仮想通貨の基盤技術として生まれた「ブロックチェーン」の応用分野は驚くほど多様だ。既に、この技術を活用する動きが様々な分野に広がろうとしている。ブロックチェーンを巡る最新動向を紹介するこの記事の前編では、ブロックチェーンの概要やインパクトとともに、「第三者機関不要」「取引や契約の自動化」といった応用について言及した。後編では、製造業との関わりが多い「トレーサビリティー」や「サイバー攻撃」にまつわる応用へと話を進める。(伊藤元昭)

 後編は、「信頼性の高いトレーサビリティーを実現できる」というメリットを活用した例の紹介から始める。

 ブロックチェーンでは、一定期間内に発生した取引や契約の情報を、暗号化してブロックと呼ぶ一塊にまとめている。そして、時間が経過して新たな取引や契約が発生すると、前のブロックの後に新たなブロックをチェーン状に連ねていく。だからブロックチェーンと呼ばれる。新たなブロックをつなげる際には、ブロック間にデジタル的な割印を押す。これによって、後から順番を入れ替えたり、情報を書き換えたりできなくなる。この特徴を、モノの流通履歴や人の経歴や病歴などの記録に活用する取り組みが数多く行われている。

 例えば、製品の原材料の産地や仕入先、製造履歴、流通・販売の履歴など、工業製品のサプライチェーン全体を高い信頼性で見える化、透明化できるようになる。食品の生産などに応用すれば、農産物の産地表示や加工食品の原材料、添加物、アレルゲンの含有、さらにはハラル食品の証明など、信頼性と付加価値の高い情報をつぶさに知ることができる。

 米Skuchain社は、ブロックチェーンを応用して、製造業のサプライチェーンの効率化と新たな機能の付加が可能な技術を提供している(図4)。信頼性と秘匿性が高いトレーサビリティーの確保とサプライチェーン・マネジメントの運用コスト削減、資本コストの最適化が、同社の技術の狙いである。信頼性の高いトレーサビリティーの実現は、自動車のリコールなどで大きな効果を発揮する。不具合を引き起こした部品から、それを供給したサプライヤーや製造ロットを迅速に洗い出し、同様の問題を抱えていそうな部品を使ったクルマを特定できる。さらに最近世間を騒がせている、データの改ざんも防止できる。また、Skuchain社の技術では、サプライチェーン上の企業間でのスマートコントラクトを実現できるだけでなく、企業間で契約・受発注情報を担保に好条件で迅速な融資も行うことができる。同社は、日本ではNTTデータと共同で主に製造業向けにサービスを提供する。

図4 米Skuchain社のブロックチェーン技術が製造業のサプライチェーンにもたらす効果
出典:NTTデータ、米Skuchain社

人のトレーサビリティーも実現

 リクルートテクノロジーズは、転職支援サービスに用いる履歴書公証データベースにブロックチェーンを応用する実証実験を行った(図5)。人のトレーサビリティーを明確するための試みである。履歴書や卒業証明書、かつて在籍した企業の所属証明書など様々な公的証明書を登録し、応募先が決められた範囲内の情報を閲覧できるようにする。転職希望者は、複数の公的証明書を収集する労力を軽減でき、より多くの企業に迅速に経歴を照会してもらえるようにもなる。一方、採用側も、個人情報管理の負担軽減と経歴詐称リスクの回避が可能になる。

図5 リクルートテクノロジーズが提供する履歴書公証データベースの利用フロー
出典:リクルートテクノロジーズのプレスリリース

障害とサイバー攻撃に強い

 次に、「システム障害やサイバー攻撃に強いデータベースが構築できる」というメリットを活用した例を紹介する。

 ブロックチェーンは複数の人が、同じ情報を分散保有するため、一部に障害が発生しても全体のシステムダウンが起きにくい。さらに、サイバー攻撃にも強い。これらの特徴は、著作権や土地などの登記情報など、無形の価値を安全に保管する手段として見逃せない。

 特許権や著者権、さらにはゴルフ場やスポーツクラブの会員権などのような無形の価値を管理する際には、その権利が正当であることを保証する第三者が必要になる。ただし、第三者による価値の管理は、価値を記録した情報が1カ所に集中することを意味し、システム障害やサイバー攻撃への脆弱性が生まれてしまう。権利の正当性を保証可能で、しかもシステムの堅牢性も確保でき、その取引も容易で、運用コストも低減できるブロックチェーンは、まさに無形の価値を管理するために最適な技術だといえる。

現状の無形資産の管理手法、実は脆弱

 例えば、不動産の分野では、書類を通じた取引と契約が様々な場面で行われる。当然、用意すべき書類は多いし、人手で作成する書類ではミスや詐称が入り込みやすい。ブロックチェーンを活用した管理が実現すれば、こうした問題を一気に解消できる。既に、ブロックチェーンを活用した不動産記録保管の仕組みを米Ubitquityが提供している。保管だけではなく、土地や建物の登記作業、それらの移転や土地の分筆・統合、抵当権の設定など不動産を扱う作業全般に利用範囲を拡大する検討も始まっている。

 また、ドイツのAscribeは、ブロックチェーン上で芸術作品などを管理するサービスを提供している。アーティストが自分の作品を登録すれば、所有権の管理や移転などが簡単かつ確実にできる。米Bindedも著作権の証明書を発行するサービスを開始している。これらのサービスは、スマートコントラクトと組み合わせれば、音楽やイラスト、写真、文章などの所有権を主張しながら、使用料を効率よく回収する手段として使えるようになる。意外性のある利用法として、遺言状をブロックチェーン上に保管し、亡くなったあとに、スマートコントラクトによって財産の分配や様々な処理を自動実行するというアイデアも出ている。

究極の権威・権力、政府の機能をシステム化

 最後に、権威と権力、信用を持つ最大の第三者機関と言える政府の機能をブロックチェーンでシステム化する動きについて紹介したい。
 IT先進国であるエストニアでは、既に行政サービスの99%をオンラインで完結させる体制を整えた。そして、多くの業務にブロックチェーンが活用されている。さらに、英国政府も徴税、福祉、パスポート発行、土地登記などへのブロックチェーンの活用を真剣に検討している。行政機関の業務の透明性向上が求められているのは、世界中同じだ。

 選挙にブロックチェーンを活用するアイデアも提案されている。米Democracy Earthは、ブロックチェーンの特徴を生かした、民意をより柔軟に汲み取る斬新な投票の仕組みを開発した(図6)。一定量の票を独自仮想通貨のかたちで各有権者に分配し、いくつかある政治課題ごとに、取り組ませたい候補者に持っている票を配分投票する仕組みである。こうした柔軟な民意の表し方を「液体民主主義(Liquid Democracy)」と呼んでいる。

図6 政治課題ごとに細かく重み付けして投票できるDemocracy Earthの投票システム
出典:Democracy Earthのホームページ

 ブロックチェーンの最初の応用である仮想通貨には、取引所へのサイバー攻撃による盗難や相場の乱高下など、とかくネガティブなイメージがつきまとっていた。しかし、仮想通貨の世評のいかんにかかわらず、ブロックチェーンが近未来の社会を支える基盤技術になることは確実だ。その活用法を考えることは、新しいビジネスモデルや社会制度を考える行為そのものになることだろう。