大盛況のワークショップから窺える関心の高さ

 グーグル社やNVIDIA社、ウエスタンデジタル社といった市場を牽引する大手企業の積極姿勢もあって、RISC-Vへの関心はこのところ急速に高まっている。背景の一つに、RISC-V Foundationが2015年から半年に1回の頻度で開いているRISC-Vワークショップの存在がある。例えば2018年12月に米国カリフォルニア州サンタクララでRISC-V Summitと題して開催し、約1000人の参加者を集めた。ほぼ1年前の第7回ワークショップの参加者が500人ほどだったので倍増したことになる。

 RISC-V Foundationの日本での活動にも活気が出てきた。日本版RISC-Vワークショップである「RISC-V Day」は2017年12月と2018年10月の2回開かれ、それぞれ350人と250人の参加者を集めた(図5)。特に第1回は、「ウエスタンデジタル社がRISC-Vを全面採用」というニュースが参加者募集中に飛び込んだこともあって、会場の東京大学伊藤謝恩ホールは満員で立ち見が出るほどの盛況ぶりだった(図5左)。2019年は9月に第3回RISC-V Dayが開かれる予定である。

図5 日本で開催されたワークショップRISC-V Dayの会場風景
左は2017年12月に東京大学伊藤謝恩ホール、右は2018年10月に慶應義塾大学藤原洋記念ホールで開かれたRISC-V Dayの様子。企業、大学などから前者は350人、後者は250人が出席した。

 第2回RISC-V Dayの2日後には、国際学会MICRO51でRISC-Vのワークショップが開かれた。MICROは米国電気電子学会IEEEと計算機科学の国際学会ACMが共催する権威ある国際シンポジウムだが、51回目の今回は日本で初めて開かれた。RISC-Vのワークショップにはアジア各国から100人を超える参加者が集まった。とりわけ中国からの参加者の多くが、20代から30代前半と若かったのが印象に残った。なお中国ではRISC-Vがブームになっており、中国Jinglue SemiconductorのAlex Guo氏がRISC-Vのアジア太平洋地域タスクグループの共同会長(もう1人の会長はSHコンサルティングの辻岡尚美氏)を務めている。

日本でもブームが到来か、企業や大学で開発が相次ぐ

 ワークショップだけではなく、日本での情報発信やLSIの開発にも弾みがついてきた。例えば、電子・情報・通信技術の総合誌である日経エレクトロニクスは2017年1月号で「IoTはARM一辺倒にあらず、RISC-Vに大きなチャンス」と題する対談、2018年8月号で「RISCはARMの牙城を崩せるか?」と題する企画記事を掲載したほか、同年11月号と12月号と2号連続でIBM Researchが開発した試作LSI(図6)を取り上げた。2017年1月からの2年間を見ると、日経BP社のすべての技術専門誌をあわせて18本の記事が誌面を賑わせた。日経BP社の記事を転載する形で日本経済新聞の電子版に2本の解説記事が載ったので、そちらをご覧になった方もいるかもしれない。

図6 IBM Researchが開発した試作LSI
次世代エッジ・コンピューティング向け。14nmの半導体製造技術を使い、チップ面積は0.076mm2、消費電力は0.2mWと小さい。 出典:日経エレクトロニクス、2018年11月号。

 IBM Researchが試作したのは、IoT時代を見据えた次世代エッジコンピューティング向けのLSIで、図6のようにチップ面積が0.076mm2と小さい。IBM Researchは、さらに性能と機能を向上させたLSIの開発に取り掛かっているという。日経エレクトロニクスの対談で、SHコンサルティングCEOの河崎俊平氏はモーター制御用の64ビットマイコンを開発予定であることを明らかにした。2018年4月に横浜で開催されたIEEE主催の国際シンポジウムCOOL Chips21のポスターセッションで、その一端を披露している。

 オープンソースで誰でも無料で使えるRISC-Vは大学に恩恵を与えている。日本の大学が研究目的でRISC-Vを使う事例が出てきたのだ。例えば電気通信大学は2018年のRISC-V Dayで64ビットのRISC-Vプロセッサーについて発表したし、東京電機大学は2018年12月に開かれた電子情報通信学会で、RISC-V準拠の2種類のプロセッサーを披露した。

 このほかRISC-Vは、経済産業省が進める「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」(図7)でも採択された。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けて、革新的AIエッジコンピューティング技術を開発する。

図7 経済産業省が進める「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業」
RISC-Vベースで、革新的AIエッジコンピューティング技術の開発を行う。

オープンソースでハードウエアのLinuxを目指す

 RISC-V台頭の背景にある第2の要因は、半導体の技術的問題に対応する潜在能力を秘めていることだ。技術的問題は大きく2つ。1つ目は半導体の微細化や大規模化によってLSIを開発するコストが急増していること(図8、図9)。2つ目は半導体を微細化しても、LSIの性能向上が思うに任せられなくなったことである。

図8 半導体の開発コストの推移
半導体製造技術の微細化とともに、開発費が急増している。IEEE主催の国際シンポジウムCOOL Chips21で米SiFive社共同設立者でCTOのYunsup Leeが行った招待講演の資料である。出典:Yunsup Lee、Designing the Next Billion Chips:How RISC-V is Revolutionizing Hardware。
図9 LSIの開発件数の推移
半導体製造技術の微細化とともに、開発件数は減少傾向にある。IEEE主催の国際シンポジウムCOOL Chips21で米SiFive社共同設立者でCTOのYunsup Leeが行った招待講演の資料である。出典:Yunsup Lee、Designing the Next Billion Chips:How RISC-V is Revolutionizing Hardware。

 図8と図9は、国際シンポジウムCOOL Chips21で米SiFive社CTOのYunsup Leeが行った講演資料である。SiFive社はRISC-Vを開発したカリフォルニア大学バークレイ校からスピンアウトした会社で、サイファイブと発音する。

 図8は横軸に半導体製造、縦軸に開発費をとった場合の推移である。半導体製造技術の微細化とともに、開発費が急増していることがよく分かる。詳細に内訳を見ると、LSIの複雑化にともなうソフトウエアの検証の伸び率による影響が大きいが、設計したLSIの品質を保証する検査(validation)や正しく設計されたかを保証する検証(verification)といった作業のコストも大きく伸びている。結果として、図9のように新規に開発されるLSIは減少傾向にある。

 この問題を解決するのが、RISC-Vの特徴の一つであるオープンソースという設計手法だ。RISC-VではISAがオープンソースとして無償で公開され、使用料(ライセンス料)とLSIごとのロイヤリティを支払うことなく、誰でも自由に改良・再配布が可能である。マイクロプロセッサーを独自に開発する場合に注意する必要のある特許侵害の懸念も払拭できる。ISAを使う敷居を下げて、企業や組織の枠を越えたコミュニティの衆知を集めて、低コストで技術の開発と改善を促す。オープンソースのOSとして確かな地歩を築いたLinux(リナックスと発音)と同様の考え方である。端的に言えば、RISC-Vは「ハードウエアのLinux」を狙っているといえる。

 ちなみにRISC-V Foundationは2018年12月、Linuxの普及を促進する非営利団体Linux Foundationとの協業を発表した。両Foundationは、RISC-Vプロセッサーを使ったシステムのLinuxへの対応だけではなく、組み込みOS「Zephyr(ゼファーと発音)」の開発・普及でも協力体制を敷く。