これまでの半導体ビジネスでは、量産効果を最大限に引き出せるビジネス・モデルを確立できたメーカーが常に覇権を握ってきた。ところが、この状況が徐々に変化してくるのかもしれない。これまで大きな利益が得られないとされてきた多品種生産デバイスの価値が高まり、高収益な「ロングテール・ビジネス」が成長する兆しが出てきた。幸いなことに、日本のデバイスメーカーがこの分野で世界をリードする可能性が十分ある。2019年12月11~13日にかけて開催された半導体製造装置・材料の展示会「SEMICON Japan 2019」では、いたずらに大量生産を追わず、高付加価値な半導体デバイスビジネスを展開するための技術が多数出品された。(取材・文:伊藤元昭)

 同じ仕様の製品を大量に作ること。これは、製造業のビジネスにおける不動の勝ちパターンである。IT産業や電子産業のコメといえる半導体は、大量生産の効果が特に顕著に現れやすい製品だった。半導体業界の関係者の多くは、「半導体の量産効果を最大限まで引き出すためには、1品種当たり100万個以上生産する必要がある」と口をそろえる。それ以下の生産量では、技術開発や生産設備に費やした投資の償却分が目立ち、チップコストが高くなり応用が広がらないからだ。

 SEMICON Japan 2019では、こうした大量生産をがむしゃらに追求する製造技術の従来トレンドに背を向けるかのような技術をたくさん目にすることができた(図1)。データ活用社会が本格化する中、半導体市場は今後もますます成長することだろう。しかし、これまでと同じ価値観、原理で成長するわけでもなさそうだ。展示会場から、将来の技術開発トレンドの本流となる可能性を秘めた、現在の逆流トレンドを追った。

図1 SEMICON Japan 2019の会場の様子
(撮影:菊池くらげ)

半導体のロングテール・ビジネスは思いのほか巨大

 1品種当たりの生産数量に注目して半導体市場を眺め直してみると、大量生産至上の半導体業界の常識とは違った景色が見えてくる。「約40兆円の半導体市場のうち、100万個以上生産しているチップが占める割合は半分強を占めています。しかし、逆に言えば、100万個に満たないデバイスの市場もかなりあるということです。この領域の付加価値を高め、生産性を上げることで、大量生産一辺倒の市場とは違った意義を持つ半導体市場を成長させることができるのではないでしょうか」(多品種少量生産に向く半導体製造技術の確立と普及を推進するミニマルファブ推進機構の説明員)。

 消費量の少ない雑多なビジネスを積み重ねてできた巨大ビジネスのことを、「ロングテール・ビジネス注1)」と呼ぶ(図2)。半導体デバイスでもロングテール・ビジネスが確実に存在し、しかも無視できない規模になっているのだ。

注1) ロングテール・ビジネスとは、主に米Amazon.comや楽天などネット通販会社が掘り起こし、展開しているビジネスである。過去の小売業では、売場面積に応じて売れ線の商品だけを陳列して販売効率のよいビジネスを目指すところが多かった。これに対し、Amazonなどは、需要の多い少ないにかかわらず、あらゆる商品をネット上に陳列。消費者が、需要の少ない商品でも確実に見つけて購入できるようにした。例えば楽天では2億点以上の商品を扱い、年間の売り上げが30万円に満たない雑多な商品が足し合わされて、全体の売り上げの80%や90%を占めるのだという。

図2 生産量は少ないが、総じて規模が大きいロングテール・ビジネス
(作成:筆者)

 これまでの半導体ユーザーは、理想から多少ズレた仕様であっても価格が安いチップを採用する傾向があった。特に、マイクロプロセッサーやメモリーのようなコンピューターの中核デバイスでその傾向が顕著である。デバイスに多少の仕様上の不満点があっても、応用システムの機能や性能をソフトウエア上の工夫で何とかカバーできる可能性があったからだ。

 ところがいま、ソフトウエアの工夫では仕様をカバーできないデバイスの重要性が急激に高まってきた。

 ファクトリー・オートメーション(FA)やインフラの保守、物流、交通、農業、医療など様々な分野において、IoT(Internet of Things)を活用してデータを収集し、イノベーション創出や生産性向上を図る動きが活発化してきている。そこでは、目的と収集したいデータの種類に合わせて、様々なデータを収集する多種多様なセンサーが必要不可欠になる。また、クルマの電動化や自動化が進んだことで、駆動系や車載電子機器に電力を安定的かつ高効率に供給するためパワーデバイスの需要も高まっている。

 これらのデバイスは、いずれも応用先に合わせた仕様のものを利用する必要がある点で、マイクロプロセッサーやメモリーの需要増とは性質が異なる。多種多様なデバイスの需要を合わせた総市場規模が拡大していく、典型的なロングテール・ビジネスなのだ。

 SEMICON Japan 2019の展示会場内の各社ブースの中には、半導体のロングテール・ビジネスを後押しする製造装置や検査装置・測定器、生産管理ソリューションなどが数多く展示された。ここからは、これまで半導体製造装置業界がまい進してきた大量生産の追求とは別の観点から、会場内で目についた展示を3つの切り口に分けて紹介する。高効率・低コストで多品種生産するための「小口径ウエハー対応装置や中古装置」、本格的な市場の立ち上がりが始まった「化合物半導体ベースのパワーデバイス向け装置」、高効率に製造ラインを稼働させるための「製造ラインのスマート化技術」である。

センサーやパワーデバイスでは最先端ラインは非効率

 まずは、小口径ウエハー対応装置や中古装置の動きである。

 これまでの半導体製造装置では、微細加工技術の進化への対応とともに、ウエハーの大口径化にも対応してきた。1枚のウエハーからより多くのチップを切り出すことができれば、1チップ当たりのコストを低減できるからだ。シリコン(Si)・デバイスの製造の場合、「ムーアの法則」が提唱された1965年ころには50mm(2インチ)のウエハーが使われていたが、1975年ころに100mm(4インチ)、1980年ころに150mm(6インチ)、1990年代前半に200mm(8インチ)、そして2000年代に入って300mm(12インチ)へと大口径化した。そして、今現在、パソコンやスマートフォンに搭載するプロセッサーやメモリーなどは、300mmウエハー対応の製造ラインで作られている。

 ただし、センサーやパワーデバイスは、現在でも口径が150mmや200mmのウエハーに対応する製造ラインで作られている。これらのデバイスの製造では、300mm対応ラインよりも、200mm以下対応のラインで作った方が効率的で、安価に作れるからだ。これらのデバイスは、前述したように多品種生産が前提。このため、同じ仕様のチップを大量に作るラインよりも、小回りの利くラインの方が無駄なチップを作らずに済むため効率が良い。しかも、プロセッサーやメモリーとは違って、製造に最先端の微細加工技術は不要だ。このため、既に設備投資の償却が終わった製造ラインを使うことで、コストを低減できる。

200mm対応ライン向け装置で活気づく製造装置メーカー

 センサー、パワーデバイスの需要増に応えるべく、200mm対応ラインを増強する動きが世界中で起きている。半導体製造装置・材料の国際業界団体であるSEMI(国際半導体製造装置材料協会)は、世界の200mm対応ラインの生産能力の合計が、2019年から2022年の間に14%増加すると予測している。日本にも、欧米と同等の200mm対応ラインが残っており、そこを基に半導体製造ビジネスの息が吹き返す可能性が十分ある。

 200mm以下の対応ラインの増強に向けて、中古装置の需要が活気づいている。ニコンの中古露光装置を扱うニコンテックによると、「供給を上回る需要があり、人気機種にはプレミアム価格がつくまでになった」という(図3)。同社では、中古市場に出た装置を買い付けて、ニコンが保有する技術で改修。新品に近い状態に整えて販売するビジネスを行っている。

図3 中古装置や新開発の200mm対応ライン向け装置の展示が相次ぐ
(左上)ニコンテックの中古露光装置の展示、(左下)SCREENの新規開発の200mm対応装置の展示、(右)KOKUSAI ELECTRICの200mm対応装置で新たに実現可能になった新プロセスの提案。 (撮影:菊池くらげ)

 200mm以下対応ラインに向けて、新規開発した装置を投入する製造装置メーカーも増えた。洗浄装置や露光工程でのレジスト塗布、現像機などを提供しているSCREENは、「200㎜以下に対応する装置は中古の再利用が中心だったが、中古品の流通が減ってきている。このため、新規装置の需要が高まっている」という。同社は、最新鋭の300mm対応装置と同等の技術を転用した200mm対応装置を新規開発し、生産性や洗浄や塗布の品質を高めた製品を市場投入している。「新規開発した装置は、中古装置に比べて、スループットも歩留まりも高く、さらに消費電力や利用する薬液の量も少なくて済む。初期コストは高くなるが、トータルのコストは安価になる」(同社説明員)という。

 旧日立製作所系の製造装置メーカーであり、2020年中には米Applied Materialsによる買収が決まっているKOKUSAI ELECTRICは、2017年に200mm対応ラインの中で、CVDや酸化、アニール、拡散など高温下での処理プロセスを行う新規装置「VERTEX Revolution」を投入した。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)注2)センサーの製造では、200mm対応ライン全盛の1990年代には存在しなかった特殊な製造プロセスを使う必要がある場合が多い。例えば、「デジタルデバイスの構造には不要だった厚膜形成工程が、機械的に動く部分を形成するために必要になります。新規開発した装置では、こうした新しい技術ニーズに対応した仕様にしています」(同社説明員)という。同社では、こうした現在の技術ニーズに対応できる機能と性能を200mm対応装置に盛り込み、新しいプロセスの可能性をアピールしている。

注2) MEMSとは、半導体の製造技術を応用して、電気的な仕掛けを盛り込んだ微細な機械構造を作る技術。加速度センサーやRF部品など様々な応用に既に利用されている。ミクロン単位の部品を機械的に動かすために、これまでの半導体デバイスとは異なり、機械的な強度や耐久性を得るために新たなプロセスの投入が必要になる場合が多い。