

日本ハネウェルが展示した「コネクテッドヘルメット」
作業で両手がふさがっている状態でも自分で操作して必要な情報をその場で参照できるようにする。右側の写真が情報の表示画面。(撮影:栗原克己)

 初めて開催された2019年のIIFESでは、ものづくりの基盤を支えるFA、計測、制御を巡る新しい動きが、いち早く浮き彫りになった。2021年に開催予定の次回のIIFESでは、その先にある新しい時代の製造業の、より具体的な姿が見えてくるに違いない。

経済産業省が日本の産業革新の方向に言及

 IIFESの展示と並行して開催された様々なイベントの中で、多くの来場者を集めていたのが会期最終日の11月29日(金)に開かれた「世界ものづくりフォーラム」である。日・米・独3カ国の政府関係者や企業が登壇し、近年加速しているものづくりの革新について、最新の取り組みや今後の展開について語った。

 同フォーラムのプログラムの中で特に来場者が注目したのが、経済産業省 製造産業局 参事官(デジタルトランスフォーメーション・イノベーション担当)ものづくり政策審議室長 中野剛志氏の「コネクティド・インダストリーズ推進に向けた製造業の課題と取組」と題した講演だ。経済産業省が提唱している日本の産業の新たなコンセプト「Connected Industries」を推進する上での前提や今後の方針について、これまで以上に具体的なところまで踏み込んで言及した。経済産業省は、2017年から同コンセプトを打ち出しているが、コンセプトの実現に向けた施策などについて明確にしていなかった。これについて今回の講演の中で中野氏は、「何のためにコネクトするのか、あまり明確にしていなかった」とコメントしている。

 冒頭で同氏は、世界全体の政策不確実性指数のグラフを示しながら、ICTを活用したデジタル革新が産業界に必要な背景について語った。政策不確実性指数とは、政策の不確実性や政策に関連する経済の先行き不透明性を定量化した指標である。リーマン・ショックが起きた2008年から、この指数の増加傾向が続いている。このトレンドは一時的なものではなく、世界を巻き込む長期的なメガトレンドだと捉え、もはや時代が大きく変わったと認識すべきだと同氏は指摘した。

(撮影:松尾康徳)

 不確実性が進む中で企業の競争力の源泉となるのは、環境の変化に対応するために組織内外の経営資源を再結合・再構成する経営者の能力。いわゆる「ダイナミック・ケイパビリティー」だと言う。そのダイナミック・ケイパビリティーを強化することこそが、「デジタル化」の意味だと中野氏は訴えた。ここ数年、話題となった「製造業のサービス化」や「マスカスタマイゼーション」なども、ダイナミック・ケイパビリティーの強化につながる動きだと位置づけた。

“アキレスけん”はエンジニアリング・チェーン

 続いて中野氏は、Connected Industriesの核となっている原理の1つである「共特化」について説明した。共特化とは、資産と資産の間の相互補完関係によって価値を創造することを指す。つまり、個々の企業が得意とする領域において、単独で事業を展開するのではなく、企業間でそれぞれの強みを組み合わせて、それらの価値を高めることを指す。こうした共特化を実践するために新たなバリューチェーンを構築することがConnected Industriesの本質的な狙い。また、共特化のニーズや機会を感知し、実践する能力こそが、ダイナミック・ケイパビリティーだと語った。

 さらに同氏は、ダイナミック・ケイパビリティーを高めるうえで重要なポイントの1つが、既存の資源を効果的に組み直すことだと述べた。製造業においては、「企画・研究」「製品設計」「工程設計」といった一連のエンジニアリング・チェーンと、サプライ・チェーンを、データを介して連携させて生産性や品質、付加価値を高めることで、ダイナミック・ケイパビリティーを高めることができる。さらに世界の不確実性が進む中で製造業の競争力の向上を図る上で、デジタル化によるエンジニアリング・チェーンの強化は重要なカギだと強調。いわば、Connected Industriesを実現する上での“アキレスけん”だとエンジニアリング・チェーンの重要性を訴えた。

 その上で、今エンジニアリング・チェーンが弱体化していることを、日本の製造業の大きな問題として挙げた。これまで日本では、設計部門が詰め切れていない部分を、製造現場が指摘し、これによって設計の完成度を高めていた。ところが海外への生産移転などを背景に、こうした製造現場の力が弱くなっている。こうした問題を解決し、エンジニアリング・チェーンを強化し、競争力を高めることがデジタル化の意義だと語った。

 講演の最後で同氏は、日本とドイツのそれぞれにおける製造業の特性の違いに言及した上で、日本の製造業の特性に合った生産スタイルを目指すべきだと述べた。つまり、設計部門の技術力が高く、生産現場が設計部門に従属しているドイツに対し、日本は製造現場の技術力が高い。この特性を生かして、日本ではデジタル化によって設計、生産、販売を密接に連携させることで、合理化・効率化を進めてプロセスを短縮。それによって詳細設計や生産のタイミングをできるだけ先延ばしし、市場動向を見極めた上で、一気に製品化のプロセスを進める「アジャイル型」を目指すべきだと訴えた。これこそが不確実性が高い時代に有利な戦略だという。