仮想通貨の基盤技術として生まれた「ブロックチェーン」を、様々な取引や契約に応用に活用する動きが活発化している。想定されているその応用分野は、びっくりするほど多様であり、製造業にも広がっている。ブロックチェーンを活用すれば、これまで信用と権威を持つ第三者のお墨付きが必要だった経済活動が、より便利で活発なものへと変わる。その絶大なインパクトは、人類が数千年かけて構築した社会制度、さらにはビジネスのあり方をも根底から変えてしまう可能性がある。(伊藤元昭)

 銀行、不動産会社、商社、各種代理店、著作権や特許の管理機関、そして政府・・・。これらはみな、ブロックチェーンの活用によって、劇的な業務効率の向上や新たな価値創出が始まる可能性がある業種だ。当然、製造業も例外ではない。

 人工知能に取って代わられる職業は何か。そんな話題が頻繁に語られるようになった。しかし、実は、ブロックチェーンの本格的な活用によってなくなる職業の方が多く、変化も早いのではないか。しかも、信用と権威を売りものにする、これまで“高給取り”と呼ばれていた職業の業務がなくなる可能性が高いようにも感じる。

お墨付きはもういらない

 ブロックチェーンは、中央集権的な第三者機関(中央機関)がなくても、ITシステムの仕組みを使って、安全で信頼性の高い取引や契約ができるようする技術である。取引の履歴や契約内容に関する情報を公開台帳に記してオープン化し、それを多くの人が共有することで取引や契約の正当性を担保する(図1)。言い換えれば、「みんなで見守れば、特に信用のある人や機関のお墨付きがなくても安心」というのが基本的なコンセプトだ

図1 ブロックチェーンの仕組み
出典:経済産業省発行の「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書」

 信用の置ける第三者機関がいない取引や契約は、何か不安な気もするが、実はメリットがたくさんある。

 例えば、お墨付きを与える機関の存在自体が、取引や契約に要するコストを増大させる要因になっている。銀行振込や不動産取引にかかる手数料が高いと感じたことがある人は多いことだろう。また、取引などの与信における第三者機関内部での意思決定プロセスがブラックボックス化しているため、ともすれば第三者機関自身が不正の温床となる可能性がある。最近は、役所や大企業での文書改ざんなどの話題が多い。

 これに対し、ブロックチェーンを使えば、人手を介さない分、手数料などを大幅に引き下げる可能性が出てくる。また、意思を持つ人が介さない分、信頼性が高い公正な取引や契約ができる。人手を介する作業である限り避けられないムダと不安を、作業をITシステムに任せることでなくすことこそがブロックチェーンの存在意義なのだ。

応用が仮想通貨から急拡大

 現代社会では、ビジネスや生活のあらゆる場面で、様々な取引と契約が行われている。そうした当たり前の行為のあり方が、ブロックチェーンによって大きく変わる可能性がある。

 ブロックチェーンという技術のオリジナルは、サトシ・ナカモトと名乗る謎の人物が書いた、1本の論文の中で提唱された。仮想通貨の一種である「Bitcoin(ビットコイン)」の価値をITシステムの仕組みを使って担保する方法として作り出された技術である。ただし、オリジナルは、仮想通貨への応用に特化していたため、他の応用に展開しにくい部分があった。これが近年、技術の改良が進み、多くの応用で実現できるようになった。

 ブロックチェーンには、第三者機関不要といったメリットの他に、「取引や契約を自動化できる」「信頼性の高いトレーサビリティーを実現できる」「システム障害やサイバー攻撃に強いデータベースが構築できる」いった、いくつかのメリットがある。そして、これらのメリットを生かして、新たなビジネスモデルや社会制度、組織運営の仕組みを生み出そうとする動きが、にわかに活発化している。さながらインターネットが登場したばかりの時期に見られたアイデア競争が再現しているかのようだ。

 経済産業省は、仮想通貨以外のブロックチェーン関連市場の規模を67兆円と見積もっており、応用分野は極めて広く、波及効果も大きい。ここからは、提案されている星の数ほどある応用の中から、ほんの一握りを紹介したい。

計画的に価値を変える通貨

 まずは、ブロックチェーン活用の最大のメリットである「第三者を介さない取引や契約」の応用例を紹介したい。意外なことに、ブロックチェーンによって存在意義が危うくなった銀行で活用法の模索が活発に進められている。「座して消え去るのではなく、敵を手なずけてしまえ」とする戦略である。

 これまで、手形や小切手などの取引では、国際的な取引はもとより、同じ銀行の口座間の取引でさえ多額の手数料がかかっていた。ここにブロックチェーンを活用することで、業務の迅速化、効率化、安全化を図る試みが進んでいる。既に、スイスのUBS銀行や英Barclays、三菱UFJファイナンシャルグループなどが行内での決済や送金への適用を、米JPMorgan Chase や、みずほファイナンシャルグループなどが国際送金への適用を検討している(図2)。国際送金の手数料は、従来の約10分の1に抑えることができるとされる。

図2 三菱UFJファイナンシャルグループが開発した独自仮想通貨「MUFGコイン」の機能
出典:CEATEC JAPAN 2017での同社の展示パネルを筆者が撮影

 ブロックチェーンを利用して、これまでにはない新たな機能を持つ通貨を作ろうとする動きも出てきている。日本の家電量販店やショッピングセンターなどでは、特定店舗で通貨のように活用できるポイントサービスが古くから提供されている。ブロックチェーンを活用すれば、イベント期間中だけ有効な通貨や、時間の経過であらかじめ決めたルールの下で価値が変動する通貨、所得や年齢など使う人の属性に応じて価値が変わる通貨など、これまでにない価値を持つ通貨やポイントサービスを作ることができる。

 さらに、権威のある第三者機関が不要という特徴は、ネットビジネスのあり方を一変させる可能性も秘めている。現在提供されているネット通販、シェアリング、SNSなどのインターネット上のサービスは、それぞれの分野の顧客や商品のデータを独占する企業によって運営されている。ブロックチェーンを活用すれば、こうした特権的な地位を占める巨大企業の役割が不要になるかもしれない。銀行の例と同様に、巨大企業の利権を奪うためにブロックチェーンを使う動きと、巨大企業がブロックチェーンを使いこなす動きがせめぎ合うようになると思われる。

取引と契約を自動化するスマートコントラクト

 次に、「取引や契約を自動化できる」メリットを活用した事例を紹介する。
 ブロックチェーンなどを活用した、ITシステムによる自動取引・自動契約のことを、「スマートコントラクト(賢い契約)」と呼ぶ。成立条件や実行手順などをプログラム化し、条件確認、履行、価値移転、決済など取引や契約に伴う一連の作業をすべて自動化し、人手を介さないようにする。

 米IBMと韓国Samsung Electronicsは共同で、スマートコントラクト機能を搭載した洗濯機「W9000」を開発した(図3)。洗剤が残り少なくなったら、ただちに自動検知し、販売店に自動発注する機能を備えている。そして、あらかじめ決めておいた契約条件に則って支払いを実行し、取引の経過を所有者に自動報告する。故障時にも同様に、修理や保守部品を自動手配する。また、家庭内の他の家電製品との間で稼働状況を調整し、家全体での消費電力を最小化するといった機能も備えている。この洗濯機では、人間の代わりに機械がお金の支払いなどの決裁権限を持っている。人からの発注ではなくても、ブロックチェーンが取引の信用を担保しているので、販売店や保守サービス業者は不安を感じることなく取引に応じることができる。

図3 自律して消耗品管理や故障対応、他の家電との稼働調整を行う洗濯機
出典:筆者が作成

 よく考えれば、古くからある自動販売機もスマートコントラクトの一種といえる。ただし、ブロックチェーンを活用することで、先の例に見られるようなより複雑な条件や手順に基づく取引や契約でも、より安全に自動化できるようになる。20歳未満には販売しないとか、見積もり依頼を複数出して最も安価な業者に発注するといったことが可能になる。

スマートコントラクトの活用には法整備が必須

 スマートコントラクトは、人を介した場合よりも、迅速、低コスト、公正で信頼性の高い取引や契約ができる。既に、「Ethereum(イーサリアム)」など、スマートコントラクトでの活用を想定した代表的ブロックチェーン・プラットフォームも登場している。

 スマートコントラクトを、医師の処方箋が必要な医薬品の自動購入に応用しようというアイデアもある。ブロックチェーンを使って、医師が患者の病状に合わせて発行した処方箋を患者が受け取り、患者は薬局に処方箋と代金を送って薬を受け取る。この一連の作業を自動化する。薬局に送られた処方箋が、医師が発注者に対して発行したものであることを自動記録し、しかも改ざんの可能性もないため、薬の自動購入ができるようになる。外出が困難な状態の患者にとっては、便利なサービスになることだろう。

 様々な応用が考えられるスマートコントラクトだが、その利用に際して、既存の法や商習慣などを見直す必要がある分野が多い。例えば、契約書は契約違反があったときに裁判の証拠としての効力がある。ところが、プログラム化された契約の条件や手順に同様の効力があるのか、社会のコンセンサスは得られていない。また、薬を購入する例では、そもそも日本では、要指導薬品は薬剤師を介さないと取引できない。スマートコントラクトの利用を前提とした、新たな法整備が必要になってくる。

様々な広がりを見せるブロックチェーンの応用。後編 では、「信頼性の高いトレーサビリティーを実現できる」「システム障害やサイバー攻撃に強いデータベースが構築できる」といったメリットを活用した例を紹介する。

(後編に続く)