中小企業(製造業)を元気にしたいとの想いが込められた月額490円(1ライセンス,税別)のグループウェアが登場した。仕掛け人はドラマ「マチ工場のオンナ」で有名となったダイヤ精機の諏訪貴子社長だ。現場目線で開発したグループウェア「Lista(リスタ)」の提供を通じて、IT化や効率化がなかなか進まない中小製造業の力になりたいと考える諏訪社長の想いを聞いた。(文:関行宏)

ダイヤ精機 代表取締役社長 諏訪貴子氏
(撮影:栗原克己)

―― 2017年11月からNHKで放送されたドラマ「マチ工場のオンナ」のモデルとしても知られ、その時の経験をベースに中小企業における事業継承をテーマにした講演も多い諏訪社長ですが、中小製造業向けのグループウェアを開発したと聞きました。

諏訪氏 そうなんです。「Lista(リスタ)」(https://www.lista.cloud)という中小製造業向けコミュニケーションツールを開発して、2018年12月に自社で先行的に導入したのち、2019年1月30日に一般リリースしました。

 うちのような中小製造業は、大手メーカーのように情報活用やIT基盤にお金を掛けることは、なかなかできません。町工場が集まっている大田区でも、公的な補助金制度を使ってようやく生産管理システムを入れました、といったレベルの企業が少なくないと思います。でも、産業の構造が大きく変わってきている今、中小製造業にもITが必要なんです。今や私たちは仕事が降ってくるのを待つのではなくて、経営者自らが外に出てニーズを捉えてトップセールスをやるしかないんですけど、会社の状態を的確に把握する仕組みがないと安心して外に出ていけませんよね。私自身がそういうツールが欲しかったというのもあって、ほかの中小製造業の皆さんの助けにもなると思って、ソフトウェアベンダーのテクノア(本社・岐阜市)さんと共同で開発しました。

(撮影:栗原克己)

―― すでに様々なグループウェアが市販されているなか、精密金属加工を本業とする諏訪社長が、敢えてソフトウェアの開発に踏み切った背景や想いをもう少し具体的に教えてください。

諏訪氏 父(故・諏訪保雄氏)が急逝して私がダイヤ精機を引き継いだ2004年からの状況を見ていると、2008年のリーマンショックのあとぐらいから、お客様である大手メーカー各社の動きが均一化してきたように感じるんです。これまでは業界や企業によって繁忙期と閑散期の波にずれがあったんですけど、最近は各企業の年度が切り替わる4月から6月は受注が減って、7月ぐらいから徐々に増え出して、年末を控えた10月頃から年度末の3月までものすごく忙しくなるパターンが定着してきています。ある時期になるとワーッと仕事が来て、しかもどれも特急納期で、時期が終わるとワーッと波が引いていく状況です。

 もちろん、われわれとしてはお客様の都合に合わせていかないといけないわけですが、あとどのぐらいの案件なら引き受けられます、納期はこれぐらいになりそうです、といった社内の状況が把握できていないとお客様に対応できません。工場側も、いつ頃どんな案件が入りそうか、という情報があった方が作業を進めやすくなります。また、そうした情報が集約されていれば、先ほども言ったように経営者も会社の状況がすぐに分かります。中小製造業ならではの情報共有や情報管理が必要と考えて、自社で活用するのと合わせて、外にも提供しようと考えたのがきっかけですね。

 中小の製造業は機械(設備)を回してナンボのところがあるので、人を集めてミーティングする時間すらもったいないんですよ。口頭だと言った言わないという問題もおきがちですし、そもそも私自身が「そんな話は聞いてませんでした」って社員が言ってくるのがすごく嫌いなんです(笑い)。全員でしっかりと情報が共有できて、経営者も会社の中で何が起きているかが分かるツールが欲しかったんです。

 
(撮影:栗原克己)

中小企業が情報活用に払える金額はワンコインまで

―― Listaはアカウントあたりの利用料が月額490円(税別)と、他のグループウェアに比べるとかなり安価であるように感じますが、どういった考えで価格を決めたの でしょうか?

諏訪氏 Listaが役立つのは従業員が10人から100人規模の製造業だと思っています。そういう規模の企業が情報管理や情報共有のためにどのぐらいお金を出せるかと考えると、例えば30人の会社の場合でおそらく1か月1万5000円が上限なんですよ。2万円は出さないだろうと。そのぐらいが中小企業経営者の感覚だと思います。そこから逆算して、アカウントあたりの利用料をワンコインで収まる490円にしました。実はListaはセキュリティや安定度を考えてAmazonのAWS(アマゾン ウェブ サービス)上に構築していて、しかも外部の業者に頼んで24時間の監視を行っています。今後どこまでユーザーが増えるかにもよりますけど、この金額だとクラウドの運営費ぐらいにしかならないんです。

(撮影:栗原克己)

―― 30人の会社で社内の情報共有に投資できる額が月2万円でも厳しいというのは、大手企業の感覚ではなかなか理解しづらいところかもしれませんね。ところで、Listaの開発に当たっては、開発費も相当掛かっているのではないでしょうか。

諏訪氏 開発には総額で数千万円ほど掛かっています。さっきも言ったように利用料金のほとんどはクラウドの運用費に消えていくので、全体で見たら真っ赤っ赤なんです(笑)。開発費が回収できなくても、中小の製造業のために何かを残したかったので、そこはしょうがないなと。その代わり、中小製造業にとって必要と思われる機能だけを実装しているので、メニュー文字列のカスタマイズぐらいは別料金で対応できても、機能を大きく変えるような自由度はありません。いずれにせよ、アカウントあたり月額490円なので、まずはお試しで使ってみてって皆さんには言ってます。使いにくければやめればいいだけの話ですから。

―― 御社の規模からすると数千万円もの開発費は投資としては巨額にあたると思うのですが、そこまでして開発を決断したのは、やはり既存のツールが中小企業には適さないという認識があったのでしょうか。

諏訪氏 ダイヤ精機では社内の情報共有のために2015年に市販のツールを導入したんですけど、実際に入れてみるととにかく使いづらかったんですよね。設定だけでも大変で、さらに工場に定着させるのも大変で、結局最後は私ともうひとりの社員ぐらいしか使わない状況になってしまいました。IT畑の人って「ワークフロー」とか「ワークスペース」といった用語を使いがちですけど、使う方からすると、それって何?ってなりますよね。

 さらに、どのファイルやフォルダに何の情報を入れるかを、あらかじめ全員に指示しておかないといけない場合もあるわけです。ITにそれほど詳しくない社員もいて、しかも専任のシステム管理者を置けない中小企業の場合、分かりにくかったり、使いにくかったり、設定が必要なソフトウェアを導入するのは難しいんですよ。ですからListaの開発では、インストールのようなわずらわしい作業を必要とせずに、誰もがログインしたらすぐに使えるところを目指しました。

「Lista」のトップ画面

メニュー名やデザインにこだわる

―― Listaでは使いやすさを追求したとのことですが、中小の現場目線で工夫したところを具体的に教えてください。

諏訪氏 まずひとつがクラウドでの提供です。パッケージソフトウェアにしてしまうとインストールが必要になりますし、使える環境も限られてしまいますが、クラウドならブラウザとインターネットさえあれば、スマートフォンやタブレットを含むどのマシンからでも、場所や時間を問わずにアクセスできます。メニューをたどらなくてもいいように、トップ画面にすべてを集約したのも工夫のひとつです。

 色使いにもこだわって、明るめの配色にしています。人間って可愛いものを見ると生産効率が30%も上がるそうなんですけど、毎日使うツールだからこそ、優しくて明るい色の方が生産効率が上がりそうじゃないですか。メニューやアイコンも分かりやすさに配慮しました。たとえば「プロジェクト」という用語は使わずに「テーマ・課題管理」にしていますし、掲示板機能も「設計掲示板」と「工場掲示板」に分けて、どの情報がどこにあるか、どの情報はどこに書けばいいかを明確にしています。ファイルやフォルダを指定するような操作は不要ですし、導入にあたって使い方を周知しなくても直感的に使えるようにとの考えですね。うちの社員からも意見を集めて反映しました。

(撮影:栗原克己)

―― 現場にITを導入する場合、それまでの業務のやり方が変わることもあってすんなりとは受け入れてもらえないといった話をよく耳にします。ドラマ「マチ工場のオンナ」や原作となった『町工場の娘』(諏訪貴子著・日経BP社)でも、生産管理システムの導入では難しさがあったことが描かれています。

諏訪氏 私がダイヤ精機を継いだ2004年にパッケージの生産管理システムを導入しましたが、やはり現場からは「そんなものは要らない」という声も出て、活用してもらうまでにはそれなりの苦労がありました。すべての機能を一気に使うのは無理と感じたので、まずは進捗の見える化だけやりましょうと。それができたら原価の見える化をやりましょうと。人間って14日間同じことをやり続けると習慣になるそうなので、現場の人にひとつずつ成功体験を積んでもらって、習慣になったら次に進めていったんですよ。Listaを直感的に使えるようにしたのも、導入や定着で苦労した経験があったからなんですよね。

「『竜馬がゆく』に感化されました」

―― 中小の製造業がListaを活用することで、どんな変化を期待していますか?

諏訪氏 製造業は常に若返りをしていかないといけません。とはいえ、若返りをすると生産性は落ちてしまいます。なぜだろうと思ってダイヤ精機の社員を対象にして研究したことがあるんですけど、加工時間自体はベテランも若手もほとんど変わらないんです。何が違うかというと、図面を見た時に考える時間の長さなんですね。ベテランは図面を見て、これはこういう段取りでこういう刃物を使えばいい、というのをすぐに判断できるんですけど、若手は時間が掛かるんです。しかも、当人が成長するまで解決されないんですよ。

 であれば、作業の効率を上げるのではなくて、違うところのムダを削った方がいいんじゃないかと。そのひとつの手段として、情報の伝達効率を高めたり、情報を探すムダを削るためにListaを活用してもらいたいという想いですね。そうすれば、若返りを図りながらも生産性は落とさずに済んで、いずれ若手がベテランになった時にはその会社はもっと強くなっているはずなんです。

―― 先ほども出たように多額の投資をしてまで諏訪社長を突き動かす原動力はどこにあるのでしょうか。

諏訪氏 実は司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで感化されちゃったんです(笑い)。この国を変えるじゃないですけど、中小の製造業に改革を起こすには私利私欲よりも覚悟や大義が必要だと。まぁ私なんかが中小企業の活性化を言うのもおこがましいんですけど、みんなで力を合わせて生き残っていかないといけない。その想いだけですよね。

――最後にこれからの展望を聞かせてください。

諏訪氏 Listaは2019年1月末にリリースしたばかりですし、最初の1か月間は無償で提供しているので、本登録がどれぐらいになるかまだ分からないんですけど、10社ぐらいはお試しで使ってくださっているようです(編集部注:インタビューは2019年2月末に実施)。もっと広く知っていただくために、いろいろな機会を見つけて宣伝もしていきます。それと、予算の問題があってまだ着手はできていませんが、いずれはスマートフォン用アプリも開発していきたいと考えています。月額490円ですし、ダメだったらやめればいいので、LINEを使うような気軽な感覚でListaを使っていただきたいと思っています。

(撮影:栗原克己)