小さな装置でしか実現できない最先端の別解

 ミニマルファブで特筆できる点は、大口径ウエハーを用いる大量生産向け製造ラインでは利用できない特徴のある生産工程を利用できることだ。一般に、大口径ウエハー向けの製造装置では、ウエハーが大きすぎて、中心部と端で加工条件を均一にすることが難しい。このため、どうしても均一処理が可能な工程だけしか実用化できず、際立った特徴を持つ尖った技術を投入しにくい面があった。これに対し、小口径ウエハーを使うミニマルファブならば、製造条件の均一化が困難な製造工程も積極的に投入できる。

 具体例を挙げよう。MEMSデバイスの製造工程には、通称「Bosch Process」と呼ばれる深い穴を形成する工程が使われている。保護層の成膜とエッチングを何度も繰り返すことで深い穴を形成する工程である。このプロセスを大口径ウエハーに施すと、装置内のガスを迅速に入れ替えることができないため、穴の側面にスキャロップと呼ばれる段々状の形状ができてしまう(図4)。一方、ミニマルファブの装置では、処理チャンバの内部容積が狭いため、簡単にガスの入れ替えができ、スキャロップがない高品質なMEMSデバイスを形成できる。こうしたきれいな形状ができれば、高感度、高精度のセンサーが実現できるようになる。

図4 ミニマルファブの小口径を生かして、高精度なウエハー加工を実現
(ミニマルファブ推進機構の展示パネルより)

 ミラープラズマCVDも、ミニマルファブでしか使えないプロセスである。ミラー磁場というマイクロ波を電源とした場を作り、2カ所のECRポイント、共鳴現象を起こして、内側に高密度プラズマを形成して、成膜用ガスの分解効率を上げる工程である。大口径ウエハーでは700℃の高温化で形成していたシリコン窒化膜を400℃と低温で形成できる。電子回路とMEMSやアクチュエータを同一チップに集積する場合のように、高熱下にさらすことができない基板上に成膜したい場合などに活用できる。

 こうしたミニマルファブでしか対応できない半導体チップの開発・生産に、最先端半導体のファウンドリービジネスの本場である台湾も注目し始めた。IoTデバイスなどに搭載する高性能だが多品種少量生産の半導体デバイスの開発・生産への対応を見据えたものだ。台湾の金属工業研究発展中心(MIRDC)は、ミニマルファブによるMEMS試作ラインを設置する計画だという。

日本の宇宙産業の競争力強化の原動力に

 また、電子線露光装置を半導体の製造ラインで利用できるのもミニマルファブならではだ。電子線露光装置ならば、チップに転写する電子回路の原版であるマスクの製造が不要になる。回路設計用のCADを直結して描画することもできる可能性がある。このため、チップ開発のサイクルが短くなり、チップの進化が加速する効果が期待できる。ファウンドリー・サービスを用いてチップを試作すると、1年間に約2回程度のサイクルしか回せない。これが電子線露光を使ったミニマルファブでは、何と1カ月で2回繰り返すことができるようになる。つまり、チップを12倍速で進化させることができるのだ。

図5 ミニマルファブを使って宇宙開発を加速
(ミニマルファブ推進機構の展示パネルより)

 こうした、開発と製造を迅速かつ低コストで行うことができるメリットを最大限活用した例も出てきている。最もその効果が生きそうなのが宇宙開発の分野である。現在、小さなロケットを使って、低コストで打ち上げることができる人工衛星の小型化が加速している。機能や性能が同じならば、人工衛星の大きさは小さい方がよい。そして、人工衛星の小型化では、いかに小型・高性能・低消費電力の電子回路を実現できるかが成功の鍵を握る。

 しかし、いかに高性能であっても、パソコンに使われているような一般的な半導体チップを搭載することはできない。宇宙空間には電子回路の誤動作や故障を誘発する放射線が飛び交っており、相応の対策を施さないと利用することはできないからだ。ところが、最先端の半導体工場は、どこもチップを大量生産することを前提に作られており、1品種の開発・製造に要するコストは巨額。人工衛星に搭載するような特殊で少量しか使わないチップを作ることはできない。ここにミニマルファブの特徴が生きる。

 SEMICON Japan 2018の会場では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)らが開発した、試作チップが展示された。すべての工程をミニマルファブの製造装置で行ったものだ。「これまでは、単体トランジスタや簡単な発信回路などしか作れませんでした。しかし、現在はトランジスタ数が1000個以上の集積回路も製造可能になり、新たなアイデアを盛り込んだ独自回路の開発もしていく方向で検討が進んでいます」(ミニマルファブ推進機構)という(図5)。

電子機器と人間の体の親和性を高める

 また、これまでエレクトロニクスとの相性がよいとはいえなかった、生体を扱う医療分野でも果敢な取り組みが行われている。東北大学の中村 力研究室は、錠剤型の「飲む体温計」を展示した。胃酸で発電した電力で、体温の検知とデータの送信を行う。電子機器を体内に入れる場合には、電池を構成する材料の毒性が問題になるが、開発している技術ならば問題はない。

 体温は最も基本的な生体情報だが、それを正確に測るのは意外と難しい。特に、環境要因が少なく健康状態をより如実に映す体の中心の体温(深部体温)は、特殊な体温計を使わないと計測できない。深部体温を詳細かつ継続的に把握できれば、運動能力や知的能力の向上、ダイエット、体内時計の管理、ヘルスケア、排卵周期の把握、さらには各種感染症の兆候検出、不眠症や認知症の対策などに活用できる。

 開発した錠剤型センサーは、直径が約8mm、厚み約5mmと錠剤とほぼ同じ大きさ形状をしている(図6)。その内部に、温度センサー、マイコン、蓄電用のコンデンサーなど組み込まれている。そして、これを飲み込み、胃を通過する約30分の間に発電と蓄電を行い、約10時間で体外に排出される。この間に得た電力を使って、30分ごとに体温を計測し、そのデータを体外に無線で送る。就寝前に錠剤型センサーを飲んでおけば、睡眠中に深部体温を計測できる。現在、試作した飲む体温計を用い、動物での実験を重ねている。今後は人間への適用も検討するという。

図6 東北大学の飲む体温計の電子基板
出典:東北大学 中村 力研究室のホームページ
 

 一方、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 三林浩二教授のグループは、歯科医療用のマウスピースに口腔温や咬合力を測定するセンサーと無線機能を組み込んだウエアラブルセンサーを展示した。センサーなど電子デバイスは、生物の体の中では異物として振る舞ってしまう。同大学では、生体に適合する機能性高分子とMEMSを融合させて、生体に適合するセンシングデバイスを開発している。さらにグルコースセンサーも組み込めば唾液成分から血糖値をモニタリングできるという。血糖値を計測するには採血する必要があったが、こうしたウエアラブルセンサーを活用すれば非侵襲で継続的なモニタリングが可能になる。マウスピース型以外にも、コンタクトレンズ型や貼り薬型など様々なウエアラブルセンサーを開発している。

最先端の半導体を支える部品も続々

 最先端の半導体応用を切り開くためには、独自チップの開発、独自製造技術の開発、さらには装置を構成する1つひとつの部品まで独自に作る必要がある。日本は、自国内だけでこれらすべてをまかなうことができる。特に、部品作りの技術力の高さは圧倒的であり、日本の半導体製造装置メーカーが、自国のチップメーカーの衰退後も国際競争力を維持し続けている理由になっている。その一例が、製造装置で成膜用などのガスの流入と排出を正確にコントロールしているバルブである。例えばCVD工程で使われる装置用のバルブでは、CKDがかなりのシェアを獲得しているという。

 3D NANDフラッシュメモリーの深い穴の隅々まで均一な薄膜を形成する工程として、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)と呼ばれる精密成膜技術が活用されるようになった。原子の性質である自己制御性を利用し、一層ずつ原子を堆積していくことで、深い穴の側面にも極薄で高品質な膜を形成できる技術である。この工程で高精度の加工を行うためには、先に紹介したBosch Processと同様に、チャンバ内のガスを頻繁に入れ替える必要がある。この時、迅速かつ高精度で、ガスを一気に入れて、一気に抜くことができるバルブが必要になる。NANDフラッシュメモリーなどを製造する大口径ウエハーを対象にした装置では排気量の向上が求められるが、そうした条件下で微妙なガス制御を行うのには極めて高度な技術が必要になる。CKDは、その要求に応えるバルブを提供できる数少ない企業の1つ。このため市場では高いシェアを維持している(図7)。

図7 半導体製造工程で高精度でのガスの入れ替えを実現するバルブ
(撮影:栗原克己)

 同社のバルブが高精度でのガスの入れ替えができるのは、単に開け閉めだけでガスの流入・排出量を制御しているわけではないからだ。チャンバ内の真空度やガス濃度を保つため、バルブにはチャンバを密封するためのOリング(環状のゴムパッキン)が取り付けられている。CKDのバルブは、微妙なバルブの開け閉めをする場合には、Oリングの特性を考慮してガスの流入・排出量をコントロールしている。ガスの流入・排出口が開くか開かないかの微小な開閉を制御しているのだ。

 こうした微妙な制御を実現するために、同社は、数多くの諸条件を綿密に検討。加えて、電気モーターを使ってバルブの開閉を行うと、連続的な微妙な開閉ができないため、同社は空気圧を動力とする駆動装置を使うことで高精度かつ滑らかな開閉制御を可能にした。

 日本の半導体産業には、部材から製造装置、チップ開発に至るまで広範な底力がある。いたずらにチップの開発や製造の技術トレンドに追随するよりも、高度な技術を結集し、業界に新しいトレンドを独自に生み出すことで、世界の半導体市場で、再び大きな存在感を示すことができるかもしれない。SEMICON Japan2018は、そんな可能性を感じさせる展示会だった。