AIやIoT、3次元プリンタ、様々な新材料――。ものづくりのあり方を根本的に変えてしまう革新的技術が続々と登場している。こうしたなか、「ものづくり大国」の看板を掲げてきた日本は、強みを発揮しつづけることはできるのだろうか。こうした疑問について議論すべく、ものづくりの大局を見ている3人の識者が集まった。1人目は日本を代表するものづくり企業であるパナソニックの小川立夫氏。2人目は産業用の機械部品および装置の分野で独自の強みを発揮するCKDの梶本一典氏。3人目は小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトマネジャーなどを務めた宇宙航空研究開発機構(JAXA)の川口淳一郎氏である。異色の組み合わせで、それぞれの視座から見える日本のものづくりの現状と課題、未来について語り合った。(文:伊藤元昭)

――日本は、世界有数のものづくり大国であると自認してきました。しかし、IoTやAIなどを活用した新しいものづくりの潮流や、高性能・高品質の製品を作る新興国企業の台頭など、日本のものづくりを取り巻く環境は激変しています。過去に培ったものづくりの強みと、今求められるものづくりの姿は合致しているのでしょうか。

(左)梶本一典氏 CKD 代表取締役社長 (中央)川口淳一郎氏 宇宙航空研究開発機構 シニアフェロー 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系教授  (右)小川立夫氏 パナソニック 執行役員 生産革新担当(兼)マニュファクチャリングイノベーション本部長 品質・環境担当

小川氏 パナソニックは、全世界に325カ所の工場を展開しています。そのなかには、莫大な数の製品を大量生産している工場もあれば、一品一様の製品を少量生産する工場もあります。生産している製品も、小さな電子デバイスから、家電製品、家屋の部材、大きな産業用機械まで様々です。お客様も一般消費者もいれば、ビジネスユーザーもいます。「うちのものづくりの強みを一言で言うと何か」と社長から問われることがあるのですが、なかなか一言では表現できません。ただし、逆を返せば、こうした生産の形が多様である点こそが特徴であり、世界の競合に対して、強みとすべき点なのではないかと考えています。

――多様なものづくりに対応できる点が、なぜ強みになるのですか。

小川氏 パナソニックは、2019年で創業100周年を迎えます。100年続けてきた経営理念に変わりはありません。ただし、101年度以降は「くらしアップデート業」という新たなコンセプトを掲げて、お客様に価値ある商品を提供することを目指します。

 これまでの家電製品は、2年や3年ごとに新機能の付加と高性能化を施した新製品を買い替えてもらうことを前提にして商売していました。しかし、いかに優れた機能や高性能を付け足したとしても、お客様のニーズが多様化するなかで、実際に活用してもらえるのは一部の機能や性能にすぎません。このような無駄が多いものづくりは、持続的社会の実現に貢献できませんし、世界の消費者も望んでいないと思うのです。そこで、多様なものづくりができる強みを生かして、お客様のライフステージに合わせて、本当に求められる機能・性能へとアップデートしていける商品の提供を目指したいと考えています。

変化への対応力が欠かせない

――時代が求めるものづくりの強みはあるが、提供する価値の視点を大きく変える必要があるということですか。CKDは、日本企業の競争力が高い産業機器の分野に深く関わっています。特に半導体製造装置用バルブなどでは高いシェアを得ているとお聞きしていますが、創業時は別の製品を手掛けてました。どのようなキッカケで、高度な部材作りの世界に入っていったのでしょうか。

梶本氏 当社は、1943年にゼロ戦のプロペラを制御する機械を作るために国策会社として設立されました。その後、社外からの依頼で真空管製造装置や自動車用ヘッドランプの製造装置を製作し、これらをテコに装置分野に進出しました。当初、装置を構成する部品はすべて米国から輸入していました。ところが、品質が悪く、納期も遅く、しかも価格が高いことが悩みの種だったのです。そして、見よう見まねで、自分たちで部品を作って使うようになりました。私たち自身が、高性能・高品質の産業部材を求めていたわけです。

 そうして自社が求める部材を作って、技術を磨くうちに、「この部品だけを売ってくれ」という要望が舞い込むようになりました。そこで、お客様が求める仕様に沿った外販用産業部材を作り始め、現在では部材販売の売り上げが全体85%を占めるまでになりました。特に、エアーや液体などの流れを制御するバルブは、多様な機器で活用されています。例えば、半導体製造装置のような産業機器や洗濯機のような民生機器、トイレの洗浄便座やコンビニに置いてあるコーヒーサーバーなどにも当社のバルブが使われていました。

――装置のレベルを高めるために、部材のレベルアップから手を付けるというのは日本企業らしいところですね。産業部材では、性能や品質での強みは、これからも継続できるものなのでしょうか。

梶本氏 簡単ではありません。産業機械の分野は、求められる技術や商品が時代と共に大きく変わる世界です。例えば、ほんの十数年前までは、液晶パネルのバックライト向け光電管を作る装置に多くの注文を頂いていました。しかし、バックライトの光源がLEDに置き換わったことで、注文がゼロになってしまいました。産業機械のビジネスには、こうした急激な変化を乗り越える力が求められるのです。

 当社の原点はお客様の困りごとに応えるものづくりにあります。元々、エアーで制御するバルブなどに強みがある会社なのですが、最近では、お客様に求められるままに、電気で動かすダイレクトドライブ・モーターや、直動式電動アクチュエーターなども手掛けるようになりました。私たち自身が変化し続けることが何より重要だと考えています。

高品質化には相応のコストが掛かる

――産業機器の分野は、流行りすたりの激しい民生機器に比べるとずっと安定していると思っていました。むしろ、ニーズの変化への対応力が求められるのですね。JAXAは、ものづくりの世界で生み出された技術を最先端分野に応用したり、逆にJAXAの成果を民間のものづくりに展開したりする立場にあると思います。宇宙開発の現場からは、今のものづくりの世界はどのように見えているのでしょうか。

川口氏 宇宙開発は、ものづくりの世界とはかなり離れているというのが正直なところです。宇宙開発は、政府の要求や研究者のインスピレーションを起点にして始まります。JAXAは、企画を立ち上げて、プロジェクトを管理することに徹しています。

 新たな機材を発注する際には、まず三菱重工や三菱電機、NECなど大企業中心のコントラクターに発注します。ただし、大きなコントラクターには製造部門がなく、そこからサブコントラクターに委託して、実際に機材を製造してもらうことになります。このため、JAXAから見ると、ものづくりの現場は2階層先にあり、触れる機会が少ないのが実態です。宇宙開発は、情報、電子、機械、化学、材料といった様々な技術を集めた総合エンジニアリングです。このため、特定分野の企業と密に接していては全体を俯瞰できなくなる恐れがあります。ものづくりの現場に触れにくくなるのは、仕方がない面があります。

――宇宙開発におけるものづくりで、最も重視すべき価値とは何なのでしょうか。

川口氏 JAXAが担う重要な役割として、プロジェクトの成果を得るための品質保証活動があります。この部分は、宇宙開発をものづくりの観点から見た時の、最も特徴的な点になるかと思います。

 私たちは、国民の税金を使ってロケットを上げています。当然、厳しいコスト管理が要求されます。ロケットなど機材はすべて消耗品です。打ち上げで1cm浮き上がれば、その瞬間に破棄したことになります。しかも、作っているものも極端な少量生産であり、膨大なコストと長い時間を掛けて開発・製造します。このため、失敗する要素を徹底的に排除した極限の高品質を求めるものづくりをする必要があります。

 悩ましいのは、この品質保証には相応のコストが掛ることです。そもそも、99%の成功率が得られる超高品質な部品と90%の成功率が得られるほどほど高品質な部品では、価格が10倍は違います。また、品質保証を万全にするためには、検査、試験に人を掛ける必要があります。世の中に魔法はありません。こうした工数を省くと、それだけ信頼性が下がってしまうのです。ここが最大の課題です。現在、民間の宇宙開発が注目されていますが、最も重要な点は、いかに品質保証をするかだと思います。人工衛星やロケットの機能を作るだけならば民間でもできるかもしれませんが、品質を高めて失敗を最小化する点が難しいのです。

生産技術革新の波は宇宙開発にも

――IoTやAIを活用した効率化や高付加価値化など、ものづくりの世界に新しい潮流が出てきています。宇宙開発の現場では、いかがでしょうか。

川口氏 ありますね。例えば、ロケットエンジンを3Dプリンタで作るという話があります。構造が複雑で、これまでの加工法では非常に高価になってしまう部品の製作に向いている手法であり、コストダウンが図れる可能性があります。

 生産技術の革新は、ロケットの構造などに大きな影響を及ぼします。新材料の開発も大きな変化をもたらす要因です。これまでのロケットでは、推進剤の供給にターボポンプを使うことで、高圧高温の燃焼を実現させていました。これが、Space Xの「Falcon 9」では、ターボポンプを搭載していません。材料技術の劇的な進歩で、安価で軽くて強靭な高圧ガス容器が作れるため不要なのです。これは、大きな進化で、劇的なコストダウンにつながります。

 同じくベンチャー企業のRocket Labがニュージーランドで打ち上げた「Electron」というロケットもターボポンプの代わりに電動ポンプを使っています。これも昔は、電動ポンプは作れないし、必要な電力を供給する電源も小型化できないだろうと思われていました。ところが、リチウムイオン電池の発達と、高性能な電動ポンプが実現できるようになったのです。

変化に追随するものづくり

――これまでは宇宙開発の成果を民間応用する図式が多く見られましたが、今では民間の技術の革新が宇宙開発に役立つことが増えてきたということですね。パナソニックでは、近年の生産技術の革新によって、どのような変化が起きているのでしょうか。

小川氏 現在のものづくりの革新には、大きく2つの方向があると感じています。1つは、デジタル技術を活用して製品のQCD(品質、コスト、供給)を向上させ、同時にエネルギー消費とCO2排出量を削減することを目指したもの。もう1つは、川口さんのお話にも出てきた3Dプリンタなどを活用した、個別生産や短納期での生産を目指すものです。

 3Dプリンタなどを活用すれば、最初の1個を迅速に作ることができます。これをベースに、ニーズの変化に応じて、生産規模を100個、1000個と拡大できる新しいものづくりのプラットフォームが必要だと考えています。ゼロディフェクトや高品質を徹底追求するのではなく、お客様が求める性能を、求められる納期、ゼロクレームで迅速に提供するための仕掛けです。

 もちろん、3Dプリンタでは、金属から削り出したようなグレードの製品ができるわけではありません。それでも、金属の粉末をレーザーで焼き固め、研磨もその場で行うといったプロセス技術が進歩してきており、ニーズ次第では製品の生産に活用できるレベルにきていると思います。とてもロケットエンジンのパーツまでとは言えませんが、そのモックまでならすぐにできるのではないかと思います。

人の進歩も求められる

――新しい技術の活用が進むと、同時に必ず新たな課題も浮き彫りになると思います。技術を活用する立場から、川口さんはどのような課題を感じておられますか。

川口氏 技術の進歩に合わせて、それを活用する人の意識も変えていく必要があると思います。 宇宙開発を進めていると、時に事故が起きてしまうことがあります。事故が起きる理由には様々なものがあるのですが、技術を活用して機材を作る人が、ある種の形式主義に陥った時に起きる傾向があるように思えます。

 技術開発の持ち場の細分化が進むと、周りが見えなくなってきます。設計から組み立て、試験、運用に至るまで、自分の持ち場、扱っている技術が影響する範囲をしっかり見通せていないと、事故を誘発する要因を残してしまいます。かつては、システムの規模が小さく単純だったので、全体像を把握している人が数多くいました。これが、今ではシステムの複雑化と大規模化が進んで、1人では全体を管理しきれない状況が生まれています。

――1つひとつの部品レベルでの技術を深めること、システムとしての品質や性能を高めること、さらに両方のバランスを取ること。同時に実現することは容易ではありません。産業機器では、こうした課題に常に直面しているのではないでしょうか。

梶本氏 産業部材メーカーの視点から見ていて、お客様側で最近大きく2つの変化が起こっているように感じています。1つは、量産前に問題をすべて出し切ってしまいたいというお客様が増えてきたことです。量産前に、部品メーカーと一緒に“ゼロクレーム”な状態を作り込むことを狙っておられます。もう1つは、人口減少という社会問題にも関わることだと思いますが、人手不足に悩んでいるお客様が増えてきたということです。人手が足りないわけですから、できるだけ自分たちは一番重要な仕事に集中したいと考えるわけです。

 これら2つの変化が合わさって、新たな動きが出てきました。人手不足になった企業は、自社で開発・生産する部分を最小化しながら付加価値の高い装置を作りたいと考えます。ところが、それでも心臓部の部品の開発・製造には、自社の人材を投入しないと装置の性能がよくなりません。すると、システムを作るノウハウを、信頼できる部材メーカーに移管し、心臓部以外の部分のシステムを外部から調達したいと考えるようになるのです。

 こうした動きは国内外で進んでいます。産業部材メーカーの私たちからすれば事業範囲が広がってありがたい話ではありますが、その一方で責任が重くなってもいます。

誠実なものづくりが守れるか

川口氏 JAXAでは、今言われたようなシステムでの導入を前提とした事業をしています。正直言えば、部品だけ納入されても困ってしまうからです。宇宙用の太陽電池は高価なので、安価なメーカーから調達しています。こうした場合にも自分たちでシステムに組み込むことはできませんから、システムを製造できるメーカーに、私たちが調達した太陽電池を支給しています。

 こうした開発・生産の進め方は、システム作りに関わる自らのリスクを他に押し付けることになりかねません。単なる責任回避にならないように注意すべきだと思っています。またシステム作りを委託すると、どうしても支払う費用が上がるでしょう。予算は限られていますから、コストの上昇とともに実施するプロジェクトの数も絞らざるを得なくなってきます。

小川氏 自分のリスクを最小化しようとする傾向は、現代のものづくり全体に散見されます。しかし、心の中では誰もが、そんなことで良いものづくりなどできるわけがないとも思っているのではないでしょうか。

 責任の所在の問題が最も顕著に表れる事例の1つが自動運転車です。自動運転車が事故を起こすと、その原因が自動車そのものの設計にあるのか、制御のアルゴリズムにあるのかが分からない。特に制御にAI(人工知能)を利用していた時に、学習を進めてしまうと、事故を起こした時の状況を再現できません。それで、最近は判断のプロセスが説明可能なAIを活用すべきだという声が挙がっていますが、この実現も簡単ではありません。事故が起きた時には、関係企業それぞれに責任があることを明確に合意しておかないと、事業化できないと思います。これまでの日本のものづくりは、こうした合意が上手にできて企業間でお互いが責任を負担することで、うまく成り立っていたように思えます。

(後編「若い世代に伝えるべき技術開発の魅力」に続く)