LSIの性能向上の限界に挑む

 マイクロプロセッサーの性能向上が壁にぶつかっているのは図10と図11を見るとよく分かるが、RISC-Vにはこの問題を想定した「Domain Specific Architecture」という考え方が組み込まれている。特定分野に的を絞った機能や仕組みをプロセッサーに組み込むことで、対象となる分野について高速処理を達成しようという考え方である。

図10 マイクロプロセッサーの動作周波数の推移
2005年を境に動作周波数はほとんど横ばい状態である。

 マイクロプロセッサーの性能を向上させる手っ取り早い方法は、半導体技術の微細化に応じて動作周波数を高めることである。ところが消費電力が大きくなりすぎるために、動作周波数を高められなくなってきた。図10から、2005年ころを境に動作周波数の向上に急ブレーキがかかっているのが分かる。2005年からしばらくは、1つのLSIに複数のプロセッサコアを内蔵し、並列処理を行うことで性能を高めてきた。しかし、それも限界に近づきつつある(図11)。

図11 マイクロプロセッサーの性能向上の推移
2010年以降の性能向上に急ブレーキがかかっている。

 こうした状況に対応するのが、マイクロプロセッサーを特定の処理向けに最適化するドメイン固有アーキテクチャーという考え方である。最近になって米Amazon.com社や米Microsoft社、グーグル社といった情報技術(IT)の巨大企業が、AIやクラウドコンピューティングに向けた専用チップの開発に動いているのも、この流れでとらえることができる。

 RISC-VのISAには、ドメイン固有の処理に対応した命令を組み込むための余地が開発当初から残されている。市場規模にもよるが、自動車や家電製品、制御装置、製造装置といったドメインに特化したRISC-Vチップが登場する可能性もある。パターソン氏はRISC-Vの設計思想について、RISC-V原典の第1章でこう述べている。

 ムーアの法則が通用しなくなったときにコスト・パフォーマンスを大きく向上させる唯一の道は、特定のドメイン向け命令を追加することである。例えばディープ・ラーニング、拡張現実、組み合せ最適化、グラフィックスなどのドメインが考えられる。つまり今日のISAにとって、オペコードの拡張の余地を予め確保しておくことが重要になっている。

IoT時代の主役になれるか、これからが正念場

 RISC-Vは小規模な組み込み用コントローラーから高性能で大規模なハイパフォーマンス・コンピュータまで、幅広いアプリケーションをカバーするISAである。だが、インテル社のx86アーキテクチャが押さえているパソコンやサーバー、Arm社が圧倒的に強いスマホの領域に今から参入しても勝ち目は薄い。

 パラダイムが大きく変化するときが、後発のISAにとっての勝機だ。こう考えると、狙いは今後の市場拡大が期待できるIoTの分野である。ソフトバンクがArm社を3兆3000億円で買収したのも、1兆個の機器がインターネットにつながるIoT時代の到来を見据えてのことだ。

 IoT機器に搭載するマイクロプロセッサーに求められる要件は多種多様である。しかも、現時点で想像もできないような提案が出てくる可能性も高い。こうしたときに、ドメイン固有アーキテクチャーの考え方を取り入れたRISC-Vの柔軟性が生きてくる。まっさらのISAで、過去のしがらみがないことも有利に働く。これがRISC-V台頭の第3の要因である。ARMの過去の成功は、資産でもあるが足かせにもなりうる。ライセンス料やロイヤリティも気にかかる。RISC-Vが食い込む余地は十分である。

 米ガートナーのハイプ・サイクルによれば、IoTが市場の主流になるまでに5年ほどかかる。現時点のRISC-Vの開発状況を考えると時間的な余裕はないが、ギリギリ間に合うタイミングだろう。「成功の女神には前髪しかない」と言われる。RISC-Vは今、正念場を迎えている。