生産技術革新の波は宇宙開発にも

――IoTやAIを活用した効率化や高付加価値化など、ものづくりの世界に新しい潮流が出てきています。宇宙開発の現場では、いかがでしょうか。

川口氏 ありますね。例えば、ロケットエンジンを3Dプリンタで作るという話があります。構造が複雑で、これまでの加工法では非常に高価になってしまう部品の製作に向いている手法であり、コストダウンが図れる可能性があります。

 生産技術の革新は、ロケットの構造などに大きな影響を及ぼします。新材料の開発も大きな変化をもたらす要因です。これまでのロケットでは、推進剤の供給にターボポンプを使うことで、高圧高温の燃焼を実現させていました。これが、Space Xの「Falcon 9」では、ターボポンプを搭載していません。材料技術の劇的な進歩で、安価で軽くて強靭な高圧ガス容器が作れるため不要なのです。これは、大きな進化で、劇的なコストダウンにつながります。

 同じくベンチャー企業のRocket Labがニュージーランドで打ち上げた「Electron」というロケットもターボポンプの代わりに電動ポンプを使っています。これも昔は、電動ポンプは作れないし、必要な電力を供給する電源も小型化できないだろうと思われていました。ところが、リチウムイオン電池の発達と、高性能な電動ポンプが実現できるようになったのです。

変化に追随するものづくり

――これまでは宇宙開発の成果を民間応用する図式が多く見られましたが、今では民間の技術の革新が宇宙開発に役立つことが増えてきたということですね。パナソニックでは、近年の生産技術の革新によって、どのような変化が起きているのでしょうか。

小川氏 現在のものづくりの革新には、大きく2つの方向があると感じています。1つは、デジタル技術を活用して製品のQCD(品質、コスト、供給)を向上させ、同時にエネルギー消費とCO2排出量を削減することを目指したもの。もう1つは、川口さんのお話にも出てきた3Dプリンタなどを活用した、個別生産や短納期での生産を目指すものです。

 3Dプリンタなどを活用すれば、最初の1個を迅速に作ることができます。これをベースに、ニーズの変化に応じて、生産規模を100個、1000個と拡大できる新しいものづくりのプラットフォームが必要だと考えています。ゼロディフェクトや高品質を徹底追求するのではなく、お客様が求める性能を、求められる納期、ゼロクレームで迅速に提供するための仕掛けです。

 もちろん、3Dプリンタでは、金属から削り出したようなグレードの製品ができるわけではありません。それでも、金属の粉末をレーザーで焼き固め、研磨もその場で行うといったプロセス技術が進歩してきており、ニーズ次第では製品の生産に活用できるレベルにきていると思います。とてもロケットエンジンのパーツまでとは言えませんが、そのモックまでならすぐにできるのではないかと思います。

人の進歩も求められる

――新しい技術の活用が進むと、同時に必ず新たな課題も浮き彫りになると思います。技術を活用する立場から、川口さんはどのような課題を感じておられますか。

川口氏 技術の進歩に合わせて、それを活用する人の意識も変えていく必要があると思います。 宇宙開発を進めていると、時に事故が起きてしまうことがあります。事故が起きる理由には様々なものがあるのですが、技術を活用して機材を作る人が、ある種の形式主義に陥った時に起きる傾向があるように思えます。

 技術開発の持ち場の細分化が進むと、周りが見えなくなってきます。設計から組み立て、試験、運用に至るまで、自分の持ち場、扱っている技術が影響する範囲をしっかり見通せていないと、事故を誘発する要因を残してしまいます。かつては、システムの規模が小さく単純だったので、全体像を把握している人が数多くいました。これが、今ではシステムの複雑化と大規模化が進んで、1人では全体を管理しきれない状況が生まれています。

――1つひとつの部品レベルでの技術を深めること、システムとしての品質や性能を高めること、さらに両方のバランスを取ること。同時に実現することは容易ではありません。産業機器では、こうした課題に常に直面しているのではないでしょうか。

梶本氏 産業部材メーカーの視点から見ていて、お客様側で最近大きく2つの変化が起こっているように感じています。1つは、量産前に問題をすべて出し切ってしまいたいというお客様が増えてきたことです。量産前に、部品メーカーと一緒に“ゼロクレーム”な状態を作り込むことを狙っておられます。もう1つは、人口減少という社会問題にも関わることだと思いますが、人手不足に悩んでいるお客様が増えてきたということです。人手が足りないわけですから、できるだけ自分たちは一番重要な仕事に集中したいと考えるわけです。

 これら2つの変化が合わさって、新たな動きが出てきました。人手不足になった企業は、自社で開発・生産する部分を最小化しながら付加価値の高い装置を作りたいと考えます。ところが、それでも心臓部の部品の開発・製造には、自社の人材を投入しないと装置の性能がよくなりません。すると、システムを作るノウハウを、信頼できる部材メーカーに移管し、心臓部以外の部分のシステムを外部から調達したいと考えるようになるのです。

 こうした動きは国内外で進んでいます。産業部材メーカーの私たちからすれば事業範囲が広がってありがたい話ではありますが、その一方で責任が重くなってもいます。

誠実なものづくりが守れるか

川口氏 JAXAでは、今言われたようなシステムでの導入を前提とした事業をしています。正直言えば、部品だけ納入されても困ってしまうからです。宇宙用の太陽電池は高価なので、安価なメーカーから調達しています。こうした場合にも自分たちでシステムに組み込むことはできませんから、システムを製造できるメーカーに、私たちが調達した太陽電池を支給しています。

 こうした開発・生産の進め方は、システム作りに関わる自らのリスクを他に押し付けることになりかねません。単なる責任回避にならないように注意すべきだと思っています。またシステム作りを委託すると、どうしても支払う費用が上がるでしょう。予算は限られていますから、コストの上昇とともに実施するプロジェクトの数も絞らざるを得なくなってきます。

小川氏 自分のリスクを最小化しようとする傾向は、現代のものづくり全体に散見されます。しかし、心の中では誰もが、そんなことで良いものづくりなどできるわけがないとも思っているのではないでしょうか。

 責任の所在の問題が最も顕著に表れる事例の1つが自動運転車です。自動運転車が事故を起こすと、その原因が自動車そのものの設計にあるのか、制御のアルゴリズムにあるのかが分からない。特に制御にAI(人工知能)を利用していた時に、学習を進めてしまうと、事故を起こした時の状況を再現できません。それで、最近は判断のプロセスが説明可能なAIを活用すべきだという声が挙がっていますが、この実現も簡単ではありません。事故が起きた時には、関係企業それぞれに責任があることを明確に合意しておかないと、事業化できないと思います。これまでの日本のものづくりは、こうした合意が上手にできて企業間でお互いが責任を負担することで、うまく成り立っていたように思えます。

(後編「若い世代に伝えるべき技術開発の魅力」に続く)