レトロフィットからの発展形も提案

 スタンドアロンで運用していた機器をオープンなネットワークにつなぐ場合、セキュリティ対策も必要になる。その手法でも、レトロフィットのアプローチが見られた。トレンドマイクロと東芝は、生産現場とインターネットの間に設置することで生産現場のセキュリティを確保する装置をそれぞれ紹介した。トレンドマイクロは、産業用Ethernetスイッチなどを手掛ける台湾Moxaと合弁で設立したTXOne Networksのブランドで展開するソリューションの一つとして、生産現場向けのIPSを展示。東芝はインターネットからだけでなく機器間の通信にも対応し、保守作業に使用するUSBメモリーからのウイルス感染拡大を防止できるという。いずれも既設のネットワークに後付けすることで、セキュリティ対策を進めることが可能だ。

トレンドマイクロの生産現場向けIPS
生産現場のネットワークとオープンなネットワークの間に設置しセキュリティを確保する。 (撮影:菊池くらげ)

 レトロフィットした後の発展形まで含めたイメージを見せていたのがジェイテクトだ。同社は積層信号灯などに取り付けることで、機器の状態を無線で伝送する「SignalHop」を提供している。古い機器でもネットワークへの接続と見える化を可能にするシステムだが、同社はこのシステムにカメラやセンサーなどを組み合わせ、作業者やワークの具体的な状態もSignalHopで収集した情報と突き合わせる手法を提案。統合した情報をもとに高度な見える化を行い、改善の手がかりなどを得られるシステムに発展できるとしている。

ジェイテクトは信号灯などに後付けする「SignalHop」による見える化を提案
他の情報も組み合わせて高度な見える化を行う手法を披露した。 (撮影:菊池くらげ)

3000台の鉄道車両の状態監視を可能にしたIoT基盤

 その他にも今回のIoT/M2M展には様々なソリューションが並んだ。アナログ・デバイセズは、同社のセンサーを搭載したデバイスと、Raspberry PiをベースにしたIoTゲートウェイなどを組み合わせたIoTのスターターキットを展示。クラウド上のアプリを開発する環境も提供し、ユーザーが容易にIoTを使ったシステムを構築できるとしている。同社が日本だけで提供しているプログラムという。

アナログ・デバイセズは日本法人独自のパートナープログラムによるIoTスターターキットを展示
(撮影:菊池くらげ)

 アドバネットは、IoTゲートウェイから収集した情報を各種の分析アプリケーションにつなげるための基盤「ESF」(Everyware Software Framework)を紹介した。ドイツ国鉄の貨物部門で3000車両の状態監視に使われているほか、イタリアではエネルギー大手でもモニタリングなどに使われているという(この記事の後に続くカコミ記事「IoT市場をリードするのはプラットフォーマー」を参照)。

アドバネットのIoT基盤「ESF」
ドイツの鉄道網などで状態監視のプラットフォームとして導入実績がある。 (撮影:菊池くらげ)

 IoTで収集する情報の多様化を背景に、収集した情報の処理環境の高度化を提案する出展者も相次いだ。ADLINKジャパンは、NVIDIAのGPUを搭載したディープラーニング用のアクセラレータを展示。現場に近いレベルでも高速な計算処理を求めるニーズに応えていく方針だ。

 IoTで実現できることの一つに、機械の物理的な情報とコンピュータの中のバーチャルな情報を同期させる、いわゆる「デジタルツイン」がある。そのアプリケーションを展示するところもあった。東洋ビジネスエンジニアリングは、実写の映像とユーザーが装着したゴーグルの動きを同期させたVR環境で、作業者の効率的な研修を可能にするソリューション「mcframe MOTION VR-learning」を出展した。バーチャルな環境に展開した実写映像を、ゴーグルを通して作業者に見せながら、必要な教育を行う。建設や物流の現場で求められる安全知識の教育などに使われており、コンテンツもユーザーが自社で容易に作ることができるという。

ゴーグルとVRで作業者の効率的な研修を可能にする東洋ビジネスエンジニアリングの「mcframe MOTION VR-learning」
(撮影:菊池くらげ)

 今回のIoT/M2M展は、「現場からどうやって情報を取得するか」というIoTの第一歩のレベルから、「つなげたIoTの環境からどう価値を引き出すか」という高度な活用のレベルまで、多彩なソリューションが混在したのが特徴だ。IoT活用がまだ過渡期にあり、ユーザーが試行錯誤を繰り返しているということの現れなのかもしれない。

(撮影:菊池くらげ)

IoT市場をリードするのはプラットフォーマー

産業用コンピュータや組み込み用CPUボードなどを展開しているアドバネット(本社:岡山市)は、IoT(Internet of Things)ソリューションのプロバイダを標榜し、グローバルなビジネスを展開しているイタリアEurotechのグループ企業である。2019年2月に来日したEurotech CEOのRoberto Siagri氏に、IoT市場の動向などについて聞いた。

 Eurotechは、組み込み用CPUボードや産業用コンピュータなどのハードウエアと、クラウドをベースにしたデバイス管理やデータ管理などのサービスを展開している。あらゆる産業を巻き込む「デジタル化(Digitalization)」のトレンドはこの事業の追い風になる。

Roberto Siagri氏 Eurotech CEO
(撮影:栗原克己)

 Eurotechが考えるIoTは、フィールド(現場)の技術、つまりOT(Operational Technology)の領域と、IT(Information Technology)の領域を合理的な形でつなぐもの。いわばITとOTの“接着剤”である。IoTの市場をリードするのは、こうした役割を担える企業だ。IoTの広がりは、あらゆる企業にビジネスチャンスをもたらす。だが、個別のデバイスなどIoTを構成する一部の要素だけを提供する企業が、このトレンドをリードする立場になるのは難しいだろう。

 IoTの市場は仕組みが複雑なので、1つの企業が市場を席巻することにはならない。企業間で競い合いながら、1つのエコシステムを構築することになる。例えば、Eurotechの場合、大手クラウドベンダーは競合相手であり、パートナーでもある。IoTが産業に広がる背景にある、いわゆる「第4次産業革命」と呼ばれる産業革新のトレンドは莫大な市場を創出し、あらゆる企業に恩恵をもたらす。ただし、その中で新しい産業の仕組みを支えるプラットフォームを提供する企業の数は少数に限られる。こうしたポジションを確保するためにEurotechは、まだほとんどの企業がプラットフォームを意識していなかった2005年~2006年からIoTの分野に投資してきた。

 Eurotechが展開する産業用IoTソリューション事業の顧客は着実に増えている。ただし現時点では、必ずしも多くの顧客を獲得することを重視しているわけではない。まだ市場が本格化しているわけではないからだ。第4次産業革命の進展とともに産業用IoTの市場は拡大する。このトレンドをけん引するのは、ソフトウエアやハードウエアではない。新しいビジネスモデルである。ただし、ビジネスモデルの変革は、ハードウエアやソフトウエアの技術開発と同じような速さで進むものではないと思っている。(談)

(撮影:栗原克己)