化合物系パワーデバイスの大衆化への扉が開いた

 次は、化合物半導体ベースのパワーデバイス向け装置の動きである。

 シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった化合物半導体系のパワーデバイスの市場が本格的に立ち上がりつつある。2018年7月、米国の電気自動車メーカー、Teslaが普及モデル「TESLA Model 3」のメインインバーターに、SiCベースのMOSFETを初採用した。フラッグシップ・モデルに高価な部品を試しに使ったのではなく、月間2万台以上売り上げる普及車種に採用した点に驚いたある自動車業界関係者は、「SiCデバイスの大衆化への扉が開いたように感じた」と語った。また、GaNもパソコンなどのACアダプターを劇的に小型化する技術として、消費者に広く認知されるようになった。

 パワーデバイスを供給するメーカーは、こうした需要側の変化に対して機敏に反応している。ロームは、2025年までに、SiCデバイスの生産能力を2017年の16倍に引き上げる計画を明らかにしている。また、ドイツのVolkswagenグループとSiCデバイスの供給で提携した米Creeも、SiCとGaNをベースにしたデバイスの生産能力を2024年までに2017年度第一四半期の30倍に増強するとしている。化合物系パワーデバイスは、日本での材料とデバイスの実績が豊富であり、デバイスメーカーも三菱電機、富士電機、東芝、ローム、サンケン電気、パナソニックなど数多く存在する。応用市場の有力企業も多く、技術とビジネスの両面で世界をリードできる期待の分野である。

SiCやGaNでの製造に特化した装置が続々登場

 これまで製造装置メーカー各社は、需要の大部分を占めるSiデバイス向けの装置を提供してきた。このため、化合物系パワーデバイスの製造でも、Siデバイス向け装置を転用して作っている状態だった。これが、化合物系パワーデバイス市場の急激な成長を前にして、SiCやGaNでの製造を前提として開発した専用の製造装置や検査装置などが次々と登場している。

 X線検査装置を供給しているリガクのブースでは、SiCパワーデバイスの生産性向上に向けたインラインで用いる結晶欠陥の検査装置を紹介した(図4)。SiCウエハーは、Siウエハーのように結晶欠陥をほぼ無くすことは困難である。これまでは、この点が実用化や量産を阻む要因だった。半導体メーカー各社は発想を変えて、欠陥を無くす努力よりも、欠陥と上手に付き合う方法を模索するようになった。リガクのウエハー面内と深さ方向の欠陥の分布を検査するX線トポグラフイメージングシステム「XRTmicronST」は、この流れに沿った検査装置だ。製造ラインでウエハー面内の欠陥を3種類に自動分類し、欠陥の量や種類に応じて出来上がったデバイスの用途を分別。例えば、高い信頼性が求められる自動車用と低コスト化が重視される民生用を取り分けることができる。

図4 化合物系パワーデバイス専用に開発した装置が登場
(左)リガクのSiCウエハー面内の欠陥を分類し可視化する装置の展示、(右上)三菱電機のSiCウエハーのスライス工程に向けた放電加工機、(右下)三菱電機の装置で加工した150mmSiCウエハー。 (撮影:菊池くらげ)

 三菱電機は、SiCインゴットをウエハーに切り出すためのスライス装置を展示した。SiCはダイヤモンドに次ぐ硬度があるため、Siのように簡単には加工できない。現状では、ダイヤモンドを付着させたワイヤーで加工している。しかし、加工に時間がかかり、ワイヤーの消耗が激しくコストが高い点が問題だった。同社は、機械加工の分野で豊富な実績を持つ放電加工機を応用し、非接触で高硬度の材料を加工できる装置を開発した。切断面の品質も高く、加工速度も極めて速い。この装置は、GaNウエハーの加工にも適用できる。

事業化に向けて着々と前進するGa2O3の開発

 SEMICON Japan 2019の会場では、パワーデバイス向けの次世代材料として期待される酸化ガリウム(Ga2O3)を扱う日本のベンチャー企業2社がそろって自社技術をアピールした(図5)。

図5 パワーデバイスの次世代材料Ga2O3を日本のベンチャー2社がアピール
(左)ノベルクリスタルテクノロジーによるβ型Ga2O3エピウエハーの展示、(右)FLOSFIAによるα型Ga2O3パワーデバイス(図中の左隅)とAC/DCコンバーターのデモ。(撮影:菊池くらげ)

 ノベルクリスタルテクノロジーは、Ga2O3の中でも結晶構造が安定したβ型のエピタキシャルウエハーを製造販売している企業である。2021年をメドに、「デバイス製造を外部ファンドリ―に委託して、デバイス事業にも参入する予定」(同社の説明員)だという。β型Ga2O3は、Siと同様に材料を溶かして結晶成長させて短時間でウエハーを作ることができる。また、加工もしやすい。このため、SiCよりも安価にウエハーを生産できる点が強みだ。

 一方、不安定だが別の膜を積層しやすい結晶構造を持ち、デバイスを形成しやすい特徴があるα型Ga2O3パワーデバイスを製造するのがFLOSFIAである。「2020年には、600Vで10Aのダイオードの量産を開始する予定」(同社の説明員)という。既に、扱いやすいノーマリーオフのトランジスタを作ることにも成功している。α型Ga2O3ならば、安価なサファイア基板上に形成可能であり、低コスト化が可能。今回の展示では、実際にα型Ga2O3パワーでダイオードを作成し、AC100VをDCに変換して約400Wの出力を得て、LEDを光らせるデモを披露した。

ロングテール・ビジネスはIndustry 4.0の実践

 最後に、製造ラインのスマート化技術の動きである。

 ドイツ政府が打ち出して世界中に波及した製造革新のコンセプト「Industry 4.0」の目標の1つに、需要に応じた製品を必要な量だけ、迅速かつ効率的に製造する「マスカスタマイゼーション」の実現がある。半導体業界に求められているロングテール・ビジネスを効果的に実践するためには、このマスカスタマイゼーションを実現するための仕掛けが必要になってくる。製造現場でのIoTや人工知能(AI)の効果的活用が必須だ。SEMICON Japan 2019の会場でも、半導体工場のスマート化に向けたソリューションが数多く紹介されていた。

 安川電機は、IoTを活用して得た装置の稼働データから、生産ライン全体の生産性や品質を最大化させる技術を披露した(図6)。同社技術のポイントは、単に装置の稼働状況を「見える化」するだけではなく、データ分析の結果を生かして各装置を自動制御する点にある。ライン上の装置それぞれの動作を個別最適化するのではなく、ライン全体の生産性や品質を最大化できる制御条件を見つけ出して各装置を制御する。

図6 半導体工場のスマート化に向けて、様々な切り口からの提案が続々
(左上)安川電機のIoTを活用したライン上の装置の自律制御デモ、(左下)THKのOMNIedgeのデモ、(右)日立ハイテクソリューションズのAIモデル化ツールの展示。(撮影:菊池くらげ)

 日立ハイテクソリューションズでは、米SparkCognition製AIモデル化ツールを紹介した。学習データを整える際のデータクレンジング、データ分析などを自動で処理し、最も適したモデルを選んでアウトプットするソフトウエアである。AIを活用する際、これらの作業には多くの時間がかかり、人手とノウハウが求められる部分でもある。ここを自動化し、世界的に人材不足のデータサイエンティストが行うべき作業をシステム化することで、機械学習の知識がなくても扱うことができるようになる。

 THKは、製造装置中の直線運動部をガイドする機械要素部品であるLMガイドにセンサーをつけて、LMガイドの状態を可視化する技術をデモした。同社では、センシングやネットワークなどのハードの提供を含むデータ収集サービス「OMNIedge」を、定額のサブスクリプションサービスとして提供する。機械的な可動部であるLMガイドは、使用している間に疲労して故障の原因になりがちだ。このため、故障を起こす前に、その予兆を察知したい典型的な場所となっている。しかし、装置の下や奥など、点検や交換が困難な場所に置かれているため、点検に伴う装置のダウンタイムが長かった。OMNIedgeでは、LMガイドの状況だけでなく、ボールねじやモーターなどの周辺部品の動きとの相関を見ながら、装置全体の故障を、より多角的に分析して故障を予知する。

「ポスト・ムーア時代」の先取りか

 半導体のロングテール・ビジネスに向けた製造ラインの究極の姿と言えるのが、日本の半導体製造装置業界のライフワークとなったミニマルファブ注3)かもしれない。毎年、SEMICON Japanの会場で大規模な展示を行うミニマルファブ推進機構だが、今回は「つながるミニマルファブ」をテーマにして、合計約50台のミニマル生産システム装置群を展示した(図7)。会場内の別ブースに設置された装置をタブレット端末でリモート制御するデモなども行った。「多様なデバイスを製造する際、自社のラインだけでは装置が足りなくなることもある。他社が持つ特殊な装置を借り、その工程だけ他社で実施することで、製造できるチップの種類を大きく広げることができる」(同機構の説明員)。自社以外の装置を必要に応じてつないで、仮想的な製造ラインを柔軟に構成することができるのだ。

注3) ミニマルファブとは、直径0.5インチ(12.7mm)のウエハー上に半導体チップを形成する製造システムである。大口径ウエハーは少品種大量生産には向くが、チップの開発・製造に要する費用が巨額で多品種少量生産には向かない。半導体応用には、高度なチップが1個だけ欲しいというニーズも確実にある。例えば、最先端の宇宙開発や医療などの分野、センサーやアナログの分野でも製造条件を、試行錯誤を繰り返して決めたい場合などである。ミニマルファブは、あえて大量生産志向の開発トレンドに背を向けて、小回りの利く製造技術を目指している。

図7 各地の装置をネットでつないで仮想的な半導体工場を構成
(左)ミニマルファブと既存の半導体工場のレイアウトの違いを模型で展示、(右)会場内の別ブースとつないで遠隔地の装置を操作。(撮影:菊池くらげ)

 電子部品や半導体チップの販売においてもネット通販が普及し始めている。これまで簡単に入手できなかったデバイスを、豊富な選択肢の中から選んで自由に調達できるようになった。半導体のロングテール・ビジネスは、販売については既に始まっているといえる。そこに、開発・生産のレベルでマスカスタマイゼーションを実践する体制が整えば、半導体ユーザーは、求める仕様にピタリと合致したチップを入手できるようになることだろう。

 大量生産を重視する最先端半導体デバイスのビジネスは、遠くない将来に大きな変革を迫られることが確実だ。ムーアの法則が終焉した後、どのようにしてビジネスを継続的に成長させていくべきか、真剣に考えるべき時期が来ているのだ。胎動が始まったロングテール・ビジネスの中には、最先端デバイスの新たなビジネス・モデルを模索する上での貴重なヒントがあるのではないか。