2018年12月12日~14日、エレクトロニクス製造のサプライチェーンに関する総合展示会「SEMICON Japan 2018」が開催された。今回、目を引いたのが新たな日本の半導体業界の胎動を感じさせる、果敢な挑戦の数々だった。日本では、チップ製造に用いる装置と材料の産業が史上空前の好景気のなかにあるにもかかわらず、一時期チップメーカーのリストラや事業売却が相次いだことから、半導体は斜陽産業というイメージが出来上がってしまった。SEMICON Japan 2018は、こうしたネガティブなイメージが過去のものになりつつあることを感じさせた。(文:伊藤元昭)

 「マジックが起きる。CONNECT|COLLABORATE|INNOVATE」。ここ数年、SEMICON Japanで掲げられているテーマだ。SEMICONは、日本以外にも北米、欧州、韓国、台湾、中国、東南アジアなど、半導体産業が発展している地域で開催されており、それぞれの地域性を反映した内容のイベントや展示が用意されている。

 かつてはDRAMなどの生産で世界をリードしてきた日本の半導体メーカーだが、現在も売り上げトップ10に入っているのは9位の東芝メモリのみ。半導体チップの生産拠点としての日本の存在感は薄い。ただし、日本はエレクトロニクス産業のサプライチェーンの構成要素である、応用システム、チップ、製造装置、材料のすべてで高水準の技術を保有するまれな国である。こうした地域性を生かし、次世代車や産業機器、医療機器、各種IoT機器のような、未来の成長市場に向けた半導体の開発・製造の枠組みを固める役割が求められている。SEMICON Japanのテーマには、様々な技術分野のアイデアを融合させて化学反応を起こし、マジックを起こしてほしいという、日本の半導体産業に対する世界の期待が込められているのだ。

図1 半導体産業の日本のサプライチェーンを支える企業が集結

 今回のSEMICON Japan 2018の会場には「DREAMS START HERE」というキャッチフレーズも掲げられていた。日本の半導体産業が全盛期だった頃、「半導体は産業の米」という言葉があった。半導体チップなしではエレクトロニクス機器は作れない。この点は変わらないどころか、その重要性はむしろ増している。優れた半導体チップを手中にすることが、競争力の高いエレクトロニクス機器を作り、ひいてはそれを活用した新ビジネスを創出するための起点となっている。SEMICON Japan 2018の展示会場には、まさに新たな夢の始まりを予感させる展示が散見された(図1)。

若いベンチャーが独自AIチップ開発に挑戦

 会期初日、日本の半導体産業が新時代を迎えていることを印象付けるニュースがあった。日本を代表するAI関連ベンチャーであるPreferred Networks(以下、PFN)の代表取締役社長 最高経営責任者 西川 徹氏が基調講演に登壇。その場で、独自のAIチップ「NM-Core」を開発中であることを明らかにした(図2)。

 現在、米Googleや米Amazonのような巨大プラットフォーマーが、自社のAI関連サービスの付加価値向上の原動力となる独自AIチップの開発に邁進している。世界のITベンダーは、独自AIチップなしでは、激しい競争を勝ち抜くことができなくなりつつある。しかし、日本のITベンダーや半導体メーカーはこうした動きに必ずしも追随できている状況ではなかった。それどころか、猛スピードで進化する欧米・韓国・台湾企業と発展著しい中国企業に、完全に置いていかれた状態だった。若いベンチャー企業の雄が独自AIチップの開発に挑戦するという久々の華のあるニュースに業界は沸き立った。

 MN-Coreは様々な精度での行列演算を多用する深層学習を、最小限の電力で高速実行することを目指したプロセッサである。様々な応用に対応した柔軟なプログラミングが可能でありながら、電力効率を高めている点が特徴だ。演算精度は可変で、半精度浮動小数点(FP16)演算を実行した時の性能は524TFLOPSであり、その時の消費電力は約500Wである。この電力性能は、世界最高クラスだという。NM-Coreは、TSMCの12nmプロセスで製造する。2019年第1四半期にはファイナルのESが完成する予定だ。

 PFNは、産業用ロボット、自動運転車、医療での診断などへの深層学習の効果的な応用法を提供しており、ファナックやトヨタ自動車など日本を代表する企業が同社と協業している。そして、2018年10月に開催されたCEATEC Japanで、パーソナルロボットの分野への参入を発表。深層学習を活用して高速かつ高精度での物体認識を実現した、片づけロボットを披露した。

 これまでPFNは、こうした応用に深層学習を効果的かつ効率的に適用するために、新しいアイデアを盛り込んだニューラルネットワークのモデルを柔軟に開発できる独自フレームワーク「Chainer」を開発するなどソフトウエアを中心に体制を整備してきた。NM-Coreは、競争力の高い自社のソフト技術をさらに際立たせるために、ハード仕様の方を合わせ込む、従来の日本のIT産業に見られなかったソフト先にありきのプラットフォーム開発が行われている点に注目できる。

図2 日本のAIベンチャーの雄が独自AIチップの開発を明らかに
(左)SEMICON Japan 2018の基調講演に登壇したPFN 代表取締役 兼 最高経営責任者の西川 徹氏、(右上)NM-Coreのブロック図、(右下)展示会場の同社ブースでのチップの展示

未来のデバイスを生み出す小さな製造装置

 新しい応用と産業を生み育てる役割を担うという日本の半導体業界への期待を、ストレートに具現化した取り組みもあった。ミニマルファブ推進機構は、「ミニマルファブ、先端へ」をキャッチフレーズに掲げて、大量生産向けに最適化した半導体工場では実現できない、新たな半導体チップの進化の方向性を提案した(図3)。

図3 半導体の製造工程を網羅する多品種少量生産に最適化した70種の半導体製造装置を展示
(撮影:栗原克己)

 ミニマルファブとは、直径0.5インチ(12.5mm)のウエハー上に半導体チップを形成する製造システムである。最先端の半導体工場では、直径12インチ(300mm)のウエハーを用いて、同一仕様のプロセッサメモリーを高効率に大量生産している。ところが、大口径ウエハーは少品種大量生産には向くが、チップの開発・製造に要する費用が巨額で多品種少量生産には向かない。半導体応用には、高度なチップが1個だけ欲しいというニーズも確実にある。例えば、最先端の宇宙開発や医療などの分野、センサーやアナログの分野でも製造条件を、試行錯誤をしながら決めたい場合などである。ミニマルファブは、あえて大量生産志向の開発トレンドに背を向けて、小回りの利く製造技術を目指している。

 ミニマルファブに対応した製造装置は、年々種類が増えている。会場では、合計約70種類の製造装置を、半導体製造工程に沿って展示した。今回は、打ち込み電圧が最大30kVのイオン注入装置、描画性能が線幅250nm以下の描画が可能な電子線露光装置、400℃以下の低温で高品位の窒化膜を形成できる磁気ミラー閉じ込めプラズマCVD装置、ウエット装置に薬液を供給する薬液サーバーの4工程が追加された。これによって、ミニマルファブの装置だけでチップ投入からパッケージングまで一貫製造できるようになった。

小さな装置でしか実現できない最先端の別解

 ミニマルファブで特筆できる点は、大口径ウエハーを用いる大量生産向け製造ラインでは利用できない特徴のある生産工程を利用できることだ。一般に、大口径ウエハー向けの製造装置では、ウエハーが大きすぎて、中心部と端で加工条件を均一にすることが難しい。このため、どうしても均一処理が可能な工程だけしか実用化できず、際立った特徴を持つ尖った技術を投入しにくい面があった。これに対し、小口径ウエハーを使うミニマルファブならば、製造条件の均一化が困難な製造工程も積極的に投入できる。

 具体例を挙げよう。MEMSデバイスの製造工程には、通称「Bosch Process」と呼ばれる深い穴を形成する工程が使われている。保護層の成膜とエッチングを何度も繰り返すことで深い穴を形成する工程である。このプロセスを大口径ウエハーに施すと、装置内のガスを迅速に入れ替えることができないため、穴の側面にスキャロップと呼ばれる段々状の形状ができてしまう(図4)。一方、ミニマルファブの装置では、処理チャンバの内部容積が狭いため、簡単にガスの入れ替えができ、スキャロップがない高品質なMEMSデバイスを形成できる。こうしたきれいな形状ができれば、高感度、高精度のセンサーが実現できるようになる。

図4 ミニマルファブの小口径を生かして、高精度なウエハー加工を実現
(ミニマルファブ推進機構の展示パネルより)

 ミラープラズマCVDも、ミニマルファブでしか使えないプロセスである。ミラー磁場というマイクロ波を電源とした場を作り、2カ所のECRポイント、共鳴現象を起こして、内側に高密度プラズマを形成して、成膜用ガスの分解効率を上げる工程である。大口径ウエハーでは700℃の高温化で形成していたシリコン窒化膜を400℃と低温で形成できる。電子回路とMEMSやアクチュエータを同一チップに集積する場合のように、高熱下にさらすことができない基板上に成膜したい場合などに活用できる。

 こうしたミニマルファブでしか対応できない半導体チップの開発・生産に、最先端半導体のファウンドリービジネスの本場である台湾も注目し始めた。IoTデバイスなどに搭載する高性能だが多品種少量生産の半導体デバイスの開発・生産への対応を見据えたものだ。台湾の金属工業研究発展中心(MIRDC)は、ミニマルファブによるMEMS試作ラインを設置する計画だという。

日本の宇宙産業の競争力強化の原動力に

 また、電子線露光装置を半導体の製造ラインで利用できるのもミニマルファブならではだ。電子線露光装置ならば、チップに転写する電子回路の原版であるマスクの製造が不要になる。回路設計用のCADを直結して描画することもできる可能性がある。このため、チップ開発のサイクルが短くなり、チップの進化が加速する効果が期待できる。ファウンドリー・サービスを用いてチップを試作すると、1年間に約2回程度のサイクルしか回せない。これが電子線露光を使ったミニマルファブでは、何と1カ月で2回繰り返すことができるようになる。つまり、チップを12倍速で進化させることができるのだ。

図5 ミニマルファブを使って宇宙開発を加速
(ミニマルファブ推進機構の展示パネルより)

 こうした、開発と製造を迅速かつ低コストで行うことができるメリットを最大限活用した例も出てきている。最もその効果が生きそうなのが宇宙開発の分野である。現在、小さなロケットを使って、低コストで打ち上げることができる人工衛星の小型化が加速している。機能や性能が同じならば、人工衛星の大きさは小さい方がよい。そして、人工衛星の小型化では、いかに小型・高性能・低消費電力の電子回路を実現できるかが成功の鍵を握る。

 しかし、いかに高性能であっても、パソコンに使われているような一般的な半導体チップを搭載することはできない。宇宙空間には電子回路の誤動作や故障を誘発する放射線が飛び交っており、相応の対策を施さないと利用することはできないからだ。ところが、最先端の半導体工場は、どこもチップを大量生産することを前提に作られており、1品種の開発・製造に要するコストは巨額。人工衛星に搭載するような特殊で少量しか使わないチップを作ることはできない。ここにミニマルファブの特徴が生きる。

 SEMICON Japan 2018の会場では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)らが開発した、試作チップが展示された。すべての工程をミニマルファブの製造装置で行ったものだ。「これまでは、単体トランジスタや簡単な発信回路などしか作れませんでした。しかし、現在はトランジスタ数が1000個以上の集積回路も製造可能になり、新たなアイデアを盛り込んだ独自回路の開発もしていく方向で検討が進んでいます」(ミニマルファブ推進機構)という(図5)。

電子機器と人間の体の親和性を高める

 また、これまでエレクトロニクスとの相性がよいとはいえなかった、生体を扱う医療分野でも果敢な取り組みが行われている。東北大学の中村 力研究室は、錠剤型の「飲む体温計」を展示した。胃酸で発電した電力で、体温の検知とデータの送信を行う。電子機器を体内に入れる場合には、電池を構成する材料の毒性が問題になるが、開発している技術ならば問題はない。

 体温は最も基本的な生体情報だが、それを正確に測るのは意外と難しい。特に、環境要因が少なく健康状態をより如実に映す体の中心の体温(深部体温)は、特殊な体温計を使わないと計測できない。深部体温を詳細かつ継続的に把握できれば、運動能力や知的能力の向上、ダイエット、体内時計の管理、ヘルスケア、排卵周期の把握、さらには各種感染症の兆候検出、不眠症や認知症の対策などに活用できる。

 開発した錠剤型センサーは、直径が約8mm、厚み約5mmと錠剤とほぼ同じ大きさ形状をしている(図6)。その内部に、温度センサー、マイコン、蓄電用のコンデンサーなど組み込まれている。そして、これを飲み込み、胃を通過する約30分の間に発電と蓄電を行い、約10時間で体外に排出される。この間に得た電力を使って、30分ごとに体温を計測し、そのデータを体外に無線で送る。就寝前に錠剤型センサーを飲んでおけば、睡眠中に深部体温を計測できる。現在、試作した飲む体温計を用い、動物での実験を重ねている。今後は人間への適用も検討するという。

図6 東北大学の飲む体温計の電子基板
出典:東北大学 中村 力研究室のホームページ
 

 一方、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 三林浩二教授のグループは、歯科医療用のマウスピースに口腔温や咬合力を測定するセンサーと無線機能を組み込んだウエアラブルセンサーを展示した。センサーなど電子デバイスは、生物の体の中では異物として振る舞ってしまう。同大学では、生体に適合する機能性高分子とMEMSを融合させて、生体に適合するセンシングデバイスを開発している。さらにグルコースセンサーも組み込めば唾液成分から血糖値をモニタリングできるという。血糖値を計測するには採血する必要があったが、こうしたウエアラブルセンサーを活用すれば非侵襲で継続的なモニタリングが可能になる。マウスピース型以外にも、コンタクトレンズ型や貼り薬型など様々なウエアラブルセンサーを開発している。

最先端の半導体を支える部品も続々

 最先端の半導体応用を切り開くためには、独自チップの開発、独自製造技術の開発、さらには装置を構成する1つひとつの部品まで独自に作る必要がある。日本は、自国内だけでこれらすべてをまかなうことができる。特に、部品作りの技術力の高さは圧倒的であり、日本の半導体製造装置メーカーが、自国のチップメーカーの衰退後も国際競争力を維持し続けている理由になっている。その一例が、製造装置で成膜用などのガスの流入と排出を正確にコントロールしているバルブである。例えばCVD工程で使われる装置用のバルブでは、CKDがかなりのシェアを獲得しているという。

 3D NANDフラッシュメモリーの深い穴の隅々まで均一な薄膜を形成する工程として、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)と呼ばれる精密成膜技術が活用されるようになった。原子の性質である自己制御性を利用し、一層ずつ原子を堆積していくことで、深い穴の側面にも極薄で高品質な膜を形成できる技術である。この工程で高精度の加工を行うためには、先に紹介したBosch Processと同様に、チャンバ内のガスを頻繁に入れ替える必要がある。この時、迅速かつ高精度で、ガスを一気に入れて、一気に抜くことができるバルブが必要になる。NANDフラッシュメモリーなどを製造する大口径ウエハーを対象にした装置では排気量の向上が求められるが、そうした条件下で微妙なガス制御を行うのには極めて高度な技術が必要になる。CKDは、その要求に応えるバルブを提供できる数少ない企業の1つ。このため市場では高いシェアを維持している(図7)。

図7 半導体製造工程で高精度でのガスの入れ替えを実現するバルブ
(撮影:栗原克己)

 同社のバルブが高精度でのガスの入れ替えができるのは、単に開け閉めだけでガスの流入・排出量を制御しているわけではないからだ。チャンバ内の真空度やガス濃度を保つため、バルブにはチャンバを密封するためのOリング(環状のゴムパッキン)が取り付けられている。CKDのバルブは、微妙なバルブの開け閉めをする場合には、Oリングの特性を考慮してガスの流入・排出量をコントロールしている。ガスの流入・排出口が開くか開かないかの微小な開閉を制御しているのだ。

 こうした微妙な制御を実現するために、同社は、数多くの諸条件を綿密に検討。加えて、電気モーターを使ってバルブの開閉を行うと、連続的な微妙な開閉ができないため、同社は空気圧を動力とする駆動装置を使うことで高精度かつ滑らかな開閉制御を可能にした。

 日本の半導体産業には、部材から製造装置、チップ開発に至るまで広範な底力がある。いたずらにチップの開発や製造の技術トレンドに追随するよりも、高度な技術を結集し、業界に新しいトレンドを独自に生み出すことで、世界の半導体市場で、再び大きな存在感を示すことができるかもしれない。SEMICON Japan2018は、そんな可能性を感じさせる展示会だった。