ロボットの活用方法や開発技術などを集めた展示会「第3回ロボデックス」が、2019年1月16~18日に東京ビッグサイトで開催された。ロボットを個々の用途に具体的にどう適用させるかという点が最大の関心事となる中、さまざまな対象物に適した「ハンド」の開発が盛んなことを来場者に印象づけた。その他にも、ロボットと人間の協調や労働力不足への対応などが話題となった2019年のロボデックスを振り返る。(取材・文:松尾康徳)

(撮影:栗原克己)

 製造業に限らずあらゆる産業で課題として認識されるようになった労働力不足は、少子高齢化を背景としているため、長期的に続くことが避けられない。その対応策として女性や高齢者の起用が求められるようになっている。だが、人口自体が減る中ではそれにも限界がある。そこで期待されているのがロボットの活用だ。人間が行う作業を肩代わりし、労働力不足の時代に対応できるようにするだけでなく、人間では不可能な作業をロボットで行うことで、生産性や安全性の向上をはかることができる。

 ロボットの活用方法などを提案するロボデックスは、ロボット活用がすべての産業に共通するテーマとなる中で開催された。ロボットは一般には人間を模した形をしたものというイメージがあるが、本来の定義は人間が行ってきた作業を機械化するものであり、その機能を果たすものであれば形は問わない。無人搬送車(AGV)やドローン、さらには人の筋力を補助するパワーアシストスーツなどもロボットに含まれる。用途に応じて多彩な形をしており、それらが今回のロボデックスに集まった。

 展示のメインは、やはりロボット本体メーカーの出展だ。KUKA Japanは人間と協働作業を行うロボット「LBR iiwaシリーズ」やAGV「KMR iiwa」などを展示。ユニバーサルロボットも協働ロボットの新製品「e-Series」を並べ、協働の具体的な方法を提案した。人間とロボットの作業を融合させることは、用途を広げるだけでなく面積生産性を追求するうえでも有効だが、動作範囲が人間とロボットで交差するため安全対策が難しくなる。両社はその課題の解決法も含めて、協働ロボットのメリットを紹介していた。

KUKAとユニバーサルロボットは人間とロボットの協働作業をテーマに展示
(撮影:栗原克己)

 もっとも、ロボデックス全体で見ると、ロボット本体メーカーの出展は数としては少ないほうになる。数的に目立ったのはロボットの周辺装置。中でも多彩な展示が行われていたのは、ロボットの先に付けるハンドだ。

柔らかいものを形を崩さずつかむ

 ロボット本体のメーカーは精度や速度などでしのぎを削っているが、ある程度の高いレベルにまで至ると、ロボット本体の機能差はエンドユーザーから見るとそれほど意味がなくなってくる。むしろユーザーが気にするのは、自身の現場に本当に適用できるかという点だ。ハンドはそのカギを握る。ロボット本体のメーカーも、ハンドの開発は基本的にパートナー企業に任せる姿勢だ。それら個々の対象物に合わせたハンドが展示会で幅を利かせようになったことは、ロボット活用について、その是非を問う総論から、それぞれの用途に適した方法を具体的に模索する各論に移ってきた表れとも言える。

 ハンドの中で各社が特に力を入れていたのが、柔軟なモノの取り扱いだ。例えばアズビルは、豆腐やケーキ、折り鶴や卵などを、1つのハンドで形を崩すことなくつかんで運ぶデモで、ハンドの対応範囲の広さをアピールした。形をそのまま維持しながらつかむには、折り鶴の場合は1N(ニュートン)、卵の場合は3Nの力でつかむ必要があるが、1つのハンドでその範囲をすべてカバーできる点に特徴がある。

アズビルが展示したハンドは折り鶴や豆腐など柔らかいモノから硬いモノまでつかむことができる
(撮影:栗原克己)

 鍋屋バイテックは、最小10Nから最大180Nまでの把持力に対応する電動グリッパを展示。卵とペットボトルを、グリッパでつかむ様子を披露した。グリッパは並行して動く2つの爪から成り、それぞれの爪のストロークを40mmと大きくしたので、太いモノもつかむことが可能だ。動作には特別な外部コントローラを用意する必要がなく、ケーブルをつなぐだけですぐに使用できるという。

鍋屋バイテックの電動グリッパは10~180Nの把持力に対応する
(撮影:栗原克己)

人間の手に近い5本指のハンド

 より人間に近づけようと、5本指のハンドを展示する出展社もあった。スキューズと山梨大学は、桃の検査と箱詰めを自動化したシステムを展示した。桃の中に害虫がいないかをX線で見つけ出す装置と、検査後の桃を箱詰めする装置を一体化したシステムで、箱詰めの作業に5本指のロボットが使われている。桃のような繊細な果物は、ハンドの爪で単に挟むような扱い方では傷が入ってしまい、商品価値が落ちてしまう。そこで人間の手と同じようにロボットのハンドも5本指にし、つかむ際の力を分散させることで丁寧に扱えるようにしたものだ。5本指のハンドでつかんだ桃は、ネット状の緩衝材に詰められたうえで箱に並べられる。X線による検査と併せて、農業の作業負担軽減を進めることを目指している。

繊細な桃に傷を付けないために5本指のハンドで出荷作業を行う
(撮影:栗原克己)

 この他、日本バイナリーも5本指のロボットハンドを出展した。人間の手と同じ19個の関節を持ち、制御を変えることなくさまざまなモノの把持に対応させることができるという。

 人間の手の感覚に近づけようという努力は、他の出展社でも見られた。豊田合成は、コンビニエンスストアでの品出し作業を自動化するロボットに、ウレタンとシリコン樹脂を使ったハンドを装着したシステムを展示した。細長いウレタンの周りにシリコンを貼り付けたものを人間の指のように動作させ、食品など丁寧な扱いが必要なモノをトレイから取り出し、棚に並べる作業を自動化する。表面がシリコンのため人間の指と同様の摩擦があり、商品を滑り落としにくいのがポイントだ。

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豊田合成が展示したコンビニの品出し作業用ロボットハンド
表面がシリコンのため滑りにくい。(撮影:栗原克己)

エアーを「噴き出して吸着する」

 ロボットでモノを取り上げる方法には、ハンドでつかむ方法の他にエアーによる吸着もあるが、吸着はモノの表面に力がかかってしまい、繊細な商品の場合は傷めてしまう恐れもある。その問題を解消するものとして、カンタムエレクトロニクスが出展したのが、逆にエアーを高速で噴き出すことで把持する「KUMADE」だ。エアーを円柱状のハンドの先端に送り込み、ハンド内部で高速の旋回流を発生させる。竜巻の上昇気流のように旋回流の中心部に負圧(大気圧よりも低い圧力)が生まれるため、ハンドの下にあるモノを吸い寄せることができる。デモでは、通常の吸着方法では形が崩れてしまう板海苔を吸着させたほか、穴が開いているために吸着できないメッシュ状の素材やスポンジなどを吸着させる様子も披露していた。

カンタムエレクトロニクスの「KUMADE」は通常の吸着とは逆にエアーを噴き出して負圧によって吸着
(撮影:栗原克己)

 ハンドを固定的に装着するのではなく、各種のハンドをハンドでつかむアプローチを提案したのがデンソーウェーブだ。同社の小型ロボット「COBOTTA」の先端のグリッパで、バルーンハンドやポンプグリッパ、エアチャックなどをつかみ、対象物に応じてハンドをその場で使い分ける手法を展示した。それぞれのハンドをつかむハンドは汎用的なもので事足りるため、ロボット活用の自由度を高められる。

デンソーウェーブは対象物に応じてハンドを使い分けるシステムを展示
(撮影:栗原克己)

AIで対象物の3次元形状を認識

 ロボットにAIを組み合わせたシステムの提案も見られた。芳賀電機は、麺類や果物など形が一定でないモノを一定量つかんで搬送するシステムを展示。8本の爪から成るハンドでつかむ前に、4眼のステレオカメラで対象物の3次元形状を認識し、一定量をつかむのに適した把持位置を判断。つかんだ後は持ち上げながら重さを量り、次につかむ際の爪の動作へのフィードバックを繰り返すことで精度を高める。デモでは小分け状態でバラ積みにされている菓子をつかみ、量りの上に移動させて重さを量り、ほぼ指定通りの量をつかんでいることをアピールしていた。

左の菓子の山から一定量をつかみ出して重さを計測する芳賀電機のデモ
(撮影:栗原克己)

 カメラによる3次元計測の認識を、粉体の搬送に生かすシステムを展示していたのがAIベンチャーのエクサウィザーズだ。デモではトレイに盛られた塩を、ロボットハンドの先に取り付けたスプーンで一定量すくい取り、別のトレイに移す様子が披露された。塩をすくい取る前に、塩がどのような形状で盛られているかを上部のカメラから認識し、スプーンをどの位置からどのように動かせば指定した量をすくい取れるかを判断する。すくい取るたびに粉体の盛られ方は変わるため、同じ動作では毎回すくい取れる量は変わってしまうが、形状を都度認識することで、一定量を維持するのがポイントだ。薬の調剤作業の自動化などへの適用を想定しているという。

一定量すくい取るのに最適な方向でスプーンをロボットで動かすエクサウィザーズのデモ
粉体の盛られ方を上部のカメラで3次元計測しながら動作を最適化する。(撮影:栗原克己)

 ヤマハ発動機もAIによる画像認識を生かし、細胞のピッキング作業を自動化したシステムを展示した。薬品の開発の際に指定した細胞を吸着して搬送するもので、人の眼では見分けのつかない直径数十~数百μmほどの小さな細胞を、カメラで撮影した画像とAIで認識する。チップマウンタの技術を応用したものだ。

ヤマハ発動機が展示した細胞ピッキングシステム
直径数10~数100μmほどの細胞を見分けて搬送する。(撮影:栗原克己)

違うメーカーのロボット2台を協調動作

 画像認識で実現する典型的な機能に外観検査があるが、デクシスはそれを双腕ロボットに組み込んだシステムを展示した。作業者が組み付けた基板を片方のアームでつかみ、カメラの前に移動させて撮影。もう片方のアームで、合格、不合格のトレイにそれぞれ仕分ける。1回の撮影でバリや傷、凹凸など複数の項目を検査できるという。

双腕ロボットを使ったデクシスの外観検査システム
(撮影:栗原克己)

 双腕ロボットのような機能を2つのロボット、それも異なる2つの異なるメーカーのロボットで実現したユニークなシステムを展示したのが佐鳥電機だ。デモでは三菱電機のロボットと安川電機のロボットが、相互に協調しながら作業する様子が披露された。可搬重量など特性やカテゴリが異なるロボットを組み合わせることで、単一の双腕ロボットではなしえないような協調作業が可能になるという。

佐鳥電機は違うメーカーのロボット2台による協調作業をデモ
(撮影:栗原克己)

人間の動作を手本に再現

 業種ごとのロボット活用提案では、シンテックが食品工場での弁当ふた閉め作業を自動化するシステムを展示した。コンビニエンスストアなどで販売する弁当の場合、容器は簡素で強度が十分でないため、単にふたをのせて上から力で押し込むだけでは容器が壊れてしまう。同社が展示したシステムでは、人間が両手を使って片方ずつ押し込む作業を手本にし、双腕ロボットの先に付けた2つのバーを片方ずつ動かして押し込む。それにより、容器を変形させることなくふた閉めを完了する。コンベア上を流れてくる皿の位置は画像認識で把握しており、吸着したふたをのせる作業も含めて2個ずつ進めることで、作業効率も追求している。

シンテックの弁当ふた閉め自動化システム
人間が行う作業を手本にした動作で、容器を壊すことなく作業を完結させる。(撮影:栗原克己)

 MUJINは物流業界向けに、同社のコントローラをベースにした荷降ろし自動化システムを展示。荷物を載せたパレットをAGVで運ぶ機能と、ロボットでパレットから荷降ろしをする機能を連携させたシステムを、3カ月で立ち上げることができるという。

MUJINの物流業界向けシステムのデモ
ロボットとAGVが協調し、荷降ろしの自動化を実現する。(撮影:栗原克己)

 展示を見ていたある来場者は、「ロボットは正直どこも変わらない。システムを決めるのは、ハンドとセンサだね」とつぶやいていた。ロボットによる自動化システムの主役が、ロボット本体からハンドなど周辺装置に移りつつあることを実感させた2019年のロボデックスだった。