食品生産用設備には食品グレードの部品の使用を

 安全管理が求められるのは、生産する食品に直接触れる物だけではない。食品に偶発的に触れたり、混入したりする可能性がある物への対策も求められる。

 潤滑油などのサプライヤーであるNOKクリューバーは、HACCP対応に向けて、工場内設備の軸受けや金属部品を円滑に動かすための潤滑油に、食品生産用の規格に対応した製品を使うことの重要性を訴えた(図6)。設備を動かす機構は、食品に直接触れる部分でなければ、通常の潤滑油が使われることが多い。しかし、HACCP対応に向けた最も厳しい安全管理標準である「FSSC 22000」に準拠するためには、常時触れていなくても、接触するリスクがある場所では、口に入れても問題ない安全性を備えた「NSF H1」と呼ばれる規格に準拠した潤滑油を採用する必要がある。最近では、大手スーパーが、納入業者にFSSC 22000への準拠を求めるようになり、その業者が扱う商品のサプライチェーン全体がFSSC 22000の取得を目指す必要が出てきた。ただし、現時点では、既存設備の潤滑油を単純にNSF H1準拠品に替えることはできないようだ。潤滑性能が、通常の潤滑油とは異なり、設備自体を改修しないと設備の性能や耐久性が落ちてしまうためだ。

図6 NOKクリューバーの食品生産用の潤滑油
(撮影:栗原克己)

 空気圧機器、流動制御機器、産業用装置などを手がける機械メーカーのCKDも、食品製造工程向けに仕様を最適化した「食品グレード」の製品群を一堂に集めて展示し、HACCP対応に取り組む現場や機器メーカーを柔軟にサポートする姿勢を打ち出していた(図7)。具体的には、空気圧シリンダ、電磁弁などの流体制御機器、電動アクチュエータ、気体発生装置などである。いずれも、食品の生産設備で使うことを前提にした材料、形状、構造が採用されている。

 例えば、機器内で使われている潤滑油をNSF H1規格品に変更したうえで、従来品と変わらない性能や耐久性を発揮できる部品の材料と構造を選択し、設計を最適化している。さらにゴムカバーなど外れる可能性がある部品には、万が一食品に混入しても発見しやすいように目立つ青色を使用。製品の組み立ては、防塵ルームなどクリーンな環境で実施している。これらの商品は、「食品グレード」であることを明示する「FPマーク」のラベルがつけられており、一目で一般部品と区別できる。

 同社は、エアフィルタからアクチュエータまでFPマークを付けた製品を数多く提供しており、HACCP対応に取り組む食品工場の様々なニーズに幅広く対応する考えだ。その一例として展示していたのが、食品の包装時などに利用する圧縮空気や圧縮窒素を生成する装置を構築するためのユニット式システムである。様々な測定ユニットが用意されており、酸素濃度、流量、パーティクル量をリアルタイムで測定する機能が実装できるのが大きな特徴だ。HACCPに基づく管理においては、食品製造工程で使っているエアが安全なものであることを科学的に証明する必要がある。同システムの測定機能を利用して、データ収集の仕組みを実装することで、こうした要求に対応したエア供給システムが効率よく構築できる。

 既に安全を徹底的に追求する自動車メーカーに向けて、「オートモーティブ・グレード」と呼ばれる高い品質を備えた製品の市場がある。同じようにHACCPの義務化を契機に、食品業界においても業界に特化した「食品グレード」の市場が生まれるかもしれない。

図7 「FPマーク」を付けた食品グレードの生産設備用部品を展示したCKD
(左)FPマーク付き部品の展示、(右)外せるプッシュリングを青色にした部品  (撮影:栗原克己)

人手作業によるミスを徹底排除

 年々自動化が進む食品工場だが、自動車業界や電子業界の工場などに比べると、まだまだ人手をかける作業は多い。人手が入ると、それだけミスや汚染が発生する余地が生まれ、安全管理がしにくくなる。検査工程や検査結果のインプットといった、一見ささいに感じる工程も、ちょっとしたミスが一大事につながる可能性がある。人手による作業をITの力で自動化し、ミスを軽減して、安全管理を徹底しようとする動きも活発化している。

 ラベルプリンターのメーカーであるサトーは、生産現場で起こりうる危害要因を洗い出し、すべての工程での衛生管理を徹底監視するためのITシステム「@Form」をHACCPへの対応に活用する提案をした(図8)。これまでの食品工場では、生産した製品の中心温度や冷蔵庫の温度は手作業で計測し、紙の帳票に記録していた。従業員の体調・衛生管理、受入検査、施設の衛生管理、異物混入チェックなどの結果も同様に紙帳票で管理するのが普通だった。@Formを使うと、これらをすべて電子化し、クラウド上で一元管理できるようになる。温度の計測などは、計測結果を人手で入力しなくても、Bluetoothなどの無線通信を利用して自動的に伝送し記録することができる。また、入荷した原材料の検品で破損が見つかった際には、タブレット端末で発生した箇所を撮影し、直ちに記録することも可能だ。これによって、誤読や誤入力を防ぐだけではなく、取引先からの調査要請にも迅速に対応できる。既に、イオングループが、@Form をベースに、400店舗以上を対象にHACCP対応に向けたデータを集中管理し、状況を見える化するための「HACCPクラウド」を構築しているという。

図8 紙帳票の電子化によるHACCP対策を提案するサトーの展示
(撮影:栗原克己)

 寺岡精工は、お弁当や惣菜に貼り付けるラベルにミスがないことを自動検査する装置をHACCP対応に向けて提案した。お弁当などのラベルには、アレルゲンなど安全に関わる情報が記載されている。ここにミスがあれば命にかかわることもあるため、日本惣菜協会はアレルゲンが正しく表示されていることをCCPとみなしている。同社の装置では超広角スキャナーでバーコード、ボトムカメラで底ラベル、サイドカメラで横ラベルを同時にチェックし、商品とラベルの内容の一致を確認する。

図9 お弁当や惣菜に貼り付けるラベルにミスがないことを自動検査する装置を寺岡精工が展示
(撮影:栗原克己)

 HACCPの義務化を受けて、日本の食品業界の安全管理の文化が変わろうとしている。こうした状況の中で開催されたFOOMAでは、食品製造に関わる機器メーカーが工夫を凝らして生み出した様々な技術が、日本の食品の安全を守る時代が到来していることを感じさせた。