アジア最大級の食品機械・装置および関連機器の展示会「FOOMA JAPAN 2019(2019国際食品工業展)」が、2019年7月9日~12日、東京ビッグサイトで開催された。今年の大きな話題の1つは、2020年6月までに食品を扱う企業・店舗が対応することが義務付けられた、食品安全管理の国際基準「HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)」に関連する展示だ。ここでは対応期限が迫ってきたHACCPを巡る出展企業の提案を中心に紹介する。(取材・文:伊藤元昭)

 HACCPは、一言で言えば、これまで生産者の崇高な職業意識に頼っていた食品の安全確保を、誰の目にも疑いようがない科学的根拠に裏付けられたデータとシステムで担保できる体制を整えるものだ。まじめな生産者が多い日本にはなかった、性悪説に基づく管理手法であるといえる。海外市場への輸出やインバウンドの訪日客のもてなしには欠かせない概念だ。ところが、これまでの日本の食品業界の発想にはなじまない面があるためか、義務化され、対応期限が迫っているにもかかわらず、業界の動きがなかなか進んでいないのが現状のようだ。

 FOOMA JAPAN 2019の会場内で、「HACCP対応」と銘打った調理器具を展示していたブースの説明員は、「HACCPは話題にはなっているが、その対応に向けた設備導入や生産ラインの改修を進めている企業は、極めて少ない」と語っていた。義務化されることを知っていても、何をしたらよいのか、対策の糸口が全くつかめていない企業が多い。そこで、設備を提供するサプライヤーは、HACCPの普及指導員や管理資格、リーダーの資格を取得した営業担当者を育成し、顧客に対して一から対策の考え方を説明しているという。

 実は、「導入しておけばHACCP対応」と言えるような特効薬的な設備は存在しない。安全確保に向けた管理手法と管理基準は、生産者自体が商品の特徴や、工場や厨房の状況に応じて個別に定義すべきものだからだ。ただし、HACCP対応に向けて役立つ調理器具や設備は存在する。ここからは、FOOMA JAPAN 2019で目立った、HACCPへの対応を支援する技術や製品を紹介する(図1)。

図1 FOOMA JAPAN 2019の会場の風景
(撮影:栗原克己)

清浄領域と汚染領域を分別管理

 HACCP対応に向けて、細菌や化学物質、汚れなどが食品に混入しないように、汚染が許される領域と清潔な領域に工場内をキッチリと区分けして安全管理する食品メーカーが増えている。半導体工場のクリーンルームと同様の発想だ。FOOMA JAPAN 2019では、こうしたゾーン分けした工場レイアウトの中で安全管理するための器具や設備、さらには工場の設計手法など様々な提案があった。

 指紋認証によるドアロック機能を備えた冷蔵庫を提案していたのが、食洗機や冷蔵庫など厨房設備を手がけるホシザキである(図2)。指紋認証機能に加えて、冷蔵庫の裏と表の両面に扉が付いている点も特徴である。この冷蔵庫は、汚染領域と、滅菌した清潔な領域の間を隔てる壁をまたぐように設置することを想定している。両面に扉があるので、指紋を登録した搬入者が、清潔な領域に足を踏み入れることなく、食材を納入できるのだが、表と裏の扉は同時には開けられないようになっている。こうした構造の設備は、パススルー型と呼ばれる。同社が展示した冷蔵庫では、搬入者と冷蔵庫の開閉時刻を記録できるようにして、トレーサビリティーも実現している。扉を開閉する際の認証方法は、IDカードや暗証番号にも変更できるという。

図2 ゾーン分けによる安全管理に向けた、指紋認証機能付きパススルー型業務用冷蔵庫
(左)冷蔵庫の外観、(右)指紋認証部  (撮影:栗原克己)

 工場の汚染の度合いに合わせて色の違うブラシを使い分け、清潔領域への汚染物質の混入を防ぐ管理の仕方を提案したのが、清掃などに使うブラシのメーカーであるバーテックである(図3)。食品工場では、搬入口となるシャッタールームなどの汚染領域、サニタリールームなど準清潔領域、加工室や原材料室など清潔領域、包装室など高度清潔領域といった具合に、細かくゾーン分けして安全管理することがある。この場合、それぞれの領域で別々の清掃具を使わないと清潔な領域を汚染してしまう。こうした問題を未然に防ぐために、同社は、それぞれの領域で使う清掃具が色によって明確に区別できるように、色のバリエーションが豊富な清掃具を揃えた。領域ごとに清掃具の色をキッチリと分けることで、人為的なミスで清潔領域が汚染されるのを防げる。さらに、ブラシから抜けた毛が食品に混入する可能性がある加工室や原材料室では、食品では見慣れない色である青色のブラシを使うことで、万が一ブラシの毛が抜けてもすぐに発見しやすくできる。

図3 汚染度に応じて色の違う清掃具を使い分けるバーテックの提案
(撮影:栗原克己)

 日立プラントサービスは、AI(人工知能)を利用してHACCPへの対応に適した食品工場のレイアウトを設計する技術を披露した。作業効率を高めることはもちろんのこと、人の動線、汚染が発生する可能性などを考慮しながら、AIが何万通りもの案の中から条件に最も合うレイアウトを見つけ出す。半導体工場の設計・施行実績が豊富な同社は、そこで培った気流シミュレーションや熱のコントロールなどの知見をこの技術に生かしているという。同社ブースの説明員は、「今後は、日本の食品工場で働く人材が一段と多様化する。安全確保の取り組みを、指導に頼るのではなく、作業員の動線を一方通行にしたり、逆に戻れないようにしたり、意図的に高低差を付けたりして、そもそも間違いが起こり得ないような対策を施すことも必要」と語っていた。

野菜の洗浄工程での安全性と高品質を確保

 HACCPに対応した安全管理では、安全性に対する影響が特に大きな工程をリアルタイムでモニタリングし、あらかじめ定めた科学的根拠に伴う安全基準を満たすことを確認し、常に安全な食品を生産できていることを証明できるようにしておく必要がある。こうしたモニタリングのポイントのことを「CCP(Critical Control Point)」と呼んでいる。FOOMA JAPAN 2019の会場で、CCPとして挙がっていたポイントの1つがカット野菜の洗浄工程である。安全管理だけではなく、鮮度や味を維持する品質管理の側面も兼ね備えた提案があった。その1つが、微酸性電解水の応用技術を手がける微酸研の展示である。

 微酸研は、洗浄工程で用いる殺菌用の洗浄水を人手を介さず作る装置を、HACCPへの対応を後押しする技術として展示した(図4)。一般に、洗浄水には高い殺菌効果を持ちながら臭いや味がないPh5~6.5の微酸性水を用いることが多い。この微酸性水は、次亜塩素酸ナトリウムを水に混ぜて作ることが多いのだが、この作業に人が関与していると、洗浄水の濃度を厳密に管理することが難しい。実は、これが汚染の原因を招く。例えば、過度に酸性度が高まれば、器具の腐食が進み、はがれ落ちた腐食物が食品に混入する可能性がある。これに対し、微酸研の装置では、塩酸を電気分解して、精密に濃度管理しながら微酸性電解水を自動生成することができる。

図4 殺菌用の洗浄水を自動的に生成する装置を微酸研が展示
(撮影:栗原克己)

 業務用洗浄剤および関連機器を手がけるライオンハイジーンは、微細なオゾンの泡(マイクロバブル)を洗浄水に吹き込んで殺菌能力を持たせる技術を展示していた(図5)。前回のFOOMAでも出展していた技術だ(関連記事)。今回は、洗浄水のオゾン濃度、水温、室温、環境オゾン濃度、野菜の処理量などを、リアルタイムでモニタリングし、安全性と品質を常時確認するシステムを合わせて展示した。近年、カット野菜加工の発注者であるコンビニやスーパーが、安全確保を確認できる仕組みを求める例が増えてきている。同社の装置を利用すれば、発注者が遠隔地からモニタリングしたデータを確認することも可能だ。

図5 ライオンハイジーンが展示したリアルタイム・モニタリング機能を備えたマイクロバブル方式の野菜洗浄装置
(撮影:栗原克己)

食品生産用設備には食品グレードの部品の使用を

 安全管理が求められるのは、生産する食品に直接触れる物だけではない。食品に偶発的に触れたり、混入したりする可能性がある物への対策も求められる。

 潤滑油などのサプライヤーであるNOKクリューバーは、HACCP対応に向けて、工場内設備の軸受けや金属部品を円滑に動かすための潤滑油に、食品生産用の規格に対応した製品を使うことの重要性を訴えた(図6)。設備を動かす機構は、食品に直接触れる部分でなければ、通常の潤滑油が使われることが多い。しかし、HACCP対応に向けた最も厳しい安全管理標準である「FSSC 22000」に準拠するためには、常時触れていなくても、接触するリスクがある場所では、口に入れても問題ない安全性を備えた「NSF H1」と呼ばれる規格に準拠した潤滑油を採用する必要がある。最近では、大手スーパーが、納入業者にFSSC 22000への準拠を求めるようになり、その業者が扱う商品のサプライチェーン全体がFSSC 22000の取得を目指す必要が出てきた。ただし、現時点では、既存設備の潤滑油を単純にNSF H1準拠品に替えることはできないようだ。潤滑性能が、通常の潤滑油とは異なり、設備自体を改修しないと設備の性能や耐久性が落ちてしまうためだ。

図6 NOKクリューバーの食品生産用の潤滑油
(撮影:栗原克己)

 空気圧機器、流動制御機器、産業用装置などを手がける機械メーカーのCKDも、食品製造工程向けに仕様を最適化した「食品グレード」の製品群を一堂に集めて展示し、HACCP対応に取り組む現場や機器メーカーを柔軟にサポートする姿勢を打ち出していた(図7)。具体的には、空気圧シリンダ、電磁弁などの流体制御機器、電動アクチュエータ、気体発生装置などである。いずれも、食品の生産設備で使うことを前提にした材料、形状、構造が採用されている。

 例えば、機器内で使われている潤滑油をNSF H1規格品に変更したうえで、従来品と変わらない性能や耐久性を発揮できる部品の材料と構造を選択し、設計を最適化している。さらにゴムカバーなど外れる可能性がある部品には、万が一食品に混入しても発見しやすいように目立つ青色を使用。製品の組み立ては、防塵ルームなどクリーンな環境で実施している。これらの商品は、「食品グレード」であることを明示する「FPマーク」のラベルがつけられており、一目で一般部品と区別できる。

 同社は、エアフィルタからアクチュエータまでFPマークを付けた製品を数多く提供しており、HACCP対応に取り組む食品工場の様々なニーズに幅広く対応する考えだ。その一例として展示していたのが、食品の包装時などに利用する圧縮空気や圧縮窒素を生成する装置を構築するためのユニット式システムである。様々な測定ユニットが用意されており、酸素濃度、流量、パーティクル量をリアルタイムで測定する機能が実装できるのが大きな特徴だ。HACCPに基づく管理においては、食品製造工程で使っているエアが安全なものであることを科学的に証明する必要がある。同システムの測定機能を利用して、データ収集の仕組みを実装することで、こうした要求に対応したエア供給システムが効率よく構築できる。

 既に安全を徹底的に追求する自動車メーカーに向けて、「オートモーティブ・グレード」と呼ばれる高い品質を備えた製品の市場がある。同じようにHACCPの義務化を契機に、食品業界においても業界に特化した「食品グレード」の市場が生まれるかもしれない。

図7 「FPマーク」を付けた食品グレードの生産設備用部品を展示したCKD
(左)FPマーク付き部品の展示、(右)外せるプッシュリングを青色にした部品  (撮影:栗原克己)

人手作業によるミスを徹底排除

 年々自動化が進む食品工場だが、自動車業界や電子業界の工場などに比べると、まだまだ人手をかける作業は多い。人手が入ると、それだけミスや汚染が発生する余地が生まれ、安全管理がしにくくなる。検査工程や検査結果のインプットといった、一見ささいに感じる工程も、ちょっとしたミスが一大事につながる可能性がある。人手による作業をITの力で自動化し、ミスを軽減して、安全管理を徹底しようとする動きも活発化している。

 ラベルプリンターのメーカーであるサトーは、生産現場で起こりうる危害要因を洗い出し、すべての工程での衛生管理を徹底監視するためのITシステム「@Form」をHACCPへの対応に活用する提案をした(図8)。これまでの食品工場では、生産した製品の中心温度や冷蔵庫の温度は手作業で計測し、紙の帳票に記録していた。従業員の体調・衛生管理、受入検査、施設の衛生管理、異物混入チェックなどの結果も同様に紙帳票で管理するのが普通だった。@Formを使うと、これらをすべて電子化し、クラウド上で一元管理できるようになる。温度の計測などは、計測結果を人手で入力しなくても、Bluetoothなどの無線通信を利用して自動的に伝送し記録することができる。また、入荷した原材料の検品で破損が見つかった際には、タブレット端末で発生した箇所を撮影し、直ちに記録することも可能だ。これによって、誤読や誤入力を防ぐだけではなく、取引先からの調査要請にも迅速に対応できる。既に、イオングループが、@Form をベースに、400店舗以上を対象にHACCP対応に向けたデータを集中管理し、状況を見える化するための「HACCPクラウド」を構築しているという。

図8 紙帳票の電子化によるHACCP対策を提案するサトーの展示
(撮影:栗原克己)

 寺岡精工は、お弁当や惣菜に貼り付けるラベルにミスがないことを自動検査する装置をHACCP対応に向けて提案した。お弁当などのラベルには、アレルゲンなど安全に関わる情報が記載されている。ここにミスがあれば命にかかわることもあるため、日本惣菜協会はアレルゲンが正しく表示されていることをCCPとみなしている。同社の装置では超広角スキャナーでバーコード、ボトムカメラで底ラベル、サイドカメラで横ラベルを同時にチェックし、商品とラベルの内容の一致を確認する。

図9 お弁当や惣菜に貼り付けるラベルにミスがないことを自動検査する装置を寺岡精工が展示
(撮影:栗原克己)

 HACCPの義務化を受けて、日本の食品業界の安全管理の文化が変わろうとしている。こうした状況の中で開催されたFOOMAでは、食品製造に関わる機器メーカーが工夫を凝らして生み出した様々な技術が、日本の食品の安全を守る時代が到来していることを感じさせた。