2019年4月10~12日、さまざまなIoT活用の技術を披露する「第8回 IoT/M2M展」が東京ビッグサイトで開催された。製造業の分野では予知保全などの実現方法としてIoTへの期待は高い。既に導入している現場も珍しくなくなっている。一方で、現場で使っている機器はネットワークに接続できるように設計されていないので、簡単にはIoTを実践できないという現場は少なくない。今回のIoT/M2M展では、こうした既存の機器を生かしながらIoTの環境を作る「レトロフィット」の提案が目立った。(取材・文:松尾康徳)

(撮影:菊池くらげ)

 生産現場のIoT活用は、現場の機器をどのようにしてインターネットにつなげるかという観点から始まった。そのためのソリューションの一つに、IoTゲートウェイと呼ばれているものがある。従来は専用のインタフェースから専用のネットワークに出力するしかなかった機器を、IoTゲートウェイを介して汎用的なインターネットに対応させることで、あらゆる機器を相互につなぎ、情報処理をつかさどるコンピュータから集中管理できるようにした。

 IoTゲートウェイは現在も、製造業向けのIoTソリューションの代表的なものであることには変わりないが、そのアプローチにも限界がある。そもそもネットワークのインタフェースを持たない機器はつなぎようがないからだ。

 IoTで予知保全の実現を目指すような場合、分析に使用するパラメータの候補はできるだけ多い方が望ましい。多くの候補を取捨選択しながら分析に有効なパラメータを抽出していくことで、分析の精度が高まることが期待できる。これまで外部にデータを出力することを前提としなかった機器からも、データを取得できるようになれば、精度はさらに向上するはずだ。

 その一番簡単な方法は、データを外部出力可能な新しい機器に置き換えることだが、部分的ならともかく一斉に置き換えるのはコスト面などで難しい。今回のIoT/M2M展で、現在動いている機器を活用しながらIoTの環境に発展させるレトロフィットのアプローチが注目された背景には、そうした生産現場の事情がある。

デジタル化までの“つなぎ”

 典型的なレトロフィットのソリューションの一つが、アナログ機器のデジタル出力だ。エレコムは、生産現場の積層信号灯やメーターにWebカメラを向け、読み取った画像から表示状態をデジタル出力するシステムを展示した。積層信号灯では点灯中の色を判別し、色に応じた情報を出力する。メーターは針の角度を読み取ってデジタルの数値として出力する。

エレコムが展示したメーターのデジタル出力システム
メーターをWebカメラで撮り、針の角度から数値を読み取る。 (撮影:菊池くらげ)

 いずれも現場で作業者が自分の目で見ることを前提とした機器だが、デジタル出力することで現場に行くことなく、ネットワークを介して情報を取得するとともに、他のデジタルの情報と組み合わせて演算するようなことが容易になる。稼働中の機器を止めたり交換したりすることなく、後付けでIoTの環境に対応できるようになるわけだ。デジタル機器に置き換えるまでの“つなぎ”として提案するという。

 日立製作所も、アナログのメーターをカメラで読み取ってデジタル化するソリューションを展示した。センサーでデジタル化した情報を無線通信で転送するため、ネットワーク回線が敷設されていない生産現場でも利用できる。メーターを作業者が読み取って数値をシステムに手入力する場合、入力ミスの可能性が避けられないが、デジタル化により自動で取り込むことが可能になるため、ミス防止にもつながる。液面計や温度計、ラチェット式カウンターなどにも対応する。東京エレクトロンデバイスも、既設の積層信号灯に後付けすることで、点灯状況を無線で送信できるようにするタワーライトセンサーを展示した。

汎用センサー後付けで見える化

 東芝は、生産現場の機器のアナログ情報をデジタルで出力する監視制御装置を紹介した。アナログ入力だけでなくCANやRS-232Cなど各種のインタフェースに対応し、センサーやUSBカメラ、画面情報や熱電対などの情報を取り込んでデジタル制御可能にする。デモでは、生産現場で使用する表示器をUSBカメラで撮影し、そのデータを、装置を介して別のPCに出力。そのPCの画面上の表示器をマウスで操作できる様子を披露した。アナログ機器を入れ替えることなく、機器を遠隔操作することが可能で、表示中の数値情報のデジタル化や数値を基にした自動化などにも発展できるとしている。

東芝はアナログ情報をデジタル出力する監視制御装置のユースケースとして、表示器をカメラで撮ってPCから操作可能にする例を展示
(撮影:菊池くらげ)

 機器に汎用のセンサーを後付けする形でのIoTを提案したのがコンテックだ。センサー情報を集約して見える化するIoT機器「CONPROSYS」を展示。コーヒーメーカーを生産設備に見立て、稼働情報の見える化を実演して見せた。コーヒーメーカーには、カップの有無を検知する光電スイッチ、ランプの状態を検知する照度スイッチ、ふたの開閉を検知する近接スイッチ、内部の水の量を検知する水位センサーなどが取り付けられており、それらの情報をCONPROSYSに集約し、PCの画面にコーヒーメーカーの状態を表示させた。人感センサーや温度センサー、電源センサーなども接続可能だ。それぞれのセンサーは汎用品が使える。複雑なプログラミングも必要としないため、迅速なシステム立ち上げが可能だという。

コンテックの「CONPROSYS」は汎用のセンサーでも複雑なプログラミングなしに見える化が可能
(撮影:菊池くらげ)

 機器がネットワークのインタフェースを持っていても、生産現場にネットワークがないためにIoT導入が進めにくいケースもある。NECはLTEや3Gのネットワークに機器をつなぐためのアダプタ「EA01A」を展示した。モバイルネットワークのため場所を選ばず、またカードサイズでアンテナも内蔵しているため、スペースの有効活用が必要な生産現場にも設置しやすいという。アダプタと機器の間はLANケーブルだけでなく、USBインタフェースで接続することも可能だ。屋外での利用にも対応できるように、動作温度保証をマイナス20度から60度まで幅広く取っているほか、定期的な再起動の機能なども備えている。

機器に取り付けてLTE/3G通信を可能にするNECの通信アダプタ「EA01A」
屋外使用を想定した機能も搭載する。 (撮影:菊池くらげ)

レトロフィットからの発展形も提案

 スタンドアロンで運用していた機器をオープンなネットワークにつなぐ場合、セキュリティ対策も必要になる。その手法でも、レトロフィットのアプローチが見られた。トレンドマイクロと東芝は、生産現場とインターネットの間に設置することで生産現場のセキュリティを確保する装置をそれぞれ紹介した。トレンドマイクロは、産業用Ethernetスイッチなどを手掛ける台湾Moxaと合弁で設立したTXOne Networksのブランドで展開するソリューションの一つとして、生産現場向けのIPSを展示。東芝はインターネットからだけでなく機器間の通信にも対応し、保守作業に使用するUSBメモリーからのウイルス感染拡大を防止できるという。いずれも既設のネットワークに後付けすることで、セキュリティ対策を進めることが可能だ。

トレンドマイクロの生産現場向けIPS
生産現場のネットワークとオープンなネットワークの間に設置しセキュリティを確保する。 (撮影:菊池くらげ)

 レトロフィットした後の発展形まで含めたイメージを見せていたのがジェイテクトだ。同社は積層信号灯などに取り付けることで、機器の状態を無線で伝送する「SignalHop」を提供している。古い機器でもネットワークへの接続と見える化を可能にするシステムだが、同社はこのシステムにカメラやセンサーなどを組み合わせ、作業者やワークの具体的な状態もSignalHopで収集した情報と突き合わせる手法を提案。統合した情報をもとに高度な見える化を行い、改善の手がかりなどを得られるシステムに発展できるとしている。

ジェイテクトは信号灯などに後付けする「SignalHop」による見える化を提案
他の情報も組み合わせて高度な見える化を行う手法を披露した。 (撮影:菊池くらげ)

3000台の鉄道車両の状態監視を可能にしたIoT基盤

 その他にも今回のIoT/M2M展には様々なソリューションが並んだ。アナログ・デバイセズは、同社のセンサーを搭載したデバイスと、Raspberry PiをベースにしたIoTゲートウェイなどを組み合わせたIoTのスターターキットを展示。クラウド上のアプリを開発する環境も提供し、ユーザーが容易にIoTを使ったシステムを構築できるとしている。同社が日本だけで提供しているプログラムという。

アナログ・デバイセズは日本法人独自のパートナープログラムによるIoTスターターキットを展示
(撮影:菊池くらげ)

 アドバネットは、IoTゲートウェイから収集した情報を各種の分析アプリケーションにつなげるための基盤「ESF」(Everyware Software Framework)を紹介した。ドイツ国鉄の貨物部門で3000車両の状態監視に使われているほか、イタリアではエネルギー大手でもモニタリングなどに使われているという(この記事の後に続くカコミ記事「IoT市場をリードするのはプラットフォーマー」を参照)。

アドバネットのIoT基盤「ESF」
ドイツの鉄道網などで状態監視のプラットフォームとして導入実績がある。 (撮影:菊池くらげ)

 IoTで収集する情報の多様化を背景に、収集した情報の処理環境の高度化を提案する出展者も相次いだ。ADLINKジャパンは、NVIDIAのGPUを搭載したディープラーニング用のアクセラレータを展示。現場に近いレベルでも高速な計算処理を求めるニーズに応えていく方針だ。

 IoTで実現できることの一つに、機械の物理的な情報とコンピュータの中のバーチャルな情報を同期させる、いわゆる「デジタルツイン」がある。そのアプリケーションを展示するところもあった。東洋ビジネスエンジニアリングは、実写の映像とユーザーが装着したゴーグルの動きを同期させたVR環境で、作業者の効率的な研修を可能にするソリューション「mcframe MOTION VR-learning」を出展した。バーチャルな環境に展開した実写映像を、ゴーグルを通して作業者に見せながら、必要な教育を行う。建設や物流の現場で求められる安全知識の教育などに使われており、コンテンツもユーザーが自社で容易に作ることができるという。

ゴーグルとVRで作業者の効率的な研修を可能にする東洋ビジネスエンジニアリングの「mcframe MOTION VR-learning」
(撮影:菊池くらげ)

 今回のIoT/M2M展は、「現場からどうやって情報を取得するか」というIoTの第一歩のレベルから、「つなげたIoTの環境からどう価値を引き出すか」という高度な活用のレベルまで、多彩なソリューションが混在したのが特徴だ。IoT活用がまだ過渡期にあり、ユーザーが試行錯誤を繰り返しているということの現れなのかもしれない。

(撮影:菊池くらげ)

IoT市場をリードするのはプラットフォーマー

産業用コンピュータや組み込み用CPUボードなどを展開しているアドバネット(本社:岡山市)は、IoT(Internet of Things)ソリューションのプロバイダを標榜し、グローバルなビジネスを展開しているイタリアEurotechのグループ企業である。2019年2月に来日したEurotech CEOのRoberto Siagri氏に、IoT市場の動向などについて聞いた。

 Eurotechは、組み込み用CPUボードや産業用コンピュータなどのハードウエアと、クラウドをベースにしたデバイス管理やデータ管理などのサービスを展開している。あらゆる産業を巻き込む「デジタル化(Digitalization)」のトレンドはこの事業の追い風になる。

Roberto Siagri氏 Eurotech CEO
(撮影:栗原克己)

 Eurotechが考えるIoTは、フィールド(現場)の技術、つまりOT(Operational Technology)の領域と、IT(Information Technology)の領域を合理的な形でつなぐもの。いわばITとOTの“接着剤”である。IoTの市場をリードするのは、こうした役割を担える企業だ。IoTの広がりは、あらゆる企業にビジネスチャンスをもたらす。だが、個別のデバイスなどIoTを構成する一部の要素だけを提供する企業が、このトレンドをリードする立場になるのは難しいだろう。

 IoTの市場は仕組みが複雑なので、1つの企業が市場を席巻することにはならない。企業間で競い合いながら、1つのエコシステムを構築することになる。例えば、Eurotechの場合、大手クラウドベンダーは競合相手であり、パートナーでもある。IoTが産業に広がる背景にある、いわゆる「第4次産業革命」と呼ばれる産業革新のトレンドは莫大な市場を創出し、あらゆる企業に恩恵をもたらす。ただし、その中で新しい産業の仕組みを支えるプラットフォームを提供する企業の数は少数に限られる。こうしたポジションを確保するためにEurotechは、まだほとんどの企業がプラットフォームを意識していなかった2005年~2006年からIoTの分野に投資してきた。

 Eurotechが展開する産業用IoTソリューション事業の顧客は着実に増えている。ただし現時点では、必ずしも多くの顧客を獲得することを重視しているわけではない。まだ市場が本格化しているわけではないからだ。第4次産業革命の進展とともに産業用IoTの市場は拡大する。このトレンドをけん引するのは、ソフトウエアやハードウエアではない。新しいビジネスモデルである。ただし、ビジネスモデルの変革は、ハードウエアやソフトウエアの技術開発と同じような速さで進むものではないと思っている。(談)

(撮影:栗原克己)