開発は難易度の高い領域へ

 こうした前年度の取り組みを引き継ぐ形で2018年度に活動を開始したワーキング・グループでは、まずUSBカメラを使って撮影した溶接部分の画像データから、溶接不良を自動検出するシステムの開発に着手した。AIの技術を利用した自動診断アルゴリズムを使って、それまで目視で行っていた良品と不良品の選別作業を自動化した。現状では、89%の精度で良品と不良品を見分けることが可能だ。

 これに加えて、溶接工程で不良が発生する原因を解析するシステムの開発を進めた(図5)。2018年度からファシリテーターの役割を引き継いだCKD コンポーネント本部 生産技術統括部 工法開発グループの丹羽孝太氏は、「溶接工程における不良は、装置、条件、材料など多様な原因で発生する。このため、原因を特定するのに時間がかかる。そこでIoTシステムで集めたデータを上手に分析して、不良を招く問題点や、そこをどのように改善すべきかといった指針を自動的に提供するシステムの実現を目指した」と言う。これによって、溶接不良が発見されてから、その原因を解明し、対策を施すまでに要する時間を大幅に減らせる可能性がある。

図5 実証実験に向けた開発の様子
(画像提供:Industrial Value Chain Initiative、撮影:CKD)

 この取り組みは、かなり高度なチャレンジだ。溶接工程における不良原因の解析は、これまでベテラン技術者の経験やノウハウに頼っていたからだ。属人的な技術やノウハウをデータ化し、アルゴリズムとしてシステムに実装するのは容易なことではない。だが、溶接で不良が発生する原因を自動分析できるシステムが実現できれば、もたらされるメリットは大きい。例えば生産拠点を海外に展開する場合に有用だ。海外拠点では、不良が発生した際に原因を解明することができる経験豊富な人材を確保できるとは限らない。場合によっては、日本から現地にエンジニアを派遣して対処しなければならない可能性もある。マザー工場で蓄積した知見をベースに原因を自動分析できる仕組みがあれば、どこに工場を展開したとしても、それぞれの現場だけで迅速に対処できるようになる。

目標は“匠の技”の自動化

 ワーキング・グループは、データから溶接不良の原因などを割り出すアルゴリズムを開発するに当たって、現場や技術部門へのヒアリングを実施。溶接前後の部材や完成品の状態から不良原因を解明するための筋道を、図示することから始めた。そして、収集すべきデータとして、溶接機に入れるモノの条件(INPUT情報)である部品の「成分」「寸法」「設備に流す電流」「ガス流量」「溶接時間」「トーチの交換回数」、溶接中の溶接機の状態を示す「溶込み状況」「振動」「溶接部が発する光」、完成品の状態を示す「寸法」「気密性」「目視外観」「強度」をリストアップ。それぞれの関係を仮説として示した(図6)。そして、実証実験を実施し、統計的分析の結果から、不良原因の解明に向けて分析対象とすべきデータを絞り込み、関係性を明確にしてシステム化を目指した。

図6 溶接の前後のワークの状態と装置の稼働条件や溶接中の作業の様子を示すデータ間の相関を仮定して検証
(画像提供:Industrial Value Chain Initiative、作成:CKD)

 さらに、効果的なデータを取得するための細かい工夫も欠かせかったという。ただ集めただけの生のデータには分析の邪魔になる雑音などが含まれているからだ。こうした雑音などを除去する技術が必要になる。また、各センサーから得られた様々な種類のデータを総合的に分析するには、データ間で時刻同期を取らなければならない。しかも、データから原因を割り出すためには、単に良品と不良品の選別をする場合よりも、一段と高い同期精度が求められる。

 画像センサーとして採用したUSBカメラから効果的な情報を得るための様々な技術も開発した。例えば溶接ポイントで発生する光の具合から溶接不良の原因が分かる。今回は、この光を検知するためのセンサーとしてUSBカメラを使った。「カメラの光学系が汚れてしまったり、周辺の明るさが変わってしまったりすると、うまく検知できない。こうした誤検知や精度低下が起きないように、検出条件を慎重に設定する必要がある」とUSBカメラの画像からデータを取り出すソフトウエアを開発したCKD コンポーネント本部 ネットワーク技術部の本田 祥氏は言う。

 こうした取り組みを進めたものの、不良発生原因を解明するシステムは、2018年度中に完成には至っていない。このため2019年度もプロジェクトを継続して開発を続ける。「現状では、データを基に原因の分析を自動化できるメドが立ったところ。今度は定期的に不良を発生させる要因を再抽出し、サーバーに溜まったデータを再分析して、システムをブラッシュアップしながら、より実践的なシステムへと発展させる考えだ」(丹羽氏)。また2019年度は、溶接現場以外の他の二つの生産現場にIoTシステムを実装し、新たな現場の問題解決にも取り組む方針だという。

“同床異夢”から“同床同夢”のチームに

 前述の通り、 ワーキング・グループ「4A02」の活動が高く評価されたのは、データを活用してものづくりの現場が抱える問題を解決し、さらにこれを続けることで生産工程を継続して改善するという高度なレベルまで取り組みを進めたことだ。この活動の始まりは3年前だが、実際に自動溶接ラインを使った開発が始まったのは2017年度だった。実は、このときワーキング・グループのメンバーの間で大きな意識の変化があったという。

 1年目と2年目にファシリテーターを務めた水野氏は、「2016年度は、IoTという技術の目新しさに引きずられて、先進システムの利用先ありきのIoT活用を考えていた。装置や部品内部の見えない欠陥を検知できるAEセンサーを様々な現場に設置して、その結果を評価しながら、収集したデータを有効活用できそうな場所を探し回っていた」と1年目の様子を語る。

 2017年度の活動が始まった当初は、2016年度の延長という形で活動を進めていたという。この流れが変わったのは、実証実験の準備が本格化する2017年秋頃のことだ。キッカケは、2017年10月25日に開催した定例のミーティングだった。そのミーティングでは、いつものように今後の活動について議論していたのだが、途中から「このまま、先進的なIoTシステムの活用場所を探しているだけで、参加企業が求めているような成果が得られるのか」という疑問の声が散発的に上がり始めた。

「そこで、それまでの取り組みをメンバーが振り返り、自分たちは何を目指すべきなのか。そして、何ができるのかを徹底的に議論。その後、メンバーが共に目指したいと考えるシステムの姿を1枚のシステム図として書き上げて共有した。それからメンバー企業が保有する技術を持ち寄って、新規のIoTシステムを独自開発することにした」(水野氏)(図7)。この日を境に、“同床異夢”の状態だった異業種集団のワーキング・グループが、一丸となって課題に取り組む“同床同夢”のチームに変わった。同時に、難易度の高い課題に果敢に挑む流れができたという。

図7 目指すべきシステムの姿を議論したホワイトボード
(画像提供:Industrial Value Chain Initiative、撮影:CKD)

 数年前から世界全体で急速に盛り上がった製造業革新のムーブメント。当初はIoTなど新しい技術の概念そのものが話題の焦点になっていた。だが時間とともに本質的な理解が業界で広がり、最近では先進技術を活用しながら実現する新しい製造業の将来像に話題の焦点は移りつつある。これとともに、ものづくりの現場を革新するための企業の取り組みが進む見込みだ。「IVIつながるものづくりアワード2019」を受賞したワーキング・グループ「4A02」の取り組みは、こうした業界の動きを先取りしているように見える。

(撮影:栗原克己)