業種や企業の枠を超えて、ものづくりとITの融合を考える場として2015年に設立されたコンソーシアム「インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)」が、目覚ましい成果を挙げたワーキング・グループを表彰する「IVIつながるものづくりアワード」。2018年度最優秀賞に選ばれたのが、「発展的かつ継続的なデータの収集と分析(溶接出来栄えの可視化と品質向上)」というテーマに取り組んだワーキング・グループ「4A02」である。同ワーキング・グループが目指したのは、現状ではベテランの知見に頼っている溶接不良の原因解析を自動化し、これにIoT(Internet of Things)システムを使って生産ラインから収集したデータを入力することで、継続して生産プロセスを改善するシステムの実現である。企業の枠を超えて集まった同ワーキング・グループのメンバーに、高度なテーマに挑んだ動機や開発経緯などについて聞いた。(取材・文:伊藤元昭)

 日本の製造業革新をリードする団体の1つであるIVIの活動は、製造業にかかわる多くの企業の注目を集めている。そのIVIの基本的な活動の1つが、生産現場における典型的な課題を「業務シナリオワーキング」として定義したうえで、この課題を解決する手法のリファレンスモデル(参照モデル)を作成することだ。リファレンス・モデルを実践するうえで必要になるITシステムの仕組みや運用の枠組みを明確にし、これを業界で共有することにより、新しいものづくりの基盤を実現することを目指している。

 IVIでは、年度の初めに20件ほどの業務シナリオワーキングを設定。業務シナリオワーキングごとに設けたワーキング・グループに参加企業各社のメンバーが分かれて参加する(図1)。各ワーキング・グループは、リファレンス・モデルを考案したうえで、実証実験を実施し、その有効性を検証。その結果を年度末に報告することになっている。こうしたワーキング・グループの1年間の活動成果を評価して、表彰する制度が「IVIつながるものづくりアワード」である。

図1 異業種の企業のエンジニアが肩を並べて同じ現場の課題の解決に取り組む
(画像提供:Industrial Value Chain Initiative、撮影:CKD)

革新に踏み込んだ活動を評価

 2018年度は19のワーキング・グループが活動した。IVIつながるものづくりアワード2019の最優秀賞を受賞した「4A02」は、その1つである。同ワーキング・グループに参加したのは8社。すなわち、産業用機械と部品のメーカーであるCKD。産業用制御システムを手がけるマイクロネット。IT企業の日本電気とインテック。FA機器のプロバイダーであるジェイテクトとナ・デックス。産業用ソリューション・プロバイダーの伊藤忠テクノソリューションズ。ユーザー企業に当たる完成車両メーカーのトヨタ車体である。この中で、グループの作業の流れを管理する「ファシリテーター」をCKD、活動を記録してリファレンス・モデルとしてまとめる「エディター」をマイクロネットが務めた。

ワーキング・グループ「4A02」のメンバー
右から、CKD コンポーネント本部 ネットワーク技術部 部長 水野博之氏。CKD コンポーネント本部 生産技術統括部 工法開発グループ 丹羽孝太氏。マイクロネット 鹿島開発センター マネージャー 小柳正久氏。インテック 先端技術研究所 参事(シニアスペシャリスト) 堀雅和氏。光洋電子工業(ジェイテクト・グループ) ソリューション開発室 主任 清水正寿氏。CKD コンポーネント本部 ネットワーク技術部 本田 祥氏。 (撮影:栗原克己)

 同ワーキング・グループが開発に取り組んだのは、「溶接工程における属人的作業のIoTによる自動化」を実現するシステムである。IoTシステムを使って溶接工程の設備から集めたデータを分析して、発生する不良の原因を自動的に解明。さらに問題点を改善するための指針も提供するシステムだ。溶接工程における不良の原因は、装置、条件、材料など多岐にわたる。このため原因の解明には時間がかかる。しかも、こうした作業には経験豊富な技術者が不可欠だが、そのようなベテラン技術者は、なかなか簡単には確保できないのが現状だ。溶接不良の原因を自動的に分析し、改善の指針まで示すシステムがあれば、これらの問題が一気に解決する。また今回は、溶接工程が対象だが、このシステムのコンセプトや技術は、他の工程にも展開できる可能性がある。つまり、ものづくりの現場全体に大きなインパクトを与える可能性のあるテーマだ。

 今回のアワードでは、IoTシステムでデータを集めるだけでなく、データを活用してものづくりの現場が抱える問題を解決する仕組みと、さらにこれを続けることで生産工程を継続して改善するシステムの実現という高度な目標に取り組んだ点が高く評価された。ものづくりの現場にIoTシステムを導入する企業は、日本の製造業においても着実に増えている。ただし、製造設備の稼働状態や作業の進捗を可視化するなど、収集したデータから情報を抽出する段階の事例が多いのが現状だ。

20年前に開発した設備に実装

 受賞したワーキング・グループのテーマは、2016年度から取り組んでいたテーマを、内容を発展させながら継承したものだ。つまり、今回の受賞は3年にわたる取り組みの成果である。2018年度に実証実験を実施したシステムの開発は2017年度から始まった。3年目の2018年度は、このシステムをベースに、生産ラインから継続してデータを収集・分析し、現場の問題を解決する仕組みの実現を目指した。ここからは2017年度にさかのぼってワーキング・グループの取り組みを振り返る。

 実証実験を実施した現場は、CKD 四日市工場にある流体制御バルブの自動溶接ラインである(図2)。同社が20年以上も継続して市場に提供しているベストセラーの製品を扱っている設備だ。材料が異なる2つの部材(電磁弁の固定鉄心とパイプ)を溶接する工程を担っており、材料供給、圧入、溶接、検査といった一連の作業を自動で実施する。約20年前にCKDが自社で開発したラインで、実証実験を実施するまで大きな変更を加えたことはなかったという。

図2 実証実験を実施した自動溶接ライン
(左)全景、(右上)溶接機、(右下)トーチ部 (画像提供:Industrial Value Chain Initiative、撮影:CKD)

 この自動溶接ラインがシステム開発の対象として選ばれたのには、現実的、かつ野心的な理由がある。「工場の花形である切削工程におけるIoTの活用については大手加工機メーカーなどが先進的なシステムの開発を既に進めている。同じ領域で技術を開発する意義は小さい。むしろ、既存設備を使う工程で解決されないまま残された課題をIoTやAI(人工知能)によって解決できればインパクトが大きいと考えた」と、1年目と2年目にファシリテーターを務めたCKD コンポーネント本部 ネットワーク技術部 部長の水野博之氏は語る。

「部材の有効活用」から着手

 自動溶接ラインでは、実証実験を始める時点で解決すべき課題が大きく2つ挙がっていた(図3)。1つは検査工程の効率化と検査精度の向上。従来は、密封(シール)、外径寸法、深さ寸法などの検査を溶接後に目視で実施していた。だが、人手による検査の宿命で、効率化には限界があり、検査精度のバラつきもある程度覚悟する必要があった。もう1つは、溶接トーチ(アーク溶接の際に使う溶接材)の交換頻度削減。これまでは、ワークを40本溶接するたびに無条件で溶接トーチを交換していた。この40本ごとという頻度は、経験から割り出した数に、少しの余裕を加えて決めたものだ。このため必ずしも、トーチ本来の使用寿命を使い切らないまま交換していた。2017年度は、IoTシステムを利用して生産ラインからデータを収集する仕組みを構築したうえで、2つの大きな課題のうちの1つである溶接トーチの適切な交換時期を検出するシステムの実現を目指した。

図3 開発対象とした現場で生産する流体制御バルブと溶接工程に残された改善の余地
(左)流体制御バルブ、(右)溶接工程に残された改善の余地と改善点 (画像・図版提供:Industrial Value Chain Initiative、撮影・作成:CKD)

 構築したデータ収集システムの概要は以下の通り(図4)。データの検出には4種類のセンサーを併用した。すなわち信和産業と日本フィジカルアコースティクスが共同開発したAE(Acoustic Emission)センサー、光洋電子工業製の振動センサー、汎用の電流センサーおよびUSBカメラである。センサーの出力データを収集するシステムは、マイクロネット製の産業用IoTエッジコンピュータ、ジェイテクト製ボードPLC(Programmable Logic Controller)、インテック製の異常検出サーバー、伊藤忠テクノソリューションズとエーディーエステックが供給する画像分析システム、ウイングアーク1st製のBI(Business Intelligence)ツールなどで構成した。これらのデバイスで構築したシステムは、溶接に要する18秒間に合計5万4000ポイントのデータを収集し、3秒以内に1つのファイルに集約できる。こうしたシステムに、収集したデータを分析してトーチの交換タイミングを自動的に割り出すアルゴリズムを実装した。

図4 供給元が異なる機材やソフトを組み合わせて1つのIoTシステムとして機能させる
(画像提供:Industrial Value Chain Initiative、作成:CKD)

 これらを構築する過程でプロジェクトのメンバーは、IoTシステムを構築するうえで役立つ知見が数多く得られたという。マイクロネット 鹿島開発センター マネージャーの小柳正久氏は、「はじめはつながりそうもないと思っていたコンポーネント同士を、データ構造を明確にし、全体の動きを整理して考えることで1つのシステムとして機能させることができた。こうして多様なコンポーネントを組み合わせて効果的なIoTシステムを実際に構築できたことは、得難い体験だった」と語る。

 光洋電子工業 ソリューション開発室 主任の清水正寿氏は、「1社だけでシステムを開発すると目配りできるポイントが自社の守備範囲内に限られてしまうことが多い。IVIの仕組みの中で異業種の企業と共同開発したことで、これまで目を向けていなかった領域で新しい気づきが数多く得られた。同時に様々なベンダーが提供したハードウエアやソフトウエアを組み合わせて、1つのシステムとして動作させるためには、自社の技術的な視野をもっと広げなければならないという課題も明確になった」と2017年度の活動を振り返る。

 さらにインテック 先端技術研究所 参事(シニアスペシャリスト)の堀雅和氏は、現場とITベンダーが密接に連携することの重要性を感じたという。「システム構築の際には、現場をよく知る人が立てた仮説を、システムを構築するITベンダーが検証するという役割分担で進め、お互いの仕事を納得できるまで理解しないと効果的なIoTシステムができないことを、IVIの取り組みに参加して実感した」(堀氏)。