機械を作るための多様な要素技術が、一堂に会する専門展示会「第22回 機械要素技術展(M-Tech)」が、2018年6月20~22日に東京ビッグサイトで開催された。同展示会は、日本のものづくりの裾野の広さと多様さ、高度さを肌で感じることができる場である。そこには、豊富な利用実績に裏付けられた強い技術、IT技術や先端科学の知見を駆使した技術など、ものづくりの今と未来を支える数々の技術が出品される。その中から、ほんの一部だけ、新たな潮流が垣間見える技術例を紹介する。(伊藤元昭)

 機械技術は、あらゆる分野のものづくりの発展と進化に欠かせない基盤技術である。自動車や電気製品をはじめ半導体も、食品も、医薬品も、それらを生産する装置や検査装置がなければ作れない。生産するモノが高度であればあるほど、大量であればあるほど、高品質であればあるほど、より優れた機械技術を活用して作った装置が必要になる。研究開発の現場でも、様々な局面で必要になる最新鋭の装置を構築するために機械技術が欠かせない。M-Techは、このような機械技術の最新トレンドを知ることができる展示会である(図1)。

図1 機械の構成要素となる技術の専門展示会「第22回 機械要素技術展(M-Tech)」が、2018年6月20~22日に東京ビッグサイトで開催された
(撮影:坂野昌行)

ドライバーをIoT化してミスを撲滅

 ネジ締め作業で用いる工具のメーカーであるハイオスは、作業情報をクラウド上で管理できるIoT電動ドライバーを展示した(図2)。誰がやってもミスすることなくネジ締め作業ができるようにするために開発した製品である。

図2 ネジ締め作業のミスをなくすHIOSのIoT電動ドライバー
(左)IoT電動ドライバー本体と管理情報を表示するタブレット端末、(右)ネジ締め作業をしている様子 (撮影:坂野昌行)

 あらゆる工業製品の組み立て工程には、随所にネジ締め作業が組み込まれている。そんな当たり前の日常的な作業なのだが、そこでは思いのほか多くのミスが生じやすい。そもそも指定したネジが、所定の場所に使われていることや、想定通りに締められていることを確認することすらできていない現場も少なくない。

 これまでにもハイオスは、こうした問題を解決するため、指定通りのネジ締めができていることを「見える化」するシステムを開発してきた。例えば、ある工程でネジを3本締めることになっていたとする。ハイオスの電動ドライバーは、手元のカウンターに締めるべきネジの数を表示する機能を備え、指定したネジを1本締めるたびに表示した数字をカウントダウンする。そのうえで、指定通りのネジを使っていないとエラーを表示する機能も組み込み、ネジ締め作業時のミスを抑えられるようにしていた。

 今回展示した製品では、この取り組みをさらに一歩進め、「IoTを使って、見える化したデータを工場全体、さらには世界中で一元管理できるようにした」(ハイオス)。例えば、各作業者の作業履歴などのデータをクラウドに集め、それを分かりやすい形に変換して表示する。これによって、それぞれの作業者が使っているドライバーが、どのような作業をしているのかが、リアルタイムで分かるようになる。展示ブースでは、同社の山形工場で行われているネジ締め作業の様子を、会場にあるタブレット端末にリアルタイムで表示して見せていた。

 「間違ったネジ締め作業をしているにもかかわらず、現場は気づかないまま作業を続けて、不良品を大量に作り出してしまうことがある。IoTドライバーを使えば、遠隔地から作業を監視して、問題が生じたときには、遠隔操作でドライバーを停止させて作業を止めることもできる」(ハイオス)。近年、日本企業の多くが、海外に生産拠点設けている。IoT電動ドライバーを活用すれば、世界中の工場におけるねじ締め作業を集中管理できるようになる。

蛾の複眼をヒントにした表面処理技術

 タッチパネルの透明電極として使われるITO(酸化インジウムスズ)などの成膜を請け負うジオマテックは、フィルムやガラスの表面にナノレベルの凹凸を作ることで、様々な機能を付加する技術を展示した(図3)。「g・mos」と呼ぶこの技術は、蛾の複眼が洗浄することもなく、むき出しの状態で敏感な視覚能力を維持していることに着目して、同様の機能を再現することを目指して開発したものだ。

図3 ナノレベルの凹凸で高度な反射防止機能を生み出すジオマテックのg・mos
(上)素ガラス、一般的な反射防止フィルム、g・mos構造のフィルムで映り込みを比較(撮影:坂野昌行) (下)g・mos構造表面の凹凸の様子 (提供:ジオマテック)

 展示では、液晶ディスプレイの前に素ガラス、一般的な反射防止フィルムを貼ったガラス、g・mos構造を形成したフィルムを貼ったガラスをそれぞれ5枚重ねして、外部光の映り込みを比較していたが、その差は明らかだった。g・mos構造のフィルムを貼ったものは、ガラスの存在すら分からないほど、液晶ディスプレイの表示をくっきりと見ることができていた。

 実は、g・mosは水を弾く超撥水性という別の性質も持っている。「スマートフォンのディスプレイに活用すれば、指紋がついても軽く拭き取るだけで指紋を消し去ることができる。こうした特徴を生かして、すでにデジタルサイネージなどに採用されている」(ジオマテック)。さらに、汚れが付着しにくいよいう特徴もある。例えば、水を送るパイプの内部にナノ構造の凹凸を形成すれば、汚れが付着しにくくなる。例えば、鉱物由来の成分を多く含む硬水を流した時に発生する内壁の汚れを抑える効果が期待できるという。また、液体を運ぶパイプの内側にこの処理を施すと液体が流れやすくなるので、使用するポンプの小型化を図れる。

機械から発せられる異音の音源を見える化

 音の測定・分析装置を提供している小野測器は、どのような周波数の音がどこから出ているのかを簡単に特定できる、音源可視化システムを展示した(図4)。

図4 小野測器の音源可視化システム
(撮影:坂野昌行)

 機械が故障する時、突然聞こえてくる異音によって、異常に気づく場合が多々ある。時には、故障に至る前に、その予兆として異音が出てくる場合もある。機械を運用する際、的確なメンテナンスをしていくうえで、音は重要な情報になる。ところが、こうした異音が聞こえても、それが出ている場所や音の種類を特定することは、思いのほか大変だった。従来、測定器を使って発生源を特定しようとすると、30本以上のマイクロフォンで測定対象を取り囲む大掛かりな設備で音を計測する必要があったという。つまり、機械が置かれている現場では、なかなか計測できないということだ。

 小野測器が開発した装置は、比較的軽量で、手持ちで使うことができる。対象物を撮影するカメラと4本のマイクで構成されており、マイクはカメラに取り付けてある。計測したデータを標準的なFFTアナライザーで解析することで、カメラで撮影した映像の上に、音源を特定して表示できる。このため、現場に持ち込んで、手軽に音源の特定と解析ができる。「既に自動車のモーター音や工場の装置などの検証に使われている」(小野測器)。

ベアリングの全数品質検査が可能に

 光学技術を応用した計測器を提供しているポリテックジャパンは、ベアリングの生産ラインにおいて、非接触で全数を検査できるようにするドップラー振動計を展示した(図5)。ドップラー振動計とは、レーザー光を測定対象に当てて、反射した光の波長が振動によるドップラー効果で変化する様子を検知して、振動を調べる計測器である。測定対象には、レーザー光を当てているだけなので、非接触で計測できる点が最大のメリットだ。

図5 ポリテックジャパンのドップラー振動計を使ったベアリング品質検査
(左)コンベアが流れる速度などを非接触計測するドップラー振動計、(右)ドップラー振動計でベアリングの振動を非接触計測している様子 (撮影:坂野昌行)

 振動がある、つまり回転にガタつきがあるとエネルギーロスを生ずる。そのような状態のベアリングを組み込まれると機械が十分な性能を発揮しなくなる。従来、ベアリング生産ラインの最終品質検査では、製品の中から無作為に抜き取り、加速度ピックアップと呼ばれる接触式の振動計を取り付けて、品質を確認していた。ただし、この作業は取り付け具合によって計測結果が大きくブレる可能性があることから、熟練を要した。しかも測定結果の再現性にも不安があった。

 ドップラー振動計を使えば非接触で計測できるので、安定したデータが取得できるだけでなく、従来方式のようにピックアップを測定対象に取り付ける作業も不要になる。これらによって測定に要する時間を短縮できることから、全数検査も可能になる。「ベアリングは、機械製品の中でも重要な部分。つまり性能の要に使われている。このため、全数検査ができることによるメリットは大きい」(ポリテックジャパン)。

 現在は、同じ原理を使って、3次元振動を測定することもできる。この技術があれば、立体的なモノの振動分布、例えば、自動車のボディの振動分布などを克明に調べることができる。バイオリンなど楽器の振動分布を計測することで、音色の違いを解析することも可能だ。これまでは振動の計測に光を使っているため、タイヤのように黒い対象物を高精度で計測することが困難だった。赤外光を使うことで、こうした対象の計測も可能になる。

力加減が分かるロボットの手で自動化

 ロボット事業にも力を入れているエプソンは、ロボットの手に力加減を感じる力覚センサーを仕込むことで、これまで人手作業に頼っていた繊細な仕事を、ロボットを使って自動化する技術を展示した(図6)。力覚センサーには、振動を電気に変える水晶圧電素子を使っている。エプソンは、もともと時計に組み込む水晶素子を作っていたメーカーだ。同社が長年培った水晶振動子の技術を応用したのが今回披露した技術である。

図6 エプソンの力覚センサーを使った繊細な仕事の自動化
(左)力覚センサー、(中)フレキシブル基板のケーブルをコネクターに取り付けるデモの様子、(右)遊星ギアを組み上げるデモの様子 (撮影:坂野昌行)

 ブースでは、柔らかいフレキシブル基板のケーブルをコネクターに取りつける作業と、手探りで力加減を見ながら作業する遊星ギアの組み立てを自動化した例を披露した。「いずれも力覚センサーによって、ロボットの動きで生じる力を感じながら自律的に動きを制御できるようになったことで可能になった作業だ」(エプソン)。ただし現状では、力を感じながらロボットの動きを制御しているため、どうしても動きが遅くなる。人が作業する場合に比べて、約3倍の時間がかかる。それでも、24時間稼働できることを考えると、現状のままでも利用のメリットはあるという。

 技術の進歩によって、ロボットの腕を動かす技術は、近年かなり進化した。だがロボットの手先の部分に関しては、まだまだ進化の余地が大きく残されている。扱うものの形状によっては、人間のようにはうまく保持することができない。また、硬さや脆さに応じた、微妙な扱いもできない。しかし、今回の力覚センサーを使った触力覚センサーは、ロボットの手先の部分の進化に大きく貢献する可能性を秘める。

用途広がる窒素ガスを無限に調達

 産業用の様々な機器や装置の開発・製造を手がけるCKDは、空気から窒素ガスを作り出すことができる精製ユニットを展示した(図7)。

図7 CKDの工場内で空気から工業用窒素ガスを作り出す精製ユニット
(撮影:坂野昌行)

 最近では様々な製品の生産工程において窒素ガスが使われている。例えば、アイスクリームをフワフワに仕上げるための気泡作り、スナック菓子の酸化防止、はんだ付けする時の皮膜形成防止、タイヤの空気抜けを防止などである。これらの工程では、ボンベで供給される99.99%の高純度窒素ガスを使うことが多い。だがボンベに入った高純度の窒素ガスは比較的高価だ。しかも、ボンベを扱えるのは高圧ガス保安法の資格が持った技術者に限られる。こうした懸念があるにもかかわらずボンベに入った高純度窒素ガスを使っている現場は多い。だが、その中には、必ずしも高純度の窒素ガスを使う必要がないユーザーも多く含まれている。

 CKDは、純度は99.9%と、ボンベに比べれば純度は多少落ちるが、工場内の空気から窒素ガスを簡単に作り出せる技術を開発した。空気中から窒素ガスを作るため、ランニングコストを約90%削減できる。扱うための資格も不要だ。この技術は、空気中の酸素分子より窒素分子の方が大きいことに着目して開発したもの。「すのこ」のような構造のフィルターで、窒素ガスを選り分ける。フィルターに流す空気の流量を多くすると純度は下がり、少なくすれば純度は上がる。つまり利用目的に応じて、適切な調整が可能だ。大量に窒素ガスを使うユーザーにとって、画期的な技術といえよう。

 華々しく脚光を浴びることはなくとも、幅広い産業の基盤を支える重要な役割を担う機械技術は多い。今回の機械要素技術展では、こうした認識を一段と深めることができた。